Japanese
mihoro*
2021年01月号掲載
Interviewer:吉羽 さおり
楽しかったとか幸せだとかよりも、"マジで、なんだよあれ"っていうほうが書きやすい
-では、ミニ・アルバム『Re:』についても聞いていきたいと思いますが、まずは1曲目の「ナチュラルハイ」。12月10日のライヴ("mihoro*「Re:」発売記念弾き語りライブ")では弾き語りで披露していて、それもすごく良かったのですが、アルバムでのバンド・バージョンは白昼夢的なアレンジで、違った聴きどころがありますね。サウンド面ではどんなイメージをしていた曲ですか?
この曲はもともと高校生の頃、バック・バンドをつけてライヴをしたときに、こういう感じのアレンジがいいですって当時のバンドの方にお願いしていたんです。今回収録するにあたって、うにさん(雲丹亀卓人/編曲/ex-Sawagi)にも、ベースはこんな感じでお願いしますって伝えました。このCDに入っているのは、アウトロ部分で最後まで楽器がわーっと鳴っているものなんですけど、それがあるバージョンとなしのバージョンがあって。制作のとき、"最後の曲なら、アウトロがあるのもありだけど......"という話をしていたんです。でも、私は「ナチュラルハイ」は1曲目だけど、このアウトロを入れたいですって言って、このバージョンになりました。
-「知らないワタシ」は、内容は鬱屈してるけど曲がカントリー調で明るい、そのギャップがいいなという曲でした。これは、自分のことを歌ってるなというのはありますか?
なくはないなと思ってます(笑)。
-こういうのを見ると、いったいmihoro*さんってどういう人なんだろうと思います。すごく冷静に自分や、物事を見ているなという感じがあって。どういうことを考えて、例えば、人との関わりの中でどんなスタンスで生きてきたのかなっていうのが気になる。
冷静だとは思います。普段の会話でも、話しながら"きっとこうなんだろうな"って思ったりしちゃう感じで。今回「いつか、」という曲がありますけど、実は"いつか"という言葉が嫌いで、"いつかこうしよう"、"今度あれやろう"みたいな曖昧なスケジュールがすごく嫌なんです。この間話した"いつか何々したい"って話を私は覚えているけど、きっと相手は覚えてないだろうなと思っちゃうんですよ。私だけが楽しみにしてて、向こうはたぶん覚えてもないだろうなって。来月どこどこに行こうとかだと、具体的だからいいんですけど。"いつか"っていうやんわりした感じの表現が嫌で、自分が傷つくだけだなと思ってしまうんです。
-そうなんですね。
かと言って、もう1回、自分から"どこどこ行こうよ"って言う勇気もないというか。
-先読みしすぎちゃってるというか、相手の空気を読みすぎているんじゃないですか。
それはマネージャーさんに言われます(笑)。きっとこう思っているのかなって、すぐ考えちゃうんです。
-答えに辿り着くまでにいろいろなことを考えすぎちゃうんですね。「知らないワタシ」もそうですが、そういうところも曲に出てしまうんでしょうか。
そうですね。きっと何もしないで終わるっていうのが出ている歌詞だなと思います。
-その感じは、「ルサンチマン」を聴いたときも思いました。これこそ自分を客観視してるというか、私はそこでどういう立ち位置/役割なのかとか、人の立場を感じながら毒を吐いている面白い曲だなって。
「ルサンチマン」は最初、ライヴで盛り上がるアップテンポの曲を作りたいなというのが始まりだったんです。今までも、苛立ちや妬みが入ってるような歌詞の曲は、比較的アップテンポなものが多いのがあって。何も考えずにそのままアップテンポな曲を作ろうって思って書き始めたんです。ルサンチマンという言葉はもともと知っていて、その視点が弱いほうから見ているものなので、それがすごくいいなと思って。
-何か自分に重なる部分もあるんですか?
学校だとスクールカースト的なものってあるじゃないですか。私は別に上のほうにいたわけではないですけど、だからと言って上のほうにいる人を、"なんだよ、あいつら"とも思っていなくて。2番の歌詞で"あんた私のことが嫌いでしょ/私はあんたが嫌いだよ"ってありますけど、結局こうやって相手にイライラしたりするのはまだよくて、興味がなくなることが一番怖いなと思うんです。本当にその人のことがどうでもよくなると、嫌いとかも通り越してしまうっていうか。嫌いなままでいるのって、結局はお互いが突き放そうとはしてない関係なんだろうなと、そういう強者と弱者を書いているんです。結局どちらも、お互いがいたほうがいいんだろうなっていうか(笑)。ケンカは売ってるけど、どちらもいなきゃと思っているんだろうなと。
-こういうアグレッシヴでスピード感のある曲だと、怒りや葛藤をぶつけたり、鋭い言葉を使ったりしてみたくなってしまう?
そうですね。私の曲自体が2種類しかなくて、こういう曲か恋愛の曲しかないんです。でも恋愛の曲を歌っているのも、根底に苛立ちがあってできあがる曲なので、結局同じなんですけど(笑)。この「ルサンチマン」のように早口で歌ったり、アップテンポでとなったりすると必然的に歌詞の量も増えるので。そうすると強めに書いてしまうっていうのはあると思います。
-イライラしたこと、思うようにならないことというのが何かしらの形で曲になっていくんですね。そういうのは何か原点があるんですかね。
書きやすいのかもしれないです。今日は楽しかったとか幸せだとかよりも、"マジで、なんだよあれ"っていうほうが書きやすいっていうか。あまり幸せなときに使う単語を知らないというか──別に幸せじゃないわけではないんですけど(笑)。
-はい(笑)。楽しい、幸せだっていうのはそこで終わっちゃいますしね。
そうです。楽しかったーで終わっちゃうので。嫌なことがあったときは、これがこうだから私は嫌だなとか考えるので、曲にしやすいのはあるのかもしれないです。
-でも、それでいて嫌な感じで終わる曲に仕上がらないですよね。作ってるうちに、こうしたら面白いとか、発想が変わってくる感じがあるんだろうなって。
イライラして曲を作り始めますけど、やっぱり聴いていていい気分にならない曲は嫌だなってなるので。
-「遊んでたの、知ってるよ。」のように、徹底的にこの彼氏を嫌なやつ、ムカつくやつとして描いてやろうみたいなことも出てきそう。
悪者にしてやろうみたいな(笑)。それはありです。
-このアルバムでは、新しい曲からこれまでの曲をリレコーディングした曲など8曲が収録されましたが、この曲は作り上げるの大変だったなというのはありますか?
「コドモノママデ(20)」と「さよなら最愛の人」ですね。「さよなら最愛の人」は今年(2020年)1月に配信1st EPとしてリリースした曲なんですけど、配信をすること自体が初めてで。今まではライヴハウスでしかCDを売っていなかったので、これまでライヴに来たことがない人が私の曲を聴いてくれる。あとはYouTubeもカバーばかりだったので、入口がふたつあって、ライヴハウスで私を知ってくれた人とYouTubeを観て知った人とで、mihoro*の感じ方が全然違うと思うんですね。だから、どちらにもハマってほしいなと思っていたんです。「さよなら最愛の人」は、配信するとなったときたくさん曲を作って、どれにしたらいいか悩んで......結局これが一番、日本人に馴染みやすいコード進行を使っていたのもあって、考えて作った1曲になりましたね。
-「コドモノママデ」は6月にシングルとして配信リリースした曲ですね。
「コドモノママデ」は二十歳になる前に、その10代最後の想いを大事にした曲を出したいと思っていて。この曲は、2番に"貴方はいつもカレーばかり"とか、ちょっと一番とは違ったテイストのフレーズが入っているんですけど、最初はこの部分はなかったんです。でも今まで恋愛の曲が多かったので、そういう流れも残しておきたかったし、単体で配信をするからこそ、余計に今までっぽい感じも残しておきたいなというのがあって。それで、二十歳になるぞっていう曲だけど、あなたのことも忘れてないですよというのも含んだものがいいなって思ったんです。
-アルバムが10月に全国流通盤としてリリースとなって、いろんな人が手に取って聴いてくれたり、リリース・イベントもできたりして、ようやくアルバムができた実感みたいなものが湧いている頃だと思いますが、反響や手応えなどはどうですか?
そうなんだっていうのはいろいろあります。"「ルサンチマン」をそんなに聴いてくれているんだ"とか、"意外と「知らないワタシ」はそんなになんだな"とか、思っていたのとは違うところもあるなとは感じました。
-自分が思っていたよりも、いろんな曲が刺さってるぞと。
「遊んでたの、知ってるよ。」はMVも観てもらっていたので、それがやっとこうしてCDや配信にもなって、みんな聴いてくれるのかなって思ってたら、「ルサンチマン」のほうが聴いてるんだって(笑)。そうなんだなと思いました。
-アコースティックの良さもあり、バンドの良さもあり、アレンジの面白さもありとアルバムとして充実したものになったので、楽しく聴いてもらえるのではと思います。そして、2021年2月2日には、渋谷WWWでバンド・セットでのライヴ("破釜沈船")が行われる予定です。このライヴへの思いも聞かせてください。
東京でのワンマンは1年半ぶりくらいになるんです。まだ、どういうふうにしようか考えてなかったんですけど、12月10日のライヴでそのライヴをやると発表して、MCで"2ヶ月切ってる"って自分で言ったときに、"2ヶ月切ってるんだ!?"って思って。考えなきゃなと思いました(笑)。"破釜沈船(読み:はふちんせん)"というライヴ・タイトルにしたんですけど。これには、船を捨ててでも、帰ってこないぞくらいの勢いで行ってやる、行きしか用意してないという覚悟でやるって思いがあるので。まだ状況的にどうなるかわからないですけど、なんとしてでもやりたいなと思っています。
LIVE INFORMATION
"mihoro* mini Album『Re:』リリース記念ワンマン「破釜沈船」"
2021年2月2日(火)渋谷WWW
OPEN 18:00 / START 19:00
スタンディング一般 ¥3,800
詳細はこちら
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