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INTERVIEW

Japanese

INORAN

2020年10月号掲載

INORAN

Interviewer:杉江 由紀

どこよりも広くて自由な場所は自分の頭の中の世界である、と言い切るINORANはLUNA SEAのギタリストとして全世界的にも著名である一方、遡ること1997年以来ソロ・アーティストとしても実績を積み重ねてきた人物だ。本誌初登場となる今回は、13枚目となるソロ・アルバム『Libertine Dreams』が生まれていった背景を中心としながら、このコロナ禍をポジティヴに生き抜こうとする彼の、泰然とも言えるそのありようを語ってもらうことができた。もはやLUNA SEAのギタリスト INORANのソロ作という肩書きにさえ縛られることのない、貪欲なクリエイティヴィティが見事に具現化したこの音の持つ奔放さは実に尊い。


ステイホーム期間の状況に対する葛藤も「Don't Bring Me Down」の中には含まれてると思います


-本誌初登場となるINORANさんですが、昨夏にリリースされた前アルバム『2019』から約1年が経ち、今回は新しいアルバム『Libertine Dreams』がここに完成となりました。去年の今頃は、まさか世界がこのように変容してしまうとは誰も予想できなかったわけですけれど......まずはINORANさんが今年に入ってからここに至るまでの間、どのように日々をお過ごしでいらっしゃったのかということを教えてください。やはり、今作に向けての制作に集中されていたことになりますか?

たしかに、この『Libertine Dreams』に向けての制作はずっとやってました。でも、基本的には僕も世界のみんなと一緒でしたよ。こういう世の中になって、いろんな影響は受けましたから。今年は30周年を記念したLUNA SEAのツアー("LUNA SEA 30th Anniversary Tour 2020 -CROSS THE UNIVERSE-")もあったんですけど、2月末以降はそれが続々と延期になっていきましたしね。そこからステイホーム期間に入っていったなかで、人によっては断捨離だったり、あるいはパン作りや料理だったり(笑)、いろいろと家の中で"やれること"を探していったんじゃないかと思うんですけど、僕の場合それは曲作りだったんです。だから、ここに入っているのはまさに、非常事態宣言が出ていた最中に作っていた曲たちばかりですよ。

-ちなみに、非常事態宣言が明けた直後の5月末には、医療従事者およびフロントライン・ワーカーズへの支援を目的とした、"MUSIC AID FEST. ~FOR POST PANDEMIC~"というリモート・フェス型特別音楽番組が、LUNA SEAの主宰によってオンエアされたこともありました。つまり、INORANさんはこのコロナ禍にあっても、音楽とはずっと密な関係にあったと言えそうですね。

ええ。音楽はいつもと変わらず自分にとって身近なものでした。そして、音楽は希望でもあったんだろうなと思います。今になって振り返ってみるとね。

-なお、今作『Libertine Dreams』は、INORANさんがおひとりですべてのトラックのアレンジ、演奏を遂行されたのだとか。このたび近年とまったく違う制作プロセスを辿ることになった理由も、やはり新型コロナの影響と無関係ではないのでしょうか?

作り方が変わった理由はふたつあります。ひとつは、去年末で、僕のソロでいつも叩いてくれているドラマーのRyo(Ryo Yamagata)君が、ケガによっていったん戦線離脱をすることになりまして。そうなったときに僕の中では他の人に叩いてもらうという選択肢はなかったんですね。あとはやはり、ステイホームな状況の中で音を作るとなったときにどうしたらいいのか? ということを考えた結果、これまでとは音の紡ぎ方を変える必要があると判断したからです。

-バンドで音を出すというモードから、おひとりでトラックを仕上げていくモードに変わったことにより、そもそもの曲作りに対する意識自体に何かしらの影響が及んだところは出てきましたか?

全然あります。まずは、自由に作れたというのが大きいです。結局、『2019』まで続いていた近年の音の傾向としてはドラムがいてベースがいて、ギターがいてというバンド・サウンドが軸だったし、ライヴでやるときにも"ロックンロールしたい!"って気持ちが根底にはありましたからね。その点、今回は突然に訪れた長い春休みというか。先行きも見えないなかで制作に入ったので、制作しているものの先にライヴがあるとかないとか、そこは考えていなかったんですよ。そこよりもまずは、今の自分が感じていることや、思っていることを自由に音にしていって、どんどん紡ぎ続けていったら1枚のアルバムができあがったんです。

-今作『Libertine Dreams』には、いわゆるバンド・サウンドとは一線を画する、モダンで小粋な音がたくさん詰まっている印象です。

INORANというアーティストに対するパブリック・イメージが、果たしてどんなものなのかはよくわからないところもあるし、なんとなく自分でもわかるところもあるんだけど、前作と今作との大きな違いがあるとしたら、今回はもともと自分の中にあるものが、ここにきて改めて形になったということなのかもしれない。例えばそれは、数年前にメキシコで聴いて感銘を受けたカリビアン・ハウスだとか。別に場所は問わないんだけど、いろんなところでこれまで聴いてきた音楽たちのエッセンスが、自分にとっての創作のヒントとなって、新しい曲がいろいろと生まれていったっていうことなんでしょうね。だから、何かを狙ったとかはまったくないんですよ。ほんとに自由に作ってる。逆に言えば、前作までは狙ったり、絞り込んだりしてバンド・サウンドやロックンロールを形にしていたとも解釈できるよね(笑)。そういう意味での制約は、今回は何もなかったわけです。

-時系列で言うと、今回最初に生まれたのはどちらの曲になりますか?

リード・チューンにもなってる、1曲目の「Don't Bring Me Down」です。今回のアルバムは、ほぼできた時系列どおりに収録されているかな。

-だとすると、最初に「Don't Bring Me Down」ができあがったときに、INORANさんが感じられた手応えがどのようなものだったのかも気になります。

あぁ、これは我ながらに面白いものができたなと思いました(笑)。"俺は刺激が欲しいんだな"とも感じましたよ。要するに、ステイホームになったことで、人間にとっては当たり前だった移動する自由というものが奪われてしまったわけでしょ。それは当然つらいことだし、"この状況をどう思う?"っていう自分に対する問いや、そのときの状況に対する葛藤も、この曲の中には含まれてると思います。

-そんな「Don't Bring Me Down」を筆頭に、今作も歌詞は全曲英詞になっておりますが、これはきっと音とのマッチングを考えられてのことなのでしょうね。

そうそう。近年の自分が作るメロディ・ラインは、日本語と比べると英語のほうが合う感じがするというか。もはや、自分にとっては英詞で歌うのが自然なことになってます。

-単なるロックでもなければ、クラブ・ミュージックの要素もありつつ、ポップ・ミュージックとしての素養も含んでいながら、どこか無国籍なニュアンスまでをも含んでいるせいか、今作『Libertine Dreams』はなんとも不思議でいて心地よい音に溢れていますね。

もちろん、自分自身のアイデンティティはベースに必ずありますけど。そうやって、この音に自由さのようなものを感じてもらえるのだとしたら僕としては非常に嬉しいです。自分の思う究極の音楽っていうのは、どんな空間に流れていても似合うようなものですから。ジャンルはそれぞれ違うにしても、Bob MarleyだってMETALLICAだってU2だってOASISだって、ニューヨークの5番街で流れてようと日本の地下鉄の中で聴こうと、スイスの山奥だろうとプーケットのビーチだろうと、どこだって違和感なく聴けるはずでしょ? 偉大な音楽はたぶんどれもそうで、僕はそこに対して"自分の作るものはどうなんだ?"っていう自問自答を常にしてるんです。まぁ、歌うという部分についてはまだそこまでの自信はないにしても、音楽そのもののあり方として目指してるのはあくまでそこなんですよね。

-必然的にといいますか、INORANさんは、常日頃からの情報インプット量が相当なものになっているのではありませんか。

世の中に自分の知らない音楽があるのは悔しいんですよ(笑)。できるだけ全部知りたいですもん。音楽を好きな気持ちも、誰にも負ける気がしない! って思ってるし。むしろ、そこしか勝ち目がないっていうことでもあるんですけど。

-そんなまさか!

それこそ、キャリアにしたって実績にしたって僕がMick Jagger(THE ROLLING STONES/Vo)に勝つのは難しいじゃないですか。いや、ほんとに(苦笑)。でも、音楽を好きな気持ちだったら僕は負けないし、負けたくない。だから、人より知らない音楽があるというのは悔しくてしょうがないんです。いっぱい音楽を聴くようにしてるのは、そのためなんです。