Japanese
THREE1989
2021年11月号掲載
Member:Shohei(Vo) Shimo(Key) Datch(DJ)
Interviewer:秦 理絵
-ここからは何章かピックアップしてお話を聞ければと思います。まず、第1章の「A. me too」はダンサブルなんだけど、メロディが垢抜けていて。すごくポップですよね。
Shohei:これは何も考えずに作ろうと思った初めての曲ですね。いつもだったら作ったあとに、もっとみんなに聴かれるようにするにはどうすればいいかっていう思考が入ってくるんですけど。そういうのを一切抜きにして書いたんです。だからたぶん僕の本当のルーツがこういう曲なのかなって思います。本当にJ-POPで育ったので。今まではジャズを取り入れたり、おしゃれなメロディがいいんじゃない? って思ったりしてたけど、この曲はそれを抜きにして作ったから、ポップっていうところが表現できたのかもしれないですね。
Datch:一番苦労したかもね。アレンジも何回も変えたし。 最初はディスコ・チューンみたいな感じだったんですよ。
Shimo:ストリングスもいっぱい入っててね。
Datch:すごく派手な感じだったんですけど、ちょっと浮かれすぎてるというか。
Shohei:BOYS TOWN GANG感がすごかった。
Datch:それだとちょっと古臭くて、今出すアレンジではなかったんですよ。逆にもっとシンプルで万人が踊れるようなTHEダンス・ミュージックにしようって。
Shohei:固いビートで四つ打ちにしたかったんだよね。
Datch:コードもめちゃくちゃシンプルにして。
Shimo:ピアノをダーンって弾くだけですからね。やっぱり1曲目で歌に注目してほしいっていうので、極力アレンジはシンプルに聴かせたかったんですよ。
-この曲は"生まれた意味はなんだろう?"というのがひとつのテーマですけど。最初の章でこういうことを表現したいと思ったのは、どうしてだったんですか?
Shohei:今は家族とかも離れ離れになったりするじゃないですか。そのときに家族で一緒に映画を観る時間って幸せだったと思ったんですよね。例えば、実家にいるときに金曜ロードショーで、"となりのトトロ"や"火垂るの墓"をみんなで観た覚えがあります、とか。そういうこともスマホの普及でなくなってきた気がするんです。そのなかで、もう1回みんなで一緒に映画を観る機会や、音楽を聴く機会を作れたらいいよねっていうのがアルバムの根底にあったんですよ。だから最初は第1章のテーマが"Why alive?"じゃなくて、"Family part"だったんですよ。アルバムとして伝えたのはそこだったんです。
-"Family part"と題して、大切な人と同じ時間を過ごすことをテーマにしようとしたら、結局その本質は、生きるとは何か? に繋がってたわけですね。
Shohei:そう、人ってなんで生きてるの? っていうことですよね。
-同じく第1章の「ココロゴト」は、川畑 要(CHEMISTRY)さんがゲスト・ヴォーカルに参加していますね。R&Bをルーツに90年代からJ-POPシーンで活躍しているアーティストという意味では、THREE1989にとっては特別な存在だと思いますが。
Datch:ずっとテレビで活躍されてるのを見てましたからね。こうやって一緒に表現できたのは自分たちにとっても貴重な経験になりました。
-どういう経緯で実現したんですか?
Datch:『Time Line』(2017年リリースの1stアルバム)のときに、MTVのMCをされてる方と知り合う機会があって。"CHEMISTRYが好きだ"っていう話をしてたら、ライヴに呼んでいただいて。そのときにご挨拶をしたのが最初の出会いですね。そのあとに、その方の番組にShohei君が呼ばれて。同じタイミングでゲストに川畑さんも呼んでくださって。
Shohei:そこから、川畑さんが"今何してるの?"って連絡をしてくれるようになったんです。"遊びに行こうよ"とか。一緒に飲みに行ったりもしてて。今ではお兄ちゃん的な先輩というか。"いつか一緒にやりたいですね"みたいな話はしてたんですけど、今回メジャー1stだし、"ここで何かやろうよ"って言ってくれたんです。
-トラックは、川畑さんとコラボするために書いたんですか? それともデモの中から、これなら川畑さんと合いそうだなっていうものを選んだのか。
Datch:デモの中から選びました。
Shohei:川畑さんと"どんな曲にしようか"っていう話をしてるときに、たまたま人生観の話になったんです。それがちょっと恋愛観にも繋がる話で。"それ、面白いテーマですね"ってなって、わーって書き上げた感じですね。
-そのときに話したことについて、もう少し詳しく聞かせてもらえますか?
Shohei:人間の理性と欲望の狭間っていろいろあるよねっていう話をしてたんです。守りたいものがあるのに欲望が走っちゃうときがあるよね、みたいな。そこに葛藤もあって。川畑さんは40代で、僕は30代ですけど、若いときは何も考えずにやりたいことを選択できた自分たちがいたけど、だんだん年齢を重ねてきて。守りたいものが増えていくなかで、思ったことにすっと飛びつけなくなったなって話したんですね。
Datch:チャレンジがね。
Shohei:そう、チャレンジすることが億劫になるよね、みたいな。でも、していかなきゃいけないじゃないですか。川畑さんは今もチャレンジをしてるし。じゃあ、僕らも川畑さんの背中を見てチャレンジしていきたいよね、みたいなところも、恋愛のメタファーとして書いたんです。
-川畑さんとのレコーディングはどう思いましたか?
Shohei:パワーの差を感じました。積んでるエンジンの差がすごくて。あの人は身体が音を鳴らしてるんですよ。僕が先にレコーディングして、川畑さんがあとでレコーディングしたんですけど。僕の声を聴かずにうわーって熱く歌ってくれたから、実はかなり温度差があるんです。俺はさらっと気持ち良く歌おうかな、みたいな感じだったので。そのアンバランスさが逆に良かったと思うんですよね。どう思った?
Shimo:うん、面白いなと思いました。剛と柔みたいな。
Datch:ヴォーカリストが変わるだけでこんなに伝える言葉の意味が変わるんだっていう感じがした。同じ"愛してる"でも、ヴォーカリストによって、どういう愛してるなのかが違うみたいな。そういう言葉の熱量の違いは面白かったです。
-第3章の「君のウインクが欲しい」はアップビートでファンキーな曲調だけど、いろんなジャンルも混ざってて。ちょっと不思議な曲だなと思いました。
Shimo:あれは全部サンプリングで作ってますね。まず、Shoheiにデモを貰って、僕がアレンジをしたんですけど。ラフ・トラックを聴かずにアカペラのみでアレンジしたんですよ。そしたら、Bメロに間違ったコード進行があって。あえて直さずにそのまま使ったのがいい感じにハマったんです。そこから変な曲にしたいなって思って。サビで無理矢理半音転調させて、本録りのとき、(Shoheiに)"半音下で歌ってもらっていい?"って言って。初めてヴォーカルの素材も崩しました。この曲は歌詞にあんまり意味がないって聞いてたんですよ。書けなかったときに、公園でパっとできたみたいな。
Shohei:そうそう。曲が書けないってなって公園に行って、"書けねぇ"ってことをそのまま歌詞にしたっていう。
Shimo:だから逆にトラックで遊べるなと思ったんですよ。めちゃくちゃやったっていう(笑)。ディスコとかR&Bの部分もあったり、実はテクノの音色も使ったりして。Aメロ、Bメロ、サビで全部キーが違うんです。
Datch:変な曲よね。ここまでのテンポ感は今までなかったし。
Shimo:なかった。速いよね、これ。
-今までのルールに則ってたら、このコードは間違ってる。じゃあ、正しいコードに直そうってなってたけど、それすら遊んじゃうのが今のTHREE1989の発想なんですね。
Shimo:そうですね。かなり自由にやれるようになりました。マニアックな話で言うと、リニア・ドラミングっていうのを使ってるんです。全部音がバラバラになってて、重なってる部分がないんですよ。でもちゃんとリズムにのって、グルーヴができてるっていう。
Shohei:何それ? どういうこと?
Shimo:普通はドラムとベースで重なってる部分があるじゃないですか。その重なってる部分をなくして、断面的に切り取ると1個の音しか鳴ってないみたいになる。ちょっと不思議な感じになるんです。1番のAメロだけですけどね。実験的な手法だから、やる機会がなかったんですけど。今回は本当に自由だったから、こういう遊びもできたんです。
-この曲は歌詞も場面転換が激しいですよね。"染色体に浸かって成長したいわ"っていう謎のフレーズも出てきたりして。
Shohei:ははは(笑)、ですよね。これは胎児とか、それよりも前に戻りたいっていう気持ちです。胎児って精子の段階では染色体なわけじゃないですか。だからもうお父さんのDNAレベルまで戻って、もう1回人生をやりなおしたいな、みたいな。ちょっと病んでたんですよ、書けなくて(笑)。
-ただ(資料の)セルフ・ライナーノーツには、生活の中にある幸せに気づけたら、楽しく生きられるかもというメッセージを描いた曲と、前向きに書いてありました。
Shohei:一応、書いたあとには後づけの意味を考えたんです(笑)。書いてる当時はただただ病んでました。これはカオスですね。「夏ぼうけ」の前だったのかな。この曲ができたあとに、やっと「夏ぼうけ」みたいな突き抜けたものができたんです。
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