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INTERVIEW

Japanese

kalmia

2022年07月号掲載

kalmia

Member:千葉 一稀(Vo/Gt) つかさ(Gt) アヤケント(Ba) 西村 凌(Dr)

Interviewer:蜂須賀 ちなみ

透き通った歌声と壮大なサウンドスケープが持ち味の4人組ロック・バンド、kalmia。2017年に結成、2019年に現体制となり、2020年5月に2nd EP『エンドロール』で全国デビューした彼らが、このたび「永久花」、「ナスタチウム」を2ヶ月連続で配信リリース。壮大なバラードに熱量の高いアッパー・チューンと曲調は対極だが、音源における構築美もロック・バンドとしてのフィジカルも大事にするこのバンドの魅力が、余すことなく表現されている2曲とも言えるだろう。今回のインタビューでは、2曲の制作エピソードを中心に語ってもらい、彼らが音楽に託しているメッセージ、そしてライヴ・バンドとしての頼もしさの根源にあるものをひもとくことを試みた。


今は苦い思い出でも、いいことはちゃんとあったはず―― あったはずの時間がなかったことになるのは、切ないし、悲しいし、もったいない


-以前ライヴを拝見したのですが、お客さんをグッと引っ張っていくような力強いライヴをされていたので、すごく印象に残っていて。音源とのギャップに驚きました。

アヤ:ギャップがあるとはよく言われます。ライヴは結構"おりゃぁ!"って感じなんですけど、ミュージック・ビデオを出しているのはミディアム・テンポの曲が多いので、そこから入ってきた人は特にギャップを感じるのかもしれないですね。

-どういうふうに今のライヴ・スタイルを確立していったんですか?

千葉:活動再開(※2018年9月に一度活動を休止)したての頃に企画をやったんですけど、そのときに、このままじゃダメだと思いまして。次の月から"ライヴをやらせてほしい"とライヴハウスの店長さんにお願いしたところ、月10本くらいのライヴを毎月やらせてもらうようになって、それで今の僕たちになっていったのかなと思います。

-そうなんですね。Skream!としては『エンドロール』以来のインタビューですが、あのEPはみなさんにとって初の全国流通作品でしたよね。ここから本格的に世に出ていくぞというタイミングで、今まで通りにバンドが活動できない状況にあったかと思いますが、『エンドロール』リリース前後はどのように過ごしていましたか?

千葉:当時はこの状況も長く続かないと思っていたんですけど、(2020年)3月のライヴがキャンセルになったので、やっぱり心配にはなりましたね。

アヤ:主に僕がレーベルとやりとりしていたんですけど、 3月にはリリース周りの話がほぼ固まっていたので"どうしよう、どうしよう"と思いながら、リリースすることが正解なんだろうか、延期したほうがいいのだろうか、という話し合いをしていました。だからこの先の活動について考えるというよりかは、目先のことでいっぱいいっぱいだったかもしれないです。

千葉:(2020年3月~の)外出自粛期間中は本当に何もできなかったんですけど、そこから少し時間が経って、ライヴハウスを借りてゲネやリハをやらせてもらえるようになって。久しぶりに4人で音を出したときは、一番バンドが楽しかった瞬間かもしれないです。

西村:"バンドすげー!"ってなったよね(笑)。

つかさ:(音が大きくて)耳が痛かった(笑)。

アヤ:そのあとやっとライヴができるようになったんですけど、最初のライヴがいきなりツアーの初日だったんですよ。1部はワンマン、2部は3マン、という感じで。久しぶりのライヴだったので、1部のワンマンなんて地に足がついていない感じで、演奏中どこを見たらいいのかわからないという感じでした。それでまた"このままじゃダメだ"って、活動再開のときと同じような心境になったんですけど。

千葉:やっぱり3~4ヶ月空いちゃうと、ライヴの感覚ってどうしても鈍っちゃうので、取り戻さなきゃと思いました。

西村:そこからはずっとライヴをしていたよね?

アヤ:うん。全国ツアーをまわって、また月10本くらいライヴをやる生活になって......。受け入れてくれるライヴハウスには全部行くみたいな勢いで、急加速でライヴの本数を増やしていました。

-久々にお客さんの前でライヴをしたときに、何か思うことはありましたか?

千葉:メンバー4人揃って"ひとりひとりを大事にしないと"という気持ちに改めてなりましたね。お客さんの数自体は減ったんですよ。ライヴハウス側もちゃんとルールを作ってやっているけど、もちろん100パーセント感染リスクがないとは言い切れない。そんななかでも来てくれる人たちはすごく音楽が好きな人たちだと思うし、"ライヴハウスが好きだ"、"音楽が好きだ"という気持ちが奥底にある人たちという意味では、僕らと似ているんですよね。そういう人たちに、この制限のある状況の中でワクワク、ドキドキしてもらうにはどんなライヴをしたらいいかということを、より考えるようになりました。その結果、"ここでこの曲は来ないだろう"というセットリストを組んでみたり、曲間の繋ぎでいつもとは違うことをやってみたり、そうやってひとつずつを試していっていますね。"ライヴハウスに来て良かった"と思ってくれる人が少しでも増えればいいなと思います。

-リリースとしては「春唄」(2021年3月)、「utopia」(2021年11月)、「meteor liner」(2022年2月)という3曲を配信リリースしていましたね。「春唄」や「meteor liner」は、コロナ禍で多くの人が抱えているであろう孤独感に寄り添ってくれる曲でしたし、「utopia」はバンドをネクスト・レベルへ引き上げるような曲でしたし、今振り返ってみても充実の内容だったんじゃないかと思います。

千葉:そうですね。「春唄」は5~6年に書いた曲なんですけど、2021年の3月にリリースできて良かったなと思いますし、「meteor liner」の"思い出せる事は幾つも無いけど/思い出せないだけで覚えているのさ"という頭の歌詞は、今の状況に意図せずともハマった感じがありました。狙ったつもりはなかったんですけど。

-kalmiaは物事の終わりや別れにずっと向き合って表現してきたバンドだから、それがたまたま時代と符合したということなんでしょうね。そんな3曲を経て、このたび「永久花」、「ナスタチウム」が2ヶ月連続で配信リリースされます。まず、6月22日にリリースされた「永久花」は懐の深いスロー・バラードですね。つかささん、アヤさん、西村さんは、千葉さんからこの曲を受け取ったときにどう思いましたか?

つかさ:きれいな歌だなぁと思いました。

西村:こういうバラードど真ん中の曲って今まであんまりやってこなかったんですけど、僕はこういう歌が大好きなので、"来たか! よっしゃ!"と思いました。

千葉:あはは(笑)。

つかさ:きれいな歌なので、ギターは完全に歌に寄り添おうと思いました。ソロだけわーっと弾けばいいかなと。

西村:ドラムも、普段はアタックを強めにしているんですけど、この曲に関しては歌を邪魔しないように、アンサンブルをしようと思いましたね。

アヤ:ベースは寄り添おうとはあんまり考えなかったかな。バラードではあるんですけど、受け取ったときに壮大な曲だなと思ったので、一番でっかい音で弾いています。寄り添うというよりかは押し出すようなイメージ。

-この曲もそうですけど、kalmiaは基本的にサウンドスケープが大きいですよね。聴いていると広い場所で鳴っている様子がイメージできますし、みなさん自身もそういうヴィジョンを描きながら制作しているんじゃないかと思いました。

つかさ:自分は昔から"インディーズ感"が出ないように意識しながらフレーズを考えていますね。

千葉:インディーズ感、嫌いじゃないんですけど、そもそも僕ら4人とも"大きな会場でのライヴが似合うようなバンドになりたい"という気持ちが根源にあるので、そっちに寄るのは違うなと思うんですよね。おっしゃるように、大きなところで鳴っている様子をイメージしながら、意識して、全曲アレンジしています。

-「永久花」の歌詞はどのように膨らませていきましたか?

千葉:"12時の夜"という歌詞があるように、最初はシンデレラの曲にしようと思っていたんですけど、歌詞を書いていくうちに、ちょっと思ったことがあって。

-というと?

千葉:忘れられない恋って誰しもあると思うんですよ。片思いとか、フラれてしまった経験とか。それは今は苦い思い出になっているかもしれないけど、その恋をしている最中はいいこともちゃんとあったはずだから、どうにかきれいな思い出にできないかなと思ってこういう歌詞を書きました。それなら名前は"永久花"にして、枯れているんだけど枯れないようにしてあげようと。この曲を聴いて"こんなことがあったな"と思い出してほしい気持ちから、"この恋が枯れる前に/二人で育てて愛を咲かそう"という前向きな歌詞になっています。

-どうしてそういうことを曲にしようと思ったんでしょうね?

千葉:僕自身失恋の経験があるんですけど、恋をしていた当時は楽しかったはずなのに、"こんな場所に行ったな"とか、"こんな時間を過ごしたな"ということを今あんまり思い出せないんですよ。思い出せないから、その時間が無駄だったように感じちゃうし、1年でも2年でも数ヶ月でも、そこにあったはずの時間が全部なかったことになっちゃうのは、切ないし、悲しいし、もったいないなと思う。もしも僕と同じように思う人が他にもいるとしたら、この曲はそんな人に寄り添えるんじゃないか......ということを考えながら書きましたね。

-逆に、過去の恋を美化するタイプの人もいると思うんですよね。だから失恋ソングってよく聴かれるのかなと個人的には思うんですけど。

千葉:あ~......。(※メンバーに向かって)え、美化しちゃう?

アヤ:"あのとき楽しかったな"って思い返すタイミングはたしかにあるかも。

千葉:あ、そう? でもそれって"楽しかったな......"じゃん。"楽しかったな。わーい!"では終われないじゃん。

アヤ:たしかに。"わーい!"では終われない。

千葉:(※つかさ&西村のほうを向いて)でしょ? そうじゃない?

つかさ&西村:うーん......。

千葉:まぁ個人差があるみたいですけど(笑)、でも"......"の部分を歌っているということなのかな。こういう感情って言葉にするのは難しいし恥ずかしいから、面と向かって人には言えないんですけど、歌だったらこっちも言いやすいし、みんなも聴きやすいと思うし。「永久花」に限らず、全曲そうなんですけど、そういう感覚が僕の中にあるのかなと思います。

-「永久花」では、"過ぎた出来事に対して、悪いことばかり思い出してしまう"という千葉さん自身の性質を見つめたうえで"いや、悪いことだけではなく、いいこともちゃんとあったじゃないか"と歌っているわけですが、こういったアウトプットを行うことは、千葉さん自身にとってどういう意味を持つ行為なんでしょう?

千葉:"次に繋げる"という感じですかね。

-その"次"というのは未来の自分ですか? それとも、リスナーですか?

千葉:リスナーですね。僕、"今いる大切な人のことをすごく大事にしてほしい"ってライヴでしつこく言うんですよ。それは本心なんですけど、バンドをやっていると、一緒にバンド活動をしてきた友達がやめていってしまうことや、"もっと話をしていればやめなかったんじゃないか"と思うこともあって。だから今ある自分にとって大切なものを、もっと大切にしてほしいなって伝えたいんですよね。友達や家族に"ありがとう"や"ごめんなさい"と言うのは恥ずかしいかもしれないけど、一番大事なことだから、口にするのが難しかったら文章とかでちゃんと伝えてほしいし、伝えられなくてもせめて思っていてほしい。この「永久花」ができてからより強くそう思うようになりましたし、それ以降、「永久花」だけではなく、「春唄」や「utopia」を(ライヴで)演奏するときにもそういったことを言うようにしています。