Japanese
brainchild's
2016年09月号掲載
Writer 沖 さやこ
若者しか持ちえない感性があり、大人になればなるほど感性は衰える――10代のころの私はその言葉を信じてやまず、大人になることが憂鬱だった。20代のときは"うわー、もう23歳だよ、おばさんじゃん"なんて思ったりしていて、大人という言葉に釣り合わない自分自身にも落ち込んだ。だが若者とも言えず中年でもない30歳という年齢を超え、幼いころに想像していたような立派な大人になっているかどうかはさておき、ようやく若者と大人のことを冷静に見られるようになってきた。若者にしか作れない音楽があるのはもちろんそうで、感性だけで言えば大人は若者に適わないのかもしれない。だが大人にはその差をカバーする武器がある。それは経験だ。
2016年に入り15年ぶりの活動再開を発表し、アリーナ・ツアーも大型夏フェス出演も大盛況だったTHE YELLOW MONKEYのギタリスト、菊地英昭のソロ・プロジェクト"brainchild's"。菊地が、"ソロでもなくバンドでもなく自分の考えていることを表現できる場を作りたい"と考え2008年に立ち上げたこのプロジェクトはメンバーも流動的で、まさしく"brainchild(=思いつき)"という言葉どおりの型にとらわれないものとなった。そんな菊地の2016年の思いつきは、リード・ヴォーカルにFoZZtoneの渡會将士、ベースに鶴の神田雄一朗、ドラムにJake stone garageの岩中英明を招いたメンバー編成。2月にリリースされたミニ・アルバム『HUSTLER』は全員でスタジオに入り制作をしていたようで、菊地がすべての作曲を手掛けていながらも、これまでのbrainchild'sに比べるとメンバー個々のカラーが出た、バンドとしての意味合いが強いものになった。THE YELLOW MONKEYを再結成した年に、それを実行してしまうところも小気味よい。
『HUSTLER』を引っ提げて、3月5日から札幌を皮切りに全国9ヶ所に及ぶライヴ・ツアー"brainchild's TOUR 2016 G?"を開催。9月14日にリリースされるニュー・アイテムのライヴDVD『brainchild's TOUR 2016 G? HUSTLE MUSCLE』は、その日程の真ん中にあたる3月19日に開催された恵比寿LIQUIDROOM公演の模様を収録したものだ。
前衛3人は黒いジャケットに身を包み、硬派な大人ハード・ロック然としているが、序盤4曲で"ん? このバンドは渋いと言ってしまうにはフレッシュだし、めちゃくちゃみんな自然体だし、楽しそうじゃないか"と思い始める。1曲目は『HUSTLER』のオープニング・ナンバー「Phase 2」、2曲目は菊地がメイン・ヴォーカルを務める「改進~カスタマイズ~」。緊張感というよりは4人全員がのびのびとしていた。高校で廊下を歩いていたらバンド演奏が聴こえてきて、その教室を覗いてみたら男子4人が音を出して遊んでいるようなラフさ。とはいえ、ちゃんと演奏が締まっているのは、冒頭でも言った"経験"の成せる業なのだ。新旧織り交ぜたベスト・アルバムのようなセットリストで、4人全員のコーラス・ワークを積極的に取り入れていた曲が多いのも特徴のひとつ。そのハーモニーがまた、のびのびとした空気をさらに鮮やかに染め上げていた。
菊地はTHE YELLOW MONKEYの活動が、あとの3人もそれぞれの活動がある。そんな多忙でキャリアのある4人が集まるということは、このメンバーでしかできないことがあり、胸を高鳴らせているからだろう。メンバーを横目に見て微笑みながらスマート且つ熱いギターを鳴らす菊地と、ヴォーカルで魅せるだけでなく、タンバリンに腕を突っ込んでぐるぐる回しながらハンドマイクで歌うなど、フロントマンとして様々な振る舞いを見せる渡會。クールな態度でありつつ跳ねるベースを鳴らす神田に、それを後ろから見守りながら鋭いドラムを叩く最年少の岩中。出たとこ勝負のコール&レスポンスも、全員がハプニングも含めて楽しんでいることが窺えた。菊地がヴォーカルを務める名曲「まん中」がセットリストの真ん中なところもお茶目である。好奇心に突き動かされる大人の姿には余裕と青春の2語が相応しい。様々な経験を経て、好奇心とまだまだ楽しいと思える感性を持てる――そんないかした大人たちにしか作れない幸福感が、このライヴにはあったのではないだろうか。
▼リリース情報
brainchild's
ライヴDVD
『brainchild's TOUR 2016 G? HUSTLE MUSCLE』
2016.09.14 ON SALE
POBD-60534 ¥4,860(税込)
仕様:トールケース/DVD
[Brainchild's Music]
amazon | TOWER | HMV
[収録予定楽曲]
・Phase 2
・改進~カスタマイズ~
・Mr.ロンリー
・フラブラモヤ
・The Cage
・Rolling Rola
・群衆
・ALL MY LIFE
・まん中
・PANGEA
・Wanna Go Home
・Blow
・Go Away
・君がいて笑って、
・春という暴力
・球地
・Rock band on the beach
・撲滅ゲーム「パラダイス」
※BONUS:副音声収録あり
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