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LIVE REPORT

Japanese

緑黄色社会

Skream! マガジン 2019年08月号掲載

2019.06.14 @LIQUIDROOM ebisu

Writer 秦 理絵

自分たちが心から敬愛するバンドを招き、一緒にひとつの空間を作り上げる。そんな想いを大切に育んできた緑黄色社会の自主企画イベント"緑黄色夜祭"が今回で9回目を迎えた。初回は2013年。しばらくは地元名古屋のみの開催だったが、昨年から初めて東名阪に規模を拡大(残念ながら、昨年の大阪公演は台風のために中止だった)し、今年は名古屋にSaucy Dog、大阪にネクライトーキー、東京にマカロニえんぴつという、いずれも2019年ブレイク・バンドの筆頭に名前が挙がる要注目の3バンドを迎えて行われた。今回は、リョクシャカ(緑黄色社会)と同じく鍵盤を擁するロック・バンドとして、独自の音楽性を確立しつつあるマカロニえんぴつを迎えた、LIQUIDROOM ebisu公演の模様をレポートする。

まず先攻のマカロニえんぴつは、THE BEATLESの「Hey Bulldog」のSEに乗せてメンバーが登場すると、はっとり(Vo/Gt)が"東京ー!"と叫び、初っ端から開放的なサビが痛快なライヴ・アンセム「鳴らせ」でスタート。メンバーの個性がユニークに折り重なる、一筋縄ではいかないマカロニえんぴつ流のロックが会場をじわりと温めていく。長谷川大喜の軽やかなピアノでワッと歓声が上がったのは、「レモンパイ」。はっとりのハスキーなヴォーカルは、時に伸びやかにメロディを紡いだかと思えば、高野賢也が繰り出す躍動感のあるベースの上を自由にラップしたりと、自由自在に変化していき、その先の読めないアレンジに、このバンドの音楽に対する造詣の深さと捻くれた感性を感じる。

"マカロニサラダです! ......今日だけ"と、緑黄色社会との対バンに寄せたあいさつで会場を和ませたはっとり。MCでは、リョクシャカとの付き合いは、5年前に新宿Marbleで初めて対バンをした頃からだったと感慨深そうに語った。前述の「レモンパイ」と対になるような女性目線のポップ・ソング「ブルーベリー・ナイツ」のあと、エレキ・ギターと声だけで歌い出した「青春と一瞬」はテンポこそミディアムだが、その端々に退屈でくだらない"青春"の衝動が詰まった名演だった。"もう二度と拾いに戻れない、そんな過去をものすごく愛おしく思います"と伝えた「two much pain」では、はっとりの熱いヴォーカルに寄り添う田辺由明の哀愁を帯びたギターがその歌の切なさをいっそう強く駆り立てる。

前半はしっかりと聴かせる曲を続けたあと、"俺たちロック・バンドなんですよー! ......こんなキャラじゃなかった(笑)"と言うと、「洗濯機と君とラヂオ」からは、ハイテンポで賑やかな楽曲を畳み掛けて後半戦へ。一気に沸くフロアの様子にメンバーの笑みがこぼれた。残り1曲を残して、最後のMC。"腐りやすい生モノが、微妙に温度調整の効かない腐りやすい冷蔵庫の中で、よくもまぁ5年越しに生き残って対バンできたなぁと思います。賞味期限をガン無視して必要としてくれたあなたたちのおかげだと思います"と、再びリョクシャカとの対バンに寄せて、バンドを食べ物に例えたはっとりらしい切り口で感謝を伝えると、ラスト・ソングは「ミスター・ブルースカイ」。大きな喪失から踏み出そうとする涙色のブルースでゆったりとフロアを揺らして、次の緑黄色社会へとバトンを託した。

緑黄色社会のオープニングを飾ったのは「あのころ見た光」。躍動感のあるバンド・サウンドに乗せて早速フロアから沸き上がった"ラララ"の歌声を、長屋晴子(Vo/Gt)は大きく両手を広げて受け止めていた。"いい時間にしようね!"と長屋がまるで友達に語り掛けるような親密さでフロアに呼び掛けたあと、ステージをカラフルな光で彩ったのは「にちようび」。朗らかな日曜の午後にぴったりの陽性のポップ・ソングの中で、peppeのクラシカルなピアノが踊る。すかさず、ステージ際へと歩み出た小林壱誓が、熱いギターでフロアを魅了。穴見真吾(Ba/Cho)のスラップもクールに決まった。学生時代に活動を始めたリョクシャカも、今年で結成から7年。すでにマイナビBLITZ赤坂でのワンマン・ライヴを行えるまでに成長したバンドの実力が、前半から一気に解放されていく。

"マカロニえんぴつの音楽が大好きなのでラヴ・コールをしました。一緒にできて本当に良かったです"と念願のマカロニえんぴつとの対バンに寄せる熱い想いを伝えた長屋。裏切られた恋をスリリングに描いた「逆転」からは、リョクシャカのダークな部分が浮き彫りになる。バンド初期からライヴに欠かせない「アウトサイダー」はいっそう鋭利に研ぎ澄まされ、peppeのシンセをフィーチャーした混沌としたダンス・ナンバー「Never Come Back」では、穴見がステージを所狭しと暴れまわり、アグレッシヴなベースを繰り出す。切ないラヴ・ソングも、20代の決意を綴った等身大のナンバーも、心の闇を抉るような刹那的な楽曲も、その感情に見合う最適なアレンジを選びとり、どこまでも自由にジャンルを飛び越えてゆくところに、緑黄色社会というバンドの器の大きさを感じる。

2回目のMCでも、リョクシャカからマカロニえんぴつに注ぐ愛が止まらない。"本当にマカロニえんぴつが好きだから、一方通行かと思ってたけど、MCで私たちのことを話してくれたのが本当に嬉しかった"(長屋)、"覚えてくれてたんだね"(小林)と、メンバー同士の和気あいあいとしたトークを繰り広げたあと、5月にリリースした最新作『幸せ -EP-』から届けた大切なバラード「幸せ」は素晴らしかった。揺るぎない"幸せ"なんてないと知りながら、それでも幸せを願わずにはいられない、長屋らしいラヴ・ソング。力強く歌い上げたその歌の終わりを、peppeのピアノの伴奏だけで、"必ずその手を離さないでと/口を滑らせてしまうと思う"と、そっと締めくくるところが堪らなく切なかった。

終盤は「Bitter」や「Alice」という疾走感溢れるライヴ・アンセムで、しっとりとした会場のムードを一気にロックな空間へと塗り替えると、「始まりの歌」で特大のシンガロングを巻き起こして本編は幕を閉じた。"もう止まらないさ/見たことのない世界目指して"と、フロアに集まったお客さんの表情をしっかり見ながら伝えた想いは、今バンドが抱く前進の意志そのものだろう。アンコールで再びメンバーがステージに現れると、"「緑黄色夜祭」をもっともっと大きくするのが、私たちの夢"と伝えた長屋。地元名古屋の新栄SiX-DOGに始まり、回を重ねるごとに大きな会場へと場所を移してきた"夜祭"だが、まだまだここが到達点ではない。さらに大きな場所で再会を果たす約束の歌として、最後は「またね」で終演。目一杯の幸せが詰まったこの場所が、バンドの成長と共に広がってゆく未来が楽しみだ。

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