Japanese
kalmia
2023年12月号掲載
Member:千葉 一稀(Vo/Gt) つかさ(Gt) アヤケント(Ba) 西村 凌(Dr)
Interviewer:蜂須賀 ちなみ
4人組ロック・バンド kalmiaが、2ndミニ・アルバム『twilight』を完成させた。2022年7月号掲載のインタビューでは"これから制作期間に入る"と言っていた彼ら。今年に入ってからはデジタル・シングルとしてコンスタントに新曲を発表。さらに2作のミニ・アルバムをリリースするなど充実の1年を過ごし、今作にも収録されている「君と勿忘草」がフジテレビ"めざまし8"6~7月度のエンディング・テーマに抜擢されたり、バンドには確かに追い風が吹いている。そんななかで、バンドがこれまで培ったもの、秘めた可能性を信じながら、より広い世界を見据えて制作に臨む4人の姿が頼もしい。インタビューでも、前向きな言葉を聞くことができた。
ガソリン高いなとか、世の中相変わらずいろいろある。そんな日々のなかでも、この音楽をポケットに入れてもらえたら
-『twilight』は今年2作目のミニ・アルバムなので、まず、1作目の『PROTAGONIST』(2023年1月リリース)を軽く振り返りたいです。改めて、『PROTAGONIST』はどんな作品だったと思いますか?
アヤ:ひと言で言うと"変化"ですかね。今まで入れてこなかったシーケンスを入れてみたり、アレンジャーさんに参加してもらったりしたので。
千葉:ピアノやストリングスが入るだけで曲の顔もまったく変わるので、今まで知らなかった、kalmiaのもうひとつの顔みたいなものが増えた感覚がありました。もともとピアノやシーケンスを入れてみたいという願望はバンドとしてあったんですよ。
つかさ:入れる前から"自分たちの曲に絶対合うだろうな"と思っていたし、実際に入れてみたらやっぱり合っていたし。
千葉:"やっぱりこっちだよね"という感覚があったよね。なので、『PROTAGONIST』以降に作った曲は、ほとんどピアノやストリングスを入れています。
-シーケンスありきの制作はいかがでしたか? 要は上モノの楽器が増えるということなので、リズム隊は力強さがより必要になるし、ギターはどうポジショニングしていくかを考え直す必要が出てくると思います。
つかさ:そうですね。バッキングの些細なストロークにしろ、アルペジオにしろ、リード・フレーズにしろ"邪魔はしないように。だけど存在感は出す"というバランスにしたかったので、めちゃめちゃ考えるようになりました。
西村:アレンジャーさんを迎えて制作するのも、シーケンスありきでフレーズを考えていくのも、最初はちょっと苦労しました。引き算して、最終的に一番いい状態に持っていくというのが結構難しくて。だけど自分のプレイに還元できるポイントも多かったし、いい経験ができたなと思ってます。
アヤ:今までは千葉に弾き語りでワンコーラス作ってきてもらったあと、4人でスタジオに入って、フル・コーラスを作っていくという流れだったんですけど、『PROTAGONIST』以降は、千葉がアレンジャーさんとふたりで練ったものが楽器隊に下りてくるという流れなんですよ。僕らがフレーズを考える頃にはフル・コーラスできあがっているし、歌詞も全部入っている状態なので、僕的には今までよりもやりやすかったかもしれないです。曲のイメージがしやすいから、フレーズも作りやすくて。
-今作を聴いて、よりポップになったし、ロックにもなったと思ったんです。サウンド的には『PROTAGONIST』以降のモードを推し進めていて、千葉さんの書く曲はよりキャッチーに、バリエーション豊かになっている。一方、音からは"自分たちはロック・バンドなんだ"という主張が感じられて。
アヤ:そうですね。根っこはロック・バンドなので。
千葉:譲れないところではあるかもしれないです。
-"twilight"というタイトルに込めた想いを教えてもらえますか?
千葉:"twilight"には黎明、薄明、夜明けといった意味があるんですけど、バンドとしてワンステップ上がった僕らの夜明けでもあるし、聴いてくれる人のための夜明けでもあります。コロナ禍が明けて、やっと普通の生活が戻ってきたけど、相変わらず世の中いろいろあるじゃないですか。"ガソリン高いな"とか、"給料上がんねぇのに物価は上がるばかりだな"とか、そういうところでストレスは溜まっていくし、今回自分から出てきた曲も"言いたいこともなかなか言えない"というものばかりですけど、そんな日々のなかでも、この音楽をポケットに入れてもらえたらいいかなって。そういうイメージで"twilight"というタイトルを付けました。
-ここからはそれぞれの曲について聞かせてください。1曲目の「黎明讃歌」はライヴ・タイトル("kalmia pre. 黎明讃歌 会場限定Single 「PIECE OF CAKE」release party")と同名の曲ですね。つまり「ナスタチウム」(2021年8月リリースのコンピレーション・アルバム『to the next field 4』収録曲)と同じケース([Flight × kalmia pre"Nasturtium"Flight 30th Anniversary!!])。
アヤ:(千葉から)"タイトルは「黎明讃歌」です"と言われた時点で、"なるほど、気合入ってるな"と(笑)。僕らとしては"だったら任せてください"という感じですよね。
西村:"あぁ、この人やる気だな"と思ったので、置きに行かないようなフレーズ作りを心掛けました。
つかさ:俺、この曲好き。こういうロックなアッパーチューンは久しぶりな気がするし......最近、先輩バンドの好きなギタリストが、バンドをやめることになったんですよ。この曲のギターには、僕がその人から学んだことを入れていて、その人への憧れを自分なりに昇華できたような感覚があるので、個人的に思い入れのある曲になりました。
アヤ:基本的に他のギタリストをイメージしながら作っているの?
つかさ:なんて言うんだろう......憑依させるような感じ? そんな大それたものじゃないですけど、"俺がこの人だったらな"みたいな感じで最近はやっているかも。「Contrail」はMr.Childrenの田原(健一)さんのイメージだし。「RUN YOUTH」では同世代の好きなギタリスト3人をイメージして、"その人たちがやりそうなフレーズを、俺がやったらどうなるのかな?"という感覚で試してみたり。
-なるほど、面白い。千葉さん、歌詞についてはいかがでしょう。
千葉:僕個人の感覚ですけど、インディーズ・バンドって"近い"なと思うんですよ。どっしりと立っていてくれるメジャー・バンドも素晴らしいけど、聴く人を"こっちだよ"と導いてくれたり、自分たちと一緒に進んでくれたりするインディーズ・バンドにはインディーズ・バンドの良さがある。"黎明讃歌"という企画には、僕らの思う、寄り添ったり背中を押したりしてくれるバンドを呼んだんですけど、ライヴを重ねるうちに、"たぶん、自分たちもそうなりたいんだろうな"と気がついて。なので、この曲は希望の歌ですね。今ある曲の中で一番希望を歌っている曲かもしれないです。
-「サイダートーン」は夏の青春恋愛ソングという、今までのkalmiaにはなかったタイプの曲なので驚きましたが、千葉さんの声はこういう曲にも合うのかという発見がありました。アウトロで2ビートになるのも痛快。
つかさ:デモ聴いてびっくりしたもん。
千葉:自分でも作っててびっくりした(笑)。"こういう曲、書けるんだ"って。いろいろな曲を書いてみたいという気持ちがあったので、書いてはみたものの、みんなにデモを渡すときも俺は心配だったんですよ。でも、"いいじゃん、夏の曲"って言ってくれたよね。
アヤ:千葉君が今までやりたかったことを消化した曲なんだろうなって思ったから。それに、4人でやればkalmiaになるし。アウトロの2ビートは、バンドとしてずっとやりたかったことのひとつでした。うちの楽曲の雰囲気的に合わなさそうだったから今までやってこなかったし、過去の自分たちだったら"これはうちらしくないよね"と言ってこういうアレンジにしなかったと思うんですけど、今回挑戦することができました。
-しかもエゴに終始せず、演出として効果的なアレンジに落とし込めているのが素晴らしい。西村さん、この曲叩いてみていかがでしたか?
西村:すげー疲れましたね。この曲がレコーディング一番疲れました。「サイダートーン」と「Contrail」は同じ日にレコーディングしたんですけど、別人が叩いているみたいだなと。
-たしかに。
西村:1曲目の「黎明讃歌」のレコーディングをしたとき、"俺も「ナスタチウム」の頃より大人になったな"、"ちょっと丸くなったかも"と思ったんですよ。だけど「サイダートーン」で爽やかな感じ、痛快な感じを目指した結果、ずっとコンビネーションで派手にやっているようなアレンジになったから、この曲の僕はめっちゃイキっているなと(笑)。結局丸くなってなかった(笑)。
千葉:2曲目にして(笑)。早かったね。
-3曲目は「Contrail」。飛行機雲をモチーフにしているのがユニークですね。
千葉:帰り道に車で国道を走っていたら、夕焼けが超きれいだったんですよ。夕焼け空を飛行機がパーッと通って、飛行機雲ができているのを見たときに、サビの頭の"あの飛行機雲の様に誰かの目に留まりたい"という部分が浮かんできたので、すぐ録音して。でもいったん置いておいたんですよ。"だって、飛行機雲だよ?"と思って。しかも結構ネガティヴで......でも、個人的にはこういう歌詞が好きなんです。人生に悩む瞬間ってみんなあると思うんですよ。学校を卒業するときとか、就職のときもそうだけど、そういうものが終わってからも"これからどうしていこう?"と悩む瞬間はあるだろうし、失敗しちゃって"なんで自分ってこうなんだろう?"と思う瞬間もある。失敗することを望んで生きている人なんて誰もいないと思うけど、やっぱりみんなそれを経験している。あなただけじゃないし、僕もそうだよ、隣の人もそうだよ、ということが伝わればいいなと思います。
-この曲の歌詞はとても千葉さんらしいですよね。同時に「サイダートーン」のような曲も収録されているのがこのアルバムの面白いところ。
千葉:「サイダートーン」の歌詞は完全に主人公を立てて書きました。こんなキラキラした歌詞は1ミリも僕に当てはまらない(笑)。歌詞を書くとき、高校生の頃の恋を思い出そうとしたら、もう思い出せないなって思ったんですよ。当時はまだ子供だったしずっと一生懸命だったから、大人になった今振り返ってみても、"そんなことあったっけ?"という感じで。だから「サイダートーン」は、"きっと高校生の恋愛はこんなに眩しいんだろうな"と想像しながら書いた曲。だってヤバくない? 好きだって言いたいのに、言えないなんて。
つかさ:そうね(笑)。
アヤ:たしかに、10代の頃って手を繋ぐだけでも心臓爆発してた。
-そうやって別の主人公を立てながら歌詞を書くのも楽しめていると。
千葉:そうですね、楽しいです。ドキドキしながら書いてました。
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