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INTERVIEW

Japanese

クジラ夜の街

2023年05月号掲載

クジラ夜の街

Member:宮崎 一晴(Vo/Gt) 山本 薫(Gt) 佐伯 隼也(Ba) 秦 愛翔(Dr)

Interviewer:石角 友香

-なんとなく背景が(笑)。徐々にコンセプチュアルな作品になってきたということですが、今回のメジャー・デビューのタイミングではどんなものを作ろうと?

宮崎:自信のある曲というか、デビュー作ってずっと言われ続けるものだから、そのときのクジラ夜の街が出して恥ずかしくないものと、正面から向き合って曲を入れていこうと。アルバムを作るために曲を作ってる感じじゃなくて、クジラ夜の街っていつもそのときのライヴをどんなふうに盛り上げていくかというので、シングル的に制作していって、それらをアルバムとかEPの形で囲うスタイルなんです。なので、EP制作のための曲作りではなかったんですけど、どこか意識するところはあったから、そういった意味で言うとクジラ夜の街の全貌を余すことなく表現できている曲、そしてやっぱ僕らの武器であるライヴですごく愛されている曲を入れるのが必然なのかなと考えて、『春めく私小説』が完成したかなと思います。

-どの曲も先行配信されておかしくない感じはありますね。

宮崎:異例ですけど(インスト以外の)全曲MVありますからね(笑)。

-たしかに。プレデビュー1st配信シングルの「踊ろう命ある限り」は、バンドの紹介としていい曲だなと思いました。バンドのことを歌ってるように思えるので。

宮崎:そうですね。バンドとバンドを取り巻く友達とか別のバンドとか、僕を取り巻くものへの感謝っていうところですね。さっき自分を出さないと言ったんですけど、「踊ろう命ある限り」は異例で、この曲が自分を主人公として自分の気持ちを歌った初作品なんじゃないかなっていう。だから新鮮な気持ちもあります。

秦:タイアップ("すき家 炭火焼きほろほろチキンカレー「五感」篇"タイアップ・ソング)のことが決まったときに、他にも候補が何曲かあって、比べて聴いたら僕は特にこの曲がすごくいいなって思って。僕はカントリーみたいな音楽がもともとジャンルとして好きなんですね。あとはシンガロングのところもあって、すごくポップでいろんな人に届きそうだなって思って。端的に言ってしまえば"うわ、売れそう!"と感じました(笑)。

-(笑)いいことですね。山本さんはいかがですか?

山本:タイアップの話を貰ってからレコーディングまでの時間が短くて、この曲を作ることにだけ集中した期間があって。期間が短かったからこそ、ここにそのときの自分たちの熱量が全部込められたのかなと思ってますね。結果的にそれがこの曲の生命的なパワーになっているのかなと感じます。

-たしかに。佐伯さんはいかがですか?

佐伯:もう1曲、ちょっとしんみりとした曲があって、それをめちゃくちゃ推してたんですけど、これを作ることになって実際できてみたらすごく盛り上がるいい曲ができたなと思って。で、ライヴでもお客さんと一緒に盛り上がれる曲だったんで、結局こっちを作って良かったなって感じました。もう1曲のほうもいつかやりたいですね。

-ライヴでもファンタジーを表現していて、その流れの中でこの「踊ろう命ある限り」が演奏されると、その場に戻ってくる感じがありました。

宮崎:この曲は作れて良かったなと思います。新しい曲って感じがしないんですよね。

-すでに軸って感じがします。そしてこのEPの中にはこれまでとの連なりというか、「時間旅行少女」には対になってるような過去曲の「夜間飛行少年」がありますね。

宮崎:共通させるようなワードっていうのはあえてまったく入れていなくて。ただタイトルにはどこか名残を感じるというか、無視できない要素があるので、すごく絶妙なバランス感覚を持った曲だなと思います。この曲は自分でも未知数なところが結構多くあって、この曲が独立して意思を持っているような感じがするんですよね。ただどこか勢いとかには近しいものがあるんですよ。この曲は長い付き合いになっていくなかでいろんな表情を見せてくれそうなので、そういった意味でも「時間旅行少女」は末恐ろしい曲ができたなって印象です。

-メロディは素朴なのにギターとベースは非常にマス・ロックっぽかったり。

山本:そうですね。でも特にマス・ロックっぽさを意識したわけではなく、自然とそうなっていっただけで。

-メロディに対してキリモミ状態のアンサンブルがスリリングです。

宮崎:時間旅行っていうちょっとした複雑さみたいなのと、少女の可憐さみたいな。複雑さと軽快さを併せ持った面白い質感のリフたちだなと思います。

-「BOOGIE MAN RADIO」は登場人物増えてきた! って感じがしました。宮崎さんとしてはキャラクターを増やすみたいな考え方なんですか?

宮崎:まさしくその通りです。曲を結構擬人化することが多くて、僕の頭の中にだけその曲の顔と声があって、おしゃべりさせてたりして楽しいです。おままごとみたいな感じで(笑)。

-それは"クジラ夜の街"っていう街の中にいる人?

宮崎:そうですね。そういうイメージがあるかもしれない。

-じゃあすでに宮崎さんの頭の中で"マインクラフト"みたいなものができてるんですね。

宮崎:そうですね(笑)。もうめちゃめちゃありますね。

-そして「ハナガサクラゲ」は山本さんのギターで作るループが印象的です。アレンジのイメージはみなさんと話しながらですか?

宮崎:これはみんなに結構伝えましたね。あまり広くにはしないようにっていう。狭い場所をすごく丁寧に、且つロマンチックに、ファンタジックに描く。その小っちゃなきらめきを拡大させていくほうが絶対に精密度が上がると思ったので。だから熱くなったり広くなったりしないようにっていうのは心掛けました。

-たしかにクラゲの水槽の範囲で言うと小っちゃいですもんね。

宮崎:視界って、寄れば広い世界が実はそこにもあって、結局捉え方次第だと思うんです。「ハナガサクラゲ」も水槽の中はたしかに他のものと比べると狭いかもしれないけど、いろんなものに目を向けて余すことなく表現をして、丁寧に拾っていけば、その丁寧さがその世界を拡大する方向になっていくので、そういった意味での狭くってことでした。

-ものの捉え方が本当に面白いです。では最後に今後クジラ夜の街が目指していくバンド像はどんなものですか?

秦:ひと言で言うんだったら国民的なバンドになりたいですね。要するにシーンを選ばないバンドになりたいです。内々のこの界隈ではカッコいいと思われてるけどこの界隈はまったく知らないみたいな、そういうのではなく、"あのバンドはすごいよね"って誰もが認める日本の国民的バンドになるのが僕の夢なんですね。で、これはメンバーに反対されるかわかんないですけど、ディズニーシーやディズニーランドあるじゃないですか? あれみたいなテーマ・パークを作りたいです。

-めちゃくちゃ楽しそう。山本さんは?

山本:"ファンタジーを創るバンド"っていうモットーと掛けて、将来的には弦楽とか入れてすごい人数で、ステージのセットも作り込んだライヴをしていきたいですね。視覚的にも楽しいライヴを作るバンドになれたらなと思います。

佐伯:僕も薫と同じこと思ってたんで(笑)、ちょっと違うのを言うと、映画とかアニメの主題歌をやりたいし、映画に使う曲全部をクジラ夜の街で担当したいですね。

-宮崎さんは?

宮崎:具体的に何をしたいかってなると、そのテーマ・パークとか映画の主題歌、あとそういうセットやオーケストラで、同じなので、僕はざっくりバンド像みたいなのを話すと、最新がいつだって最強のバンドになりたいなっていうのはありまして。バンドに限らずだいたいの音楽やミュージシャンっていうのは、デビュー作とか何か過去のヒット作を焦点として、どこか下火になっていくのがだいたいのコースで、当たり前っちゃ当たり前なんですけど、そこに抗っていきたいなとはすごく思ってますね。いつまで経っても新曲が一番カッコいい、新しいアルバムが一番だねっていう、更新していくバンドになりたい。変化することも進化することもやめない。おじいさんになってもそういう精神を持ったバンドになりたいなと思います。