Japanese
クジラ夜の街
2023年05月号掲載
Member:宮崎 一晴(Vo/Gt) 山本 薫(Gt) 佐伯 隼也(Ba) 秦 愛翔(Dr)
Interviewer:石角 友香
"ファンタジーを創るバンド"を標榜し、楽曲はもちろん、ライヴでも語りや演出を連動し、体験的な時間と空間を作り出しているクジラ夜の街。プレデビュー1st配信シングル「踊ろう命ある限り」、プレデビュー第2弾配信シングル「ハナガサクラゲ」に続いて、現在のバンドを象徴する楽曲をコンパイルした、メジャー・デビュー1st EP『春めく私小説』を5月10日にリリースする。ソングライターである宮崎一晴のコンセプターとしての才能や、珍しいバンド像はどのように育まれたのか。本誌単独初登場の今回は結成の経緯に始まり、目指すバンド像などをメンバー全員にインタビュー。稀有なコンセプトと音楽性の理由をぜひ知ってほしい。
-クジラ夜の街は結成の経緯が面白いですよね。
宮崎:そうですね。バンドって友達になってから始めるものだと思うんですけれども、僕たちは軽音部が強豪校と言われるような部活で出会いまして。その部活はコピーをするのが禁止で、オリジナル曲をやるんですね。4月に入部して2ヶ月ぐらいは仮バンドで過ごす時間があるんですけども、そこで先輩からいろはを学び、2ヶ月後にオーディションのようなものがありまして、そこで各パートで秀でていた人を、顧問の先生と幹部とリーダーがジャッジするという制度があるんですよ。それで組まれたバンドがこのバンドではあるんですけど、もともとちょっと組みたいなと思ってはいたので、組めて良かったなと感じますし、バンドを組んでからその人のことをよく知っていったっていう、結構珍しいパターンのバンドです。
-軽音部が強豪なだけじゃなくて、オリジナルしかやっちゃいけないというのは知ってたんですか?
宮崎:僕と薫と秦はなんとなく知ってたんですね。ずっと続いてるような部活のブログがあってそれを読んでたんで。ただ佐伯君だけはね?
佐伯:家が近かったんで(その高校を)選びました(笑)。
-宮崎さんにそれだけヴィジョンがあったってことは、曲作りは入学前からしていたんですか?
宮崎:中学のときから曲を作っていて、ただ誰かと奏でるみたいなことがなかったので、僕が部活に入りたい一番の理由はそこでしたね。とにかく誰かと曲をぶつけ合って作ってみたいっていうか、錬金してみたい気持ちがありました。
-それが他にやってる人がいないスタイルになるんでしょうね。
宮崎:そうですね。絶対にそうしたい気持ちが根底にあるっていうか、誰もしたことのないことをして、誰も成し遂げてない、誰もなったことないバンド像になりたいのはあります。
-宮崎さんの作曲のルーツはゲーム音楽とかなんですか?
宮崎:まさしくそれで。ただ作曲し始めたというよりはゲーム音楽に感動したんです。純粋にまずリスナーとしての感動がゲーム音楽にあって、作るっていう方向になってから、楽器をプレイするようになったんですね。小学4年生の頃からトロンボーンを吹くようになって、楽譜を貰ったりして自分でプレイするようになったときに、"ここをこんなふうに変えて吹いたらどうだろう"とかだんだんと意識し始めて、それが作曲の始まりだったのかなと思います。
-ソングライターとしての宮崎さんをどう思いますか。
秦:僕、体験入部で彼と初めて会ったんですけど、最初の説明会で右隣りに一晴君がいたんです。GarageBand(※音楽制作ソフト)でポツポツ打ち込んでて、"なんかすごいのいるんだけど!"って驚いて(笑)。どうやらそのときも曲を作ってて、それが自分にとっては初めての身近な作曲者だったんで、"あ、作曲する人って本当に存在するんだ"ってのは思いましたね。
-(笑)出会ったときに驚きがあったと。山本さんも作曲するんですか?
山本:そうですね。インディーズのラストのアルバム(2022年リリースの『夢を叶える旅』)の1曲目の、今のライヴの入場SEにも使ってる曲(「幸せのかたち (Prelude)」)は全部作ってて。あとは僕が曲のオケを作って、宮崎君が歌のメロと歌詞を入れてくれてみたいな、遊びでやったやつが2曲ぐらいあります。
宮崎:まだ発表はできてないんですけど。だから個人的には非常に頼もしい存在なので、もうちょっとバシバシ出してほしいんですけど、なにぶん自分に厳しい性格で、なかなか提出されないから、本当にいいものしかたぶんしたくないんだろうなぁって思ってます。だから気長に待ってますね。
-山本さんはギタリストとしてはどんな方の影響があるんですか?
山本:僕はもともと母親が聴いてた相対性理論がすごく好きで、ギターの永井聖一さんが一番影響受けてるかなっていうギタリストです。それ以外だと国内では西田修大さんや名越由貴夫さんが好きで、エフェクターを多用するプレイをするギタリストの影響はすごく受けてますね。
-佐伯さんの背景はどんな音楽なんですか?
佐伯:音楽を全然聴いてなかったので、ルーツというルーツもなく。本当に先輩から教わったものを自分で吸収して手当たり次第って感じでやってました(笑)。
魂は、曝け出すよりも秘めておいて溢れ出るほうが僕はカッコいいと思う
-クジラ夜の街のライヴは演出が特徴的で、ライヴだとより世界観が理解できるんですが、ああいう形でやることは宮崎さんの中には当初からあったんですか。
宮崎:いや、当初はなかったですね。結成当初は、どういうライヴをするかよりとにかく曲を作ることを楽しみたいと純粋に思っていたので、そのときはあんまりなくて。作りたい曲を作っていくうちになんとなくのぼやっとした形というか、今で言う"ファンタジー"なんですけど、そういうのが得意で、好きだってことがバンドのフィルターを通してわかってきたんです。で、"ファンタジーを創るバンド"って名乗り始めたのは、クジラ夜の街を1行で自己紹介したかったっていうのがありまして。1行且つ単純明快にバシッとそんなバンドですって言いたかったから、自分たちの音楽を振り返ってみようって、あとからキャッチフレーズがついたという感じですね。
-そういう経緯だったんですね。
宮崎:"クジラ夜の街"というバンド名も、当初は意識してなかったけど、今思うとすごくファンタジックだし、「夜間飛行少年」(2020年リリースの1stミニ・アルバム『星に願いを込めて』収録)って曲もそのタイミングで再定義するきっかけになりまして。それまでは熱いロックというか少年の衝動的な部分を押し出すだけの音楽だったのが、"夜の空を飛んでいる少年"っていうところに今一度フォーカスしたことによって、薫のギターのサウンドにもすごく奥行きが出ましたし、秦のドラム・ソロもドラマチックなものになりましたし、佐伯のベースやすべての構成音も奥深い新しいステージに行った感じがしたんです。あとからだったんですけど、それによってバンドのアップデートみたいなのがなされて、それまで作った曲にもすごくいい影響を与えられたなというふうに思っています。
-そのことで気づきがあって、すでにある楽曲のアレンジにも影響があって、ライヴ運びも変わっていったと。
宮崎:変わっていきましたね。「夜間飛行少年」は特に顕著だったかな。あの曲の可能性がまだまだあるってことに僕自身結構驚かされたなって感じがあります。純粋なギター・ロックから変貌を遂げる瞬間を見たというか、それはミュージシャンとして興味深かったですね。
-そうなってくるとアルバムもだんだんコンセプチュアルに?
宮崎:そうですね。それが性に合ってて。僕は自分のことというよりは、どこか想像上の誰かのことを誰かの目線で歌うってことのほうが多くて。ロック・バンドとしては結構邪道だと思うんです。自分の魂を曝け出すみたいなのがロック・バンドの形として王道かなと思うので、そこからは逸れてるなって感じるんですけど、だからこそ"ファンタジーを創るバンド"っていうブランドに、唯一無二性が出てきてるなと考えています。
-曝け出す魂がないということではなくて?
宮崎:魂は、曝け出すよりも秘めておいて溢れ出るほうが僕はカッコいいと思うからです。
-宮崎さんは、文学や詩は好きなんですか?
宮崎:文学系はあまり嗜んでいなくて、どちらかというとゲームと漫画が多いかな。やっぱり子供のときに好きだったから今もずっと好きっていうのが大きいですね。
-漫画って時に小説より非現実的を描けますしね。どんな漫画にルーツがあるんですか?
宮崎:ベタに"少年ジャンプ(週刊少年ジャンプ)"は小学生の頃から読んでいて。ただ、いきなり手に取ると連載してる漫画って読まないというか、追いかけてる人が読むものなんで、読み切りとかを読んでたんですよね。あとはそこで始まる若手の新連載とかを読んでたので、"ジャンプ"の中だと少しアングラ寄りの作品に惹かれるようなものがありました。印象に残ってる漫画で言うと、"僕のヒーローアカデミア"の堀越(耕平)さんの"逢魔ヶ刻動物園"っていう漫画があって。呪われた動物園で園長がうさぎの姿になって、その人の呪いを解くために天下一の人気動物園を作るっていうお話なんですけど。
-クジラ夜の街っぽいですね。
宮崎:これに子供ながらに衝撃を受けましたし、若手の新連載って、どちらかというとちょっと王道から外れてるオリジナリティがあるものが多いので、非常にシンパシーは感じましたね。
-みなさんそういう感じだったんですか?
山本:そうですね。毎週、"ジャンプ"と"サンデー(週刊少年サンデー)"と"マガジン(週刊少年マガジン)"のだいたい同じようなもの読んでました。僕も"逢魔ヶ刻動物園"読んでましたね。
宮崎:読んでた(笑)? あれ面白いよね。
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