Skream! | 邦楽ロック・洋楽ロック ポータルサイト

MENU

INTERVIEW

Japanese

いきものがかり

2023年12月号掲載

いきものがかり

Member:吉岡 聖恵(Vo) 水野 良樹(Gt/Pf)

Interviewer:藤坂 綾 Photographer:Kanda Yukiya

ふたり体制になったいきものがかりが、10枚目のアルバムを12月13日にリリース。タイトルは"〇"(まる)。人気アニメ"プリキュア"とのコラボとなった両A面シングル『うれしくて/ときめき』(2023年9月リリース)などタイアップ曲を含めた全12曲には、どんな自分も肯定し、どんな自分にも"〇"をつけていこうという、優しくも力強い想いが込められている。このアルバムが完成に至るまで、そして完成しての想いを、水野良樹と吉岡聖恵に訊いた。


世の中の暗い部分もちゃんと見つめたうえで書いてるから、私は信じて歌えるんです


-ふたり体制初、10枚目のアルバム、ご自身たちにとってどんなアルバムになりましたか。

水野:10枚目でメモリアルなアルバムではあるんですけど、ふたり体制での初めてのアルバムということで、過渡期であるいきものがかりをちゃんと出せたんじゃないかと思っていて。サウンド面でも新しいミュージシャンやサウンド・プロデューサーの方々とご一緒することができたので、発展途上の自分たちを見せることができたアルバムになったと思います。

吉岡:今回はチャレンジしたという点でも新鮮だったし、できあがった曲のラインナップを見ても新鮮さがあるんですよ。ほとんどの曲をリーダー(水野)が録ってくれたというのもすごく新鮮だし。今までお世話になってきたアレンジャーさんもいるし、新しい方もいるし、そういうところも新鮮さを感じる要因だと思うんですけど、新鮮な気持ちがいっぱいで、気分は"〇"です(笑)。

-チャレンジした部分というのは具体的にどういうところです?

水野:すごく細かいことなんですけど、吉岡の歌い方や声質が年齢や経験とともに変化していくなかで、さらには今までご一緒したことのないサウンド・プロデューサーの方々と楽曲を作っていくなかで、普段使っているマイクとは違うものを使ってみたり、歌の録り方をちょっと変えてみたりしたんです。彼女の歌の魅力ってまっすぐさだったり、歌で歌詞の内容をどれだけはっきり伝えられるかというところなんですけど、そういう大事な部分はちゃんと残しつつ、どれだけ力を抜くかとか、どれだけダイナミクスをつけるかとか、そういうところを前よりも細かくふたりでやりとりをしながら作っていったというのは、今までとは違うかなと。楽曲作りで言うと、今回1曲目(「誰か」)で映画音楽家の世武裕子さん、「やさしく、さよなら」でジャズ・ピアニストの林 正樹さんにアレンジをしていただいたんですけど、この方たちに曲を預けることを想像しながら書いていったんです。例えば世武さんだったらこういうふうに広げてくれるんじゃないかとか、林さんのピアノに吉岡の声が乗っかったらこういうふうになるんじゃないかとか、そういうイメージをしながら曲作りをしてて。今までだったら、曲ができあがってから"どなたに預けようか"という順番だったので、そこは大きく変わったところであり、チャレンジでもあったよね。

吉岡:そう、あとは私たちがそこに素直に乗っていくという感じでね。リーダーがやってたプロジェクトでたくさんの方たちに出会って、そういうインスピレーションが湧いてきたんだよね。

水野:そうだね。HIROBAというプロジェクトをやっていて、異ジャンルの方と繋がるプロジェクトだったんですけど、そこで得たエッセンスをグループに持ち帰ってやってみるみたいな。聖恵もそういうところを楽しんでくれるっていうのがあったしね。

吉岡:そうそう。リーダーの中でそこまでイメージがあるものって楽しみでしかないから、もう飛び込んでいっちゃうようね。ありがたいことだし、"よし、チャレンジしよう"と。

-楽しみながらやっていたと。

吉岡:緊張感はありましたけどね。

水野:緊張感はあったよね。

吉岡:今まで乗せたことのないようなオケに自分の声が乗ってるから、どういうふうに調和していくんだろうとは思うけど、そこはリーダーだったり、世武さんだったりが世界を作り上げてくださっていたので、そこを信じて素直に乗っていこうという感じで、私はチャレンジするのみ(笑)。

-関わるすべての人を信頼して、みたいな感じですか。

水野:そうですね。ちゃんと信頼して預けることはやっぱり大事だし、その逆も大事で。例えば「うれしくて」は蔦谷(好位置)さんが大編成をやってみたいっていうことで、56人の管楽器と弦楽器が加わってるんですけど、そうなったときは蔦谷さんのそのイメージに僕らが乗っかっていくという、それもまたチャレンジだったし。リファレンスになるような楽曲を伝えて、デモも"ここはこういう意味合いでこうしてるんですけど、これを広げていってほしい"みたいないろんなやりとりがあったんですけど、その先はもう預けるしかないというか、これも相当なチャレンジだったよね。56人編成のサウンドの中にどう吉岡の歌を乗せるかって。

吉岡:まずレコーディング・スタジオに行ってびっくりでしたからね。大編成なのはわかってたけど、スタジオにミュージシャンが入り切ってなくて(笑)。なので、1回で録り切れないからセクションごとに順番に録っていったんですけど、すごく熱のある現場だったので楽しくて楽しくて。それでいて、そういうオーケストラ的な大編成の中でもノれる曲にしたいということを蔦谷さんが言ってくださって、大編成なんだけどポップスっていうところにちゃんと落とし込まれていて、いきものがかりにとっても新しいものになりました。

-これは曲の力が強いですよね。アルバムを通して全曲そう感じたんですけど、この「うれしくて」と「ときめき」は特に自己肯定感が強いなと思いました。

吉岡:"肯定"っていうのは「ときめき」のテーマでもあったからね。

-"プリキュア"のテーマということでですか?

水野:それもありますね。"プリキュア"の初代プロデューサーの鷲尾(天)さんと、曲作りを始める段階で打ち合わせをさせていただいたんですけど、僕らは"プリキュア"世代ではないんですよ。"プリキュア"は20周年なんですけど、20年前、僕らは悲しいことにもう大人になってたんで(笑)。そこで、"プリキュア"がどういう作品かっていうことを鷲尾さんからうかがったとき、"自立"とおっしゃっていたんです。今"プリキュア"が20周年を迎えて、最初のファンだった子たちが大人になって、なんならお母さんになったりしてて、そんな今だからこそ改めて自分を許して、認めて、子供時代とは違う難しさを乗り越えていくというストーリーにしたい、と鷲尾さんがおっしゃっていて、僕はそれにすごく共感できたんです。それに、「ときめき」は吉岡の出産前に録ったんですけど、そういう時期だから吉岡ともリンクするなと思って。なので、フェーズが変わっていくなかで、自分をポジティヴに認めるような歌詞が今の彼女には合ってるんじゃないか、ということは意識しながら書きましたね、伝えはしなかったけど(笑)。

吉岡:聞いてないです! 聞いてないけど、曲を受け取って、嬉しいなとは思いました。出産前だったから不安も多い時期で、これからどうなっていくんだろうっていう気持ちもあったし、ドキドキの不安というか。この曲は特に歌詞が強いなと思って、でも人に何かを訴えるとかではなく、"世界はいまきらめくよ/わたしがそう決めたから"とか、自分自身に誓いを立てる感じなんですよね。自分で自分を強く肯定するみたいな。落ちサビも"わたしはわたしのために/わたしを信じてあげたい"って3回も"わたし"が出てきて、曲がキラキラしてるから気づきにくいんですけど、めちゃくちゃ強いんですよ。弱い部分もちゃんと書かれてるけど肯定感がめちゃくちゃ強いから、その気持ちのまま、ポジティヴな気持ちで歌えました。

-「ときめき」も「うれしくて」も、弱さがちゃんと書かれてるからこその強さがありますよね。

吉岡:「ときめき」も「うれしくて」も、弱さもちゃんと認めてるっていうのが心地よくて、歌ってて体温が上がっていく感じがあったんです。「ときめき」は自分への肯定なんですけど、「うれしくて」は周りを肯定していくみたいなところがあって、周りの人も認めていくというか、呼び掛けるような曲だしね。

-""わかりあうこと"だけじゃ拾えない/"わかりあえないこと"を大事にして"というところとかまさにそうですよね。

水野:同一化するのではなくて、バラバラのまま何かひとつのものに向かって、バラバラのまま共同して何かをやっていくみたいなイメージがあって、"プリキュア"側ともそれは話してました。僕らもそうじゃないですか。歌う人間で、作る人間で、性別も違えば考え方も違うけど、でも作品を作るというところでは一緒に共同して、お互いの得意なところを持ち寄って、補い合いながら活動してる。これはすべてに言えることで、家族でもそうだし、友人でもそうだし、仕事でもそうだけど、異質なものが異質だからこそいいみたいなことを書けたらいいかなと、そこは頭でっかちに考えながら作ってました。

-今回のアルバムは全体的に自己肯定の曲が多いように感じました。

水野:結果的にそうなっちゃったなっていうところはあって。アルバムのタイトル曲の「○」も、これは一番最後に作った曲なんですけど、なんて言うのかな、自分が持ってしまった寂しさとか傷みたいなものも、いったんはちゃんと"〇"をつけないとなって。

-結果的にそうなった理由ってなんだと思われます?

水野:世の中の空気はもちろんあると思うんですけど、普通に生活してて飛び込んでくるニュースも結構ハードなものが多いじゃないですか。戦争も起きてるし、コロナもあっていろんな意見が飛び交って、みんながつらい想いをしてるっていうのを目の当たりにしてしまって。じゃあそこから自分はどう生きるか、っていうことを考えたときの想いとかが曲に繋がってるのかなとは思います。あとは自分たちが独立したり、山下(穂尊/Gt/Hmc)が卒業したりでグループの形が変わったり、お子さんが生まれたりと喜ばしいことがあったり、ポジティヴなことも大変なこともどっちもあるけど、それにいったん"〇"をつけていかないと前に進めないというかね。結果ふたりで続けることを選んでなんとか頑張ってるんで、自分たちで書いている自分たちの物語を自分たちが肯定していかないと、っていう気持ちはやっぱり滲み出てるんじゃないかと思います。それは別に僕たちだけの話ではなくてみなさんもそうじゃないかと思うし、いろんなことがあるなかで自分で選んでいかないとっていうことは、問題意識としてあるのかもしれないですね。

吉岡:結果、いろんな世の中の暗い部分とかもちゃんと見つめたうえで書いてるから、私はいつも信じて歌えるんです。それは今回も同じで、一曲一曲にそういうメッセージがあって、芯のある曲たちを書いてきてくれたんだということがわかるので、一曲一曲を信じながら歌うことができたし、それは自分にとってすごく大事なことだといつも思ってます。