Overseas
BLUR
Skream! マガジン 2014年02月号掲載
2014.01.14 @日本武道館
Writer 山口 智男
午後7時5分。客席の照明が消え、大歓声が日本武道館を包みこむと、メンバーがゆっくりとした歩みでステージに現れた。デニム・オン・デニムのDamon Albarn(Vo/Gt/Key)をはじめ、メンバーのいでたちはTシャツにジーンズという25年のキャリアを誇るベテランには不釣合いなほどカジュアルなものだ。日本武道館という大舞台に普段着感覚で立ってしまうところは、やはり90年代のバンドならではと思わずニヤリとせずにいられなかった。
ステージ・セットも高速道路の高架下の風景を映し出したバックドロップを掲げただけの極々シンプルなものだ(その分、照明が豪華だったけれど)。ぎっしりと埋まった客席を仰ぎながら、Damonが"Good evening."と客席に声をかける。そして、実に11年ぶりとなる......いや、オリジナル・メンバーとしては15年ぶりとなる来日公演はBLUR流のディスコ・ナンバー「Girls & Boys」で軽やかにスタート。サビではいきなり満員の客席からシンガロングが沸きおこった。
超満員の客席は90年代後半、彼らがここ日本において大きな足跡を残した証拠。客席はほとんど当時からのファンと思しき人たちが占めていたように感じられたが、そんな懐かしさもさることながら、ファンの多くがきっと、一度はバンドと袂を分かったGraham Coxon(Gt/Vo)が6年を経て、メンバーに復帰するという劇的な復活を遂げたBLURのこれからにも期待していたのかもしれない。
さすが2013年3月から大規模フェスティバル出演を含め、世界各国をツアーしてきただけあって(今回の来日公演はそのツアーの終着地だ)、バンドの演奏はそんな期待に十二分に応えるものだった。若いバンドのように曲をたたみかけ、盛り上げるようなことはしないけれど、ジョーク混じりのMCを挟みながら、曲と曲の間合いをたっぷりと取って、ゆったりした時間の流れを作りながらじわじわと熱を高めるステージ運びは、やはりベテラン。カジュアルないでたちとは裏腹に演奏そのものは貫禄という言葉がふさわしい。
イントロが流れたとたん、客席から溜息がもれた「Trimm Trabb」とホーン・セクションとコーラス隊を迎え、Damonがキーボードを弾きながら歌った「Caramel」ではサイケデリックともフリーキーとも言える混沌を演出。その直後、Grahamが歌ったポップな「Coffee & TV」からは若干、テンポが変化。前半はまるでウォーム・アップだったんじゃないかと思わせるほど、ぐいぐいと盛り上げていった。
中でも圧巻は観客全員で歌ったトラッドおよびゴスペル風の「Tender」。武道館全体が幸福感と瞬間光に包まれた、あの時間は確実に、この夜のハイライトだった。その後もDamonが客席に下りる奮闘を見せた「Country House」「Parklife」といった人気曲をつなげ、Damonが歌い上げた本編ラストの「This Is A Low」までノン・ストップで盛り上げた。
楽曲および演奏を極めてユニークなものにする閃きや、90年代のバンドらしい歪み(これはGrahamのギターによるところが大きい)を感じさせる一方で、ブリティッシュ・ロックの伝統やそのルーツにもしっかりと根ざしていることを思わせる多彩な曲の数々を、2時間たっぷりと堪能。彼らの曲が持つリッチな魅力に改めて感動させられた。それらはかつて彼らに貼られたブリット・ポップの一言には収まりきらないものであることは言うまでもないことだが、逆に、これこそがブリット・ポップであると考えるならば、BLUR以外にブリット・ポップ・バンドはいない。それぐらい彼らはユニークだったと言うこともできる。因みにオープニングを飾った「Girls & Boys」、アンコールの最後を熱狂とともに締めくくったパンキッシュな「Song 2」といったファン以外でも知っているヒット曲は、むしろBLURのレパートリーの中ではイレギュラーなものであると考えるべきなのかもしれない。
アンコールに応え、再びステージに現れたとき、Grahamをはじめ、メンバーひとりひとりをハグしたDamonの姿が印象的だった。その光景を目の当たりにして、彼らの今後により一層、期待してしまったというファンはきっと少なくなかったはずだ。
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