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INTERVIEW

Japanese

キノコホテル

2016年08月号掲載

キノコホテル

Member:マリアンヌ東雲(歌と電気オルガン)

Interviewer:岡本 貴之

-このヴィジュアル・イメージはどうしてこうなったんですか?

まず、チョーヒカルさんという若くてトンがったアーティストと組みたいという個人的な希望がありまして。単純にチョーさんにペイントをしてもらいたかったの(笑)。"顔にあんなものを描かれるなんてどんな気分なのかしら?"っていう単純な興味から始まって。それでチョーさんとお話をしていく中で、タイトルが革命であるということと、今までのキノコホテルのイメージと異なる新鮮なモチーフとはなんぞや、というのを練っていくうちに今回のヴィジュアルになりました。チョーさんって生々しい人間の目とか縫い目、人間っぽいモチーフも手掛けている方なんですけど、その一方でこういったメカメカしい人工的なものも得意とされるので。キノコホテルって、女性らしさとか弱さに対して強さがあったり、様々な相反する要素を持っているグループなので、今回は意表を突いて極力人間味を排したものでいきたいと。音楽の全体的な存在感として、キノコホテルが持っている異質な雰囲気とか違和感を持ってくるには、このバランス感だと直感したんですね。今まで組んできたアート・ディレクターさんは、マリアンヌのエロス推しでいく方が多かったので、自分もそれに乗っかってやらせていただいたんですけど、今回はそういうものと一度決別したいという思いがあったんです。

-このアートワークに呼応するように、Track.9「流浪ギャンブル(メカ仕様)」ではオートチューンを使ったヴォーカルを披露していますね。

この曲は別テイクがあるんですけど、それとの差別化を図りたいというのと、キノコホテルの中では1、2を争うくらいのポップさを放つこの楽曲が、アルバムの中で変に浮いて聴こえないような落としどころを見つけたいというのがあったんですよね。すごく前向きでポップな曲なんですけど、声をいじることで私と曲の間に適度な距離感を持ちたかった。作者が言うのもアレなんですが、本当にこの曲難しいんですよ(笑)。

-すごくキャッチーで耳に残る良い曲ですよね。

ありがとうございます。そう言ってくれる方も結構いらっしゃって、楽曲そのものは良い曲、自分からよくこんなポップな曲が出てきたなと思うくらいの曲なんです。本当はこの曲はかわいらしいピチピチなアイドルとか、アニメの声優さんとか、むしろそういう子に歌ってほしいくらいなの(笑)。曲はすごく良いんですけど、最初は意外とこれを歌うことに非常に照れがありまして。"こんなの私じゃな~い!"って言いながらマイクの前で七転八倒したものです(笑)。もう、最初で最後なんじゃないかっていうくらいのポップ・チューンです、これは。

-こういう強いフックのある曲が入っていることで、今回のアルバムをきっかけにキノコホテルを聴く人もいると思うんですけど、そういうことは意識していましたか?

それはあんまり意識していないです。自分に向けた革命という話にも繋がるんですけど、まずは自分が楽しめる作品にしたいというのが一番だったので。でもたしかに振り返ってみるとキノコホテル入門にもいいと思うし、コアなファンの方にももちろん楽しんでいただける。良い意味で極端な作品だし、マリアンヌ東雲という人間が一番色濃く出ている作品ではないでしょうか。これまでとはだいぶ様変わりしている部分もありつつ、キノコホテル、マリアンヌ東雲という1本ブレないものがある中で、確実に世界が広がっている感じ。でもそれは、新しいものに手を出すというよりは、自分が今まで出したくなくて隠していたようなものがどんどん露呈しているというか。そういう意味ではこのアートワークにも繋がると思いますし、聴く人にとってはとても新鮮な驚きがある作品だと思います。

-Track.10「月よ常しえに」は美しいバラードですけど、すごくご自分を素直に出しているのではないかと思います。この曲について教えていただけますか?

この曲は、実はすごく時間がかかった曲なんです。子どものころからクラシックのオルガン曲、バッハとか教会のミサ曲のような厳かな音楽が好きだったので、自分の好きなものを取り入れた曲を作ってみたいと思い、この曲では多重録音した自分のコーラスと、パイプ・オルガンの音色を使って、という構想のもとアレンジまではすんなりいったのですが、そこにメロディと詞を乗せる作業がなかなか難儀でした。内省的でありながらも、そこから抜け出したいという自分も感じていて、やっぱり自分に向けた曲なんですよね。一見、恋愛の歌のようにも捉えられますけど、歌いながら自分に言い聞かせるようなところもあって、歌入れしながらそれに気づいたんです。メロディも結構迷って、キモになる部分もいくつかパターンを作ってスタジオに持っていったんですけど、いざ歌ったら自分のキーに合わない(笑)。ただ歌入れの最終日だったのでもう時間がないわけ。その場で即興でメロディを作り直して、エンジニアさんに"どうでしょうこれ?"って聞いたら"僕はすごく好きですよ"って言っていただけたので、"じゃあこれで"という感じで(笑)。本当に時間がない中で最後にこの曲を歌入れして、"ようやく終わったなぁ"って、気づけば真夜中で電車も何もない時間になっていました。そういう意味ではすごく印象深い曲ですね。

-こういうきれいなメロディの曲やポップな曲がある反面、Track.8「赤ノ牢獄」は入り組んだアレンジのプログレッシヴな曲になっています。アレンジ面でもいろいろなことを試みたアルバムではないですか?

「赤ノ牢獄」は、ギター・ソロとか人力で進めていく部分と、ループ素材を録ってそれを好きなところに入れていくという、そのミックスで作っていこうと自分の中で思っていた曲なんです。4人で素材を録って、いろいろと場所を動かしたりフレーズを繰り返したりして。昨年、会場限定でリリースした曲でそういう手法のインスト曲があるんですけど、それをさらに発展させて歌とセリフとコーラスも乗せて、やりたいことをてんこ盛りでやらせていただきました。ただ、4人でやれる範囲でやるというのがキノコホテルなので、今までのキノコホテルのイメージから離れることはいくらでもできる曲なんですけど、そのへんのさじ加減は考えましたね。

-この曲は延々と続いていきそうな不気味さを感じさせるし、延々続いてほしいという気持ちにもなります。

ふふふふふ、そうですね。実際、1回やってみたいですけどね。持ち時間が30分とか短めのステージのイベントにお呼ばれして、そういうときに4人でセットリストを決めるんですけど、すぐ面倒くさくなってしまうの、自分が。"もうこれ1曲で30分やればいいんじゃない?"って(笑)。いつかやってやろうと思っています。

-それは観る方も喜ぶのではないでしょうか?

どうでしょうね? 喜ぶのはごく一部の変態でしょう(笑)。いろいろと妄想を掻き立てる曲ですね。