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INTERVIEW

Japanese

成山 剛

 

成山 剛

Interviewer:白崎 未穂

-sleepy.abはがっつりリズムが入ったバンド・サウンドですが、やはりsleepy.abの音楽を作っている成山さんなので、このソロにはsleepy.abの香りが多いにあるなと思いました。

そうですね。"sleepy.abの感じがあるよね"っていう人と"まったく別モノだね"っていう人と結構意見が分かれてて、自分としては作ってる人が同じ人なんだから一緒かなと思ってたんですけどね。強いて言うと、トラック的な音楽の作り方をしてみたかった思いがあって、打楽器でリズムを出すというよりは、音だけでリズムを刻みたかったんです。

-なるほど。"音だけでリズムを刻む"というのがまたいいですね。3拍子の楽曲が多いからなのかもしれませんが、今回は眠りの世界へ誘うようなサウンドで、絵本の中に迷い込んだような1枚だなと感じました。

寝るときって、明日のこととか今日のこととかあんまり考えたくないし、そういう現実から離れた方がいいかなと思っていて。そういう意味で音楽を作りたいなというのはsleepy.abでも同様にあるんですけど。それを考え始めちゃうと、止まらなくなるじゃないですか。"あれは大丈夫? これは? あれ?"ってどんどん心配になってしまうので、そういう心配事はどこかへ持っていくという作用が働けばいいなと、すごく考えますね。

-しかも収録曲には"おやすみ"、"夢"、"月"など夜のワードがそれぞれあるし、タイトルの"novelette"が"短編小説"という意味ということからも子供が寝る前、母親に読んでもらう絵本のようなイメージだなって。このソロ作には何かコンセプトはあったんですか?

"novelette"というキーワードは前からあって、自主企画でやってる2マン・ライヴも"novelette"って名前でやってたり――sleepy.abのときにも、『Mother Goose』(2011年リリースの6thアルバム)で絵本の世界を表現してたんですけど、現実からの逃避ということも含めて、そういう世界観が好きなんだと思います。それに自分が作る音楽は社会的なものに関してあんまり触れないできてるんです。そういう意味では勇気づける音楽はそこに結びつくかもしれないけど、それを一旦置いて、表現したい音は"気持ちを少し解放させる"という意味あいの方なのかなと思います。感じ方や作用は人それぞれ違うんですけど、自分はそう思っています。

-『Mother Goose』といえば、Track.5「エトピリカ」はセルフ・カバーしてますね。独特な譜割りが印象的な曲ですが、今作と通じるところがあったからカバーを? もともとの曲の長さは1分2秒でしたが、今回は3分近くありますね。

いや、これは単純にプロデュースを一緒にやった田中一志(Shizuka Kanata)さんが今作を作るときに、"「エトピリカ」はやらせてくれ"って直訴してきて。もう以前に出してるのになぁって思いつつも"いい感じだったら入れます"って言って(笑)、蓋を開けてみたら、すごく良かったんですよ。また全然違う感じに仕上がったので。

-"エトピリカ"を始め、タイトルのつけ方が不思議ですよね。

エトピリカって、根室やロシアにいるくちばしが黄色い海鳥で、"エト"が"くちばし"で、"ピリカ"が"美しい"で、"美しいくちばし"って名前の鳥ですね。根室のマンホールは、エトピリカの絵なんですよ。エトピリカのグッズもたくさん売ってて(笑)。根室では"幸せを呼ぶ鳥"って言われてて、でも根室にはいないんですけどね。だから見たら幸せになれるというちょっと伝説のような鳥です(笑)。そういうファンタジー感も好きなんでしょうね。

-MVにもなっている全編英詞のTrack.2「ladifone」もファンタジー感ありますよね。

このタイトル、造語なんですよ。もともと"祈り"というタイトルで書いてた曲なんです。で、今回MVを映像作家の外山光男さんに作っていただいたんですけど、その人にお願いするときに伝えたテーマが"祈り"、"狭間"です。狭間って、夜と朝の間ぐらいのモヤっとした時間の狭間感。現実っぽいような現実じゃないような、そんな感じのイメージってことを外山さんには説明しました(笑)。で、今回のMVは"祈り"と"狭間"というテーマですね。外山さんも"成山さんの声は祈りを感じる"って言ってくださって。"じゃぁピッタリですね"と。

-そういうやりとりがあったことからもうかがえますが、MVのアニメーションとすごくマッチしてますよね。ジャケも外山さんですよね?

そうです。外山さんは福岡出身で東京の映画学校にいて、去年、札幌に住み始めた人なんです。なんで札幌に来たのか不思議だったので聞いてみたら、"雪がある所に住んでみたかったんだ"って(笑)。ちょうど展示会もあったので、行ってみたらすごく良くて、自分から"今こういう音楽作ってるんでよかったら聴いてください"って挨拶して。

-たまたま展示会に行ったんですか?

たまたま行ったんですよ。家の近くでやってて(笑)。その前に誰かが言ってたのかな......。本当に激ハマりして。時間的には夜の7〜8時に観てるんですけど、それこそ観てるときが"狭間"な感じだったんですよね。ちょっと寂しくて、ひとりぼっち感がすごくあって、だけどあたたかいという不思議な感覚。映像を観てる自分が子供になってて、大人の自分が俯瞰でそれを見てるような。なんとも言い表せない感覚でこれはヤバイなと。そんなことを思いながら観てました。

-そういう"狭間"なんですね。

そうそう。小さいころに置き忘れてきたものを拾い集めてきたような感覚。今作を作ってる最中だったけど、すごくリンクしたところがあって、一緒にMV作れたら最強だなって思ってました。

-外山さんが札幌に移り住んだからこそ、直接出会うことができて、今回のMVができたんでしょうね。

外山さんて福岡出身だからあんまり雪を見たことがなかったらしいんです。でも外山さんの作品て、雪が降るシーンが多いんですけど、それが死を感じるんですよね。寒いところにひとりでポツンといて、降ってくる雪がすごく美しくて......そのまま......。よく小さいころって、雪の中に埋まって、降ってくる雪を眺めてると目の前まで雪が降ってきて、それが3Dのように見えるから楽しくて。そのまま寝ちゃったりするんですけど、結構降られて起きたりして(笑)。