Overseas
Damon Albarn
2014年05月号掲載
Writer 山口 智男
今年1月、ともにソールド・アウトになったZepp DiverCity Tokyo及び日本武道館公演を成功させ、改めてその存在の大きさを印象づけるとともにバンドに未来があることも示唆したBLUR。そのフロントマンであるDamon Albarnが『Everyday Robots』と題したソロ・アルバムをリリースした。
Damon Albarn名義としては2012年に『Dr. Dee』をリリースしているが、同アルバムがDamon自ら音楽を担当、出演もしたオペラを下敷きにした作品だったことを考えると、「自己探求」的で「自叙伝」的だという今回の『Everyday Robots』こそが本当の意味でキャリア初のソロ・アルバムということになるのだろう。
今、手元にはDamonがソロ・アルバムについて語ったオフィシャル・インタビューがあるのだが、今回、なぜ"自己探求"的かつ"自叙伝"的な作品になったか、その理由やきっかけについては、"僕はそういう部分を楽しんだよ。自分の過去を明確に表現するという技巧そのものをね"と語っているだけで、明らかにしてはいない(以下、発言はオフィシャル・インタビューからの抜粋)。
しかし、"でもここで取り上げたのは、僕の過去のごく一部なんだ。もしこのアルバムがうまくいけば、今後長い時間をかけて、自分の体験の数々を掘り下げることができる。何しろ僕は非常に......かなり変化に富んだ人生を送ってきたからね(笑)。"という言葉からは、Damonが彼曰く、変化に富んだ人生をモチーフ(今風に言えば、ネタ)として楽しんでいることが窺え、興味深い。ひょっとしたら、彼は以前から自分の人生を題材に作品を作ろうと考えていたのかもしれない。
『Everyday Robots』のレコーディングは2013年、主にDamonがロンドンに所有しているスタジオ13でXL Recordingsの社長、Richard Russellとともに行われたが、ソロ・アルバムを作るというアイディアは2011年の暮れ、あるいは2012年の春頃にはすでにあったという。
"元を正せば、Bobby Womackのアルバムを作っている時に、(一緒にプロデュースした)Richard Russellと交わした会話から始まったんだ。また別の企画でコラボしたいねって話をしていて、最初は新たなバンドを結成しようかという案も挙がったんだけど、Richardが『それよりも、君のアルバムのプロデュースをしたい』と言ったのさ。それで僕も『オーケー。じゃあ僕はアルバムを作るよ。君がプロデュースして、僕は"Damon Albarn"になるから』と答えた。それって考えてみると、おかしなことだよね。だって僕はこれまでもずっとDamon Albarnだったわけだから。もちろんその時々によって、"BLURのDamon Albarn"だったこともあるし、"GORILLAZの2D"だったこともあるわけだけど、音楽を作っていたのは常に僕という人間だった。従って、僕は常に僕であったんだと思うんだよね。"
レコーディングではRichardが主にリズムとサンプリングを担当。それ以外は"Brianおじさん"とDamonが呼ぶBrian Enoらゲストを迎えながらDamonがほとんどの楽器を演奏したそうだ。60年代にLSDによる意識変革を提唱したアメリカの心理学者、Timothy Learyのヴォイス・サンプルなど、さまざまなサンプリングに加え、オーケストラやワールド・ミュージックを連想させる音も使い、作り上げたフォーク・ソウルなサウンドはDamonがBLURともGORILLAZとも全然違う、またひとつ新たな表現を手に入れたことを印象づけるが、同時にどこをどう聴いてもDamonらしいと感じられるのは、彼が語りかけるように歌うジェントルなメロディに彼らしさが滲み出ているからだろうか。ちなみに軽快に鳴るウクレレと聖歌隊のコーラスが躍動感を醸し出す「Mr.Tembo」はタンザニアで出会った小象を題材にキャンプ・ファイアを囲みながらウクレレで作ったそうだ。
"ただ単に、また新しいアルバムを1枚作ったというだけさ。次のアルバムは全く違う趣になるかもしれないしね。作品ごとにひとつのムードに没入し、必要な時間だけ、そこに留まる。そしてまた別の場所に進むんだよ。音楽的インスピレーション......どうかな。もちろん何かしらあったはずだけど、具体的なものは思いつかないな。そういう風にはアプローチしない。僕はただとにかく曲を作って、恐らく、その時々にどんな楽器が自分の身近にあるかってことによって、サウンドのあり方が決まるんだと思う。それにもちろん、音のパレットを特定することも出来る。例えばGORILLAZは常に、BLUR以上にエレクトロニック・サウンドに根差していた。まあ、僕自身はふたつのバンドの間にあまり大きな差を感じていないんだけどね。これは非常にパーソナルなアルバムだから、ヴォーカルの感触も従来よりもずっと親密だ。僕自身とリスナーの間で交わされる対話であり、それがどんな風に受け止められるのか興味深いところだね。"
アルバムのオープニングを飾る「Everyday Robots」をアルバムのタイトルに選んだのは、自己探求と自分の人生を語るにことに加え、テクノロジーに依存している現代社会に対する懐疑がテーマとしてあるからだ。
"僕ら自身がロボットの一種になってしまったかのような状況が頭にあった。それはつまり、今の僕らはあまりにもテクノロジーにコントロールされすぎていて、もはや常軌を逸していて......僕はいつも、メールに返信しないとか電話に出ないとか、家族や友達に怒られてばかりなんだ。でも昔は、誰かに電話をして相手が出なかったとしても、それは無礼なことにはあたらなかったよね。単に不在だったわけだから。なのに、なぜ今は常に電話に出られる状態でいなくちゃいけないんだい?なぜ不在であることが許されないんだい(笑)?そんな風に思ってしまって、僕はいつも当惑せずにいられないんだ。それにある意味で......僕らはいつも、未来が自分たちに何をもたらすのかってあれこれ思いを巡らせるわけだけど、僕が思うに、実際に未来がもたらすものって、常に何かしら、予想していたより遥かに微妙な捉えがたく、そうあからさまではないんだよ。"
作品全体を覆うメランコリーは、不確かな未来に対する不安の表れか。
"今度、ソロ・アルバムが出るんだけど、完成させた後のことはレーベルに任せっぱなしだから、いつ出るかわからない。"
今年3月、SXSWのショウケースの一環として、全米各地のラジオ局が主催するライヴでアコースティック・パフォーマンスを披露したDamonはそんなジョークを交え、ソロ・アルバムをリリースすることを観客に伝えた。リリース日がわからないなんて、その時はちょっとしたジョークなんだろうと受け取ったけれど、今振りかえってみれば、ひょっとしたら、そこには緻密にスケジュールが決められたシステマチックな人生から逃れたいという想いが込められていたのかもしれない......なんてちょっと思ったりも。
出演が発表されたFUJI ROCK FESTIVALではTHE HEAVY SEASというバンドとともにソロ・アルバムからの曲を披露するにちがいない。じっくりと聴かせる曲が多いので、ライヴはどうなの!?と心配しているファンもいるかもしれないが、Kelis、ST.VINCENTらと出演したSXSWのNPRのショウケースでは「Feel Good Inc」「Clint Eastwood」「Tomorrow Comes Today」といったGORILLAZのヒット曲も演奏して、会場を盛り上げたそうなのでご安心を。
Damonもソロ・ツアーにかける意気込みをこんなふうに語っている。
"本当にクールで若いバンドを集めたんだ。メンバーはみんな25歳くらいで、みんなヘアスタイルは僕よりずっとカッコ良くて、僕より痩せていて。だからいい感じだよ。こういうバンドと一緒だと緊張感を保てる。僕を奮起させてくれる。うん、僕はまだ人生において、胡坐をかいて安穏と出来るほどのことを成し遂げてはいない。これからまた新しくスタートを切るような気分だよ。"
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