Overseas
Jon Spencer
2018年11月号掲載
Member:山口 智男
伝統的なロックンロールのベースの代わりにシンセサイザーを使いたかった。それからメタル・パーカッションも
-アルバムを聴いて、60年代のガレージ・ロック・バンドや彼らがカバーしていたR&Bに対するオマージュを感じたのですが、初のソロ・アルバムを作るにあたっては、どんなテーマがありましたか?
今回はとにかくひとりで曲を書き始めたんだ。ギターを弾きながらね。そしたら俺のキャリア初期を振り返ったような感じの内容になった。俺が昔組んでいたバンド、PUSSY GALOREみたいなね。PUSSY GALOREの初期の楽曲は、大半を俺がひとりで書いたんだ。そういう昔の習慣に戻ったような感じだったね。そんなわけで曲はギターから生まれて、形作られていったんだ。60年代のガレージ・パンクの影響は常に心の中にあったし、常に前面に出てくるべきものだった。だからそれが今回のアルバムの一部だったのは間違いないね。あとはシンセサイザーを使いたい気持ちはあった。ベースは使いたかったけど、伝統的なロックンロール的なエレクトリック・ベースの使い方はしたくなかったんだ。代わりにシンセサイザーを使いたかった。それからメタル・パーカッションも使いたいと思っていたんだ。メタル・パーカッションもまた、自分の過去と、昔のバンド、PUSSY GALOREに対するオマージュなんだよ。あの手のインダストリアルなノイズはメタル製のパーカッション的な楽器を使って出すんだけど、俺はそれを大昔にPUSSY GALOREでやっていたんだ。
-PUSSY GALOREのことはたしかに思い出しました。メタル・パーカッションやインダストリアルな音作りの話も聞こうと思っていたんですよ。
でも今回は他の要素もいろいろあるんだ。ファズ・ギターも多用していて何層か重ねているし、フィードバックもいくつか重ねている。メタル・パーカッションも使っているけど、今回はもっと......PUSSY GALOREよりは抑えが効いているんじゃないかな。
-そうですね。
でも俺にとって、昔のサウンドをひもとくのは嬉しい作業だったよ。もうひとつ、過去、特にPUSSY GALORE時代とリンクしているのは、曲のおよそ半分をギターのフラット・チューニングで録音したことだね。PUSSY GALOREを始めたころはギター・チューナーを持っていなかったから、お互いの音に合わせてチューニングを行っていたんだ。だからPUSSY GALOREの初期のアルバム2作はコンサート用のピッチで録られていないんだよね。標準的なチューニングじゃなかったんだ。俺たちの耳に任せた奇妙なチューニングでね。それのおかげで曲には独特のクオリティやサウンドが生まれたんだ。そういうものもまた、今回ひもといてみたかった。『Spencer Sings The Hits』の曲はみんな標準的なチューニングを使って書いたんだ。でもミシガン州のスタジオでレコーディング したときには......Sam Coomes(QUASI etc)と、ドラ ムを担当してくれたM.SORDと3人で取り組んだんだけど、曲を覚えたら弾き心地がよくなるまでやってみて、それからいいテイクができるまで繰り返しレコーディングした。そのプロセスの一部は、音の調整に費やしたんだ。ギターを替えたり、スネア・ドラムを替えてみたり、マイクの位置やタイプを変えたり、音の処理方法を変えたりしてね。そういう作業のすべてが相まって、新しいタイプのサウンドを生み出したんだよ。今までとは違ったタイプのムードやフィーリングを作ることができた。このプロセスの中で俺たちは、ひとつひとつの曲を覚えて、標準的なピッチで演奏したんだ。それからギターをチューン・ダウンしたり、弦を緩めてみたりした。そうしたらまったく違ったキーでその曲を演奏することができるからね。いくつかの曲ではそのプロセスがうまくいったし、そういう実験的なプロセスを経て生まれた曲なんだ。緩いアプローチの恩恵を受けたということだね。曲によっては半分を緩くしてみたり、完全にルーズな感じでやってみたりもした。そういう実験をアルバム作りのなかで、今回のアルバムの共同プロデューサーで、レコーディング・スタジオ Key Club(Key Club Recording Company)の人間でもあるBill Skibbeと試していったよ。
-ひとりで曲を書いたことによって、ご自分のルーツに立ち戻ることになったという感じでしょうか?
うーん......そうだなぁ......ある意味そうだったかも知れないな。でも2018年に生きる初老の男としては気をつけたよ。もうハタチじゃないからね(笑)。当時のアイディアや作業のメソッド、サウンド、コンセプトをひもときつつも、前進して、何かしら新しいものを試してみようとしたんだ。過去のオマージュでありつつ未来を向いているという感じだね。それが俺の試みだったんだ。
-わかります。昔の曲を彷彿とさせながらもノスタルジックではないといいますか。
それは嬉しいね!
-そこが気に入っている面のひとつでもあります。でもPUSSY GALOREは今もカルト的な人気がありますが、あの時代を振り返って、どんなことを思い出しますか?
うーん......俺にとってはミステリーのようなものだね。俺は振り返ることにあまり時間を費やさないタイプだから、振り返るのは難しいよ。あまりよく覚えていないし、今はある意味、当時とは全然違う人間になっているからね。だから思い出すのが難しいんだ。PUSSY GALOREを聴くときは、他人の曲を聴いているような気分になるよ(笑)。
-レコーディングはSam CoomesとM.SORDと行ったそうですが、なぜ、そのふたりと行ったのですか? また、ふたりとはいつごろから、どんな付き合いなんでしょうか?
Samとはかなり前から知り合いだね。2000年ごろ、あるいはもう少し前から。1998年だったかな? 少なくとも2000年ごろには知り合いだったのは間違いない。彼とは彼のバンド、QUASIを通じて知り合ったけど、彼はElliott Smithとも共演したことがあったんだ。HEATMISER時代だね。俺は彼の曲の大ファンなんだ。彼のキーボードの大ファンでもあるし、彼のスタイル全体や美学のファンだね。また、同世代でもあるし、同じ音楽シーンから出てきた。出身は同じアメリカでも違うところだけど、彼もまたハードコアなパンク・ロック・ミュージック出身で、アメリカのアンダーグラウンド・シーン、インディー・ロック・シーンで活躍してきたんだ。だからアートや音楽に関してバックグラウンドと価値観が共有できるんだよね。俺はベースのパートをシンセにしたかったから彼に参加してもらったんだ。オーバー・ダブはしたくなかったからね。ちゃんとバンド的な音にしたかったんだ。スタジオをブッキングして、彼にはカジュアルな形で来てもらったよ。"今からセッションをやるんだけど、来て一緒にやらないか?"みたいな感じでね。とても気楽なセットアップだったよ。M.SORDとはKey Clubの作業を通じて知り合ったんだ。今回のアルバムを作ったところだね。Key Clubはミシガン州ベントンハーバーにある。俺は何度かKey Clubで作業したことがあって、初めてそこで作業したのは友人のAndre Williamsのアルバム(『Night & Day』)を作ったときだった。HEAVY TRASHのMatt Verta-Ray(Gt)とTHE SADIESと一緒にね。その数年後に今度はBLUES EXPLOSIONとしてアルバムを作った。それが『Meat & Bone』(2012年リリース)だった。そのあとは(BOSS HOGで)『Brood Star』と『Brood X』を作ったんだ。そんな感じで俺はスタジオに惚れ込んでいるから、『Spencer Sings The Hits』もそこで作りたいと思っていた。一連のプロジェクトを通じてSORDとは親しくなったんだ。彼はスタジオで非常勤のアシスタントをやっていたけど、親しくなっていくうちに、すごく優れたドラマーだということがわかった。
-彼らとレコーディングしたことで、これまで作ってきたどの作品とも違うものになったという手応えもあるのではないですか?
もちろんさ。曲は俺が全部書いたし、デモも全部ひとりで、自宅で作ったんだ。SORDともSamとも共有しないで、彼らにはギターで聴かせただけだった。それで指示を出したんだ。俺の望みどおりの音を出してもらえるように一緒に作業した一方で、彼らがミュージシャンとして個性をもたらすことができるような余地を曲の中に作ったんだ。彼らがそうできていたことを願うよ。
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