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BLUR

2015年04月号掲載

BLUR

Writer 石角 友香

当初、BLURがオリジナル・メンバーとしては1999年リリースの『13』以来、実に16年ぶりとなるニュー・アルバムをリリースするという事実には、"やったー! 遂に4人でまた新作を作ったのね"という感動より、疑問符の方が先にアタマに浮かんでしまった。なぜか。昨年1月に行われた再結成ツアーの一環である日本公演は、往年のブリット・ポップ・ファンも十分に納得のヒット・パレードだったし、おそらく、多くのヒットを持つベテラン・バンドとして、数年に1度ぐらいは集合してライヴを行うようなスタンスなのではないか?と理解した。なんと言ってもフロントマンであるDamon AlbarnはソロやGORILLAZで多忙だし、自身の音楽のアウトプットが足りないようには到底思えなかった。そしてこの8作目となるオリジナル・アルバム『The Magic Whip』が、中止になってしまった日本での"TOKYO ROCKS"で空いた時間に、5日間の休日を使って香港の九龍にあるAvon Studiosで大本をレコーディングしたという事実を聞いてもまだ、"そのとき、4人がいたから"以上の感想を持てなかったのだ。が、その後、3月20日にウエスト・ロンドンの小さなクラブで行われたシークレット・ライヴでの4人の様子を見るにつけ、ストリーミング映像からも、いかにもバンドらしい生々しさとこのメンバーで演奏する楽しさが伝わってきたのは間違いない。もはやアルバムが先か?しばらくBLURとしての活動を本格化するという計画が先か?というニワトリと卵の議論は横に置いて、できたてのアルバムを存分に堪能すればいいじゃないか?というワクワクした気持ちに変化してきたのだ(自分のことながら面倒くさいヤツだと思う)。

アルバムはすでに音源が配信されている「Lonesome Street」のおそらく香港の街の喧騒で幕を開ける。シンプルでファットな音作りの中で気だるそうなDamonの声、そしてGraham Coxonのギター・サウンドの存在感。図太いのに同時に神経症的なフレージングも備えたそれは、まさに90年代から続くBLURのフィロソフィを体現している。そしてピアノとコーラスという、いかにも10年代インディーの匂いもするTrack.2の「New World Towers」でも、冒頭からつきまとう異邦人としての主人公の不安定な心象が音像化されているように感じるのだ。そして最も早く公開された「Go Out」。初めて聴いたときはブリット・ポップ最盛期の自らをカリカチュアとして対象化できるほどのバンドのメンタルの強さというか、英国的なシニシズムに痛快な気分になってしまった。この曲や、続く「Ice Cream Man」での、プニプニしたリズムの要素にもなっているシーケンスとアコギの組み合わせは、BLUR流のアシッド・フォークというか、ブレイクス等を通過してきた現在地と、エレクトロニックな要素も単に一要素でしかなかった時代の地金の強いバンドらしさを頼もしく思うのだ。ここからもずっと2000年代から2010年代に音楽シーンで起こったトピックや、現在のインディー・ミュージックのエッセンスを消化しながら、曲ごとに異なる様々な情景を見せながら"旅"は続く。後半にはMVも公開され、まるでアマチュア・バンドのような佇まいの映像も話題の「There Are Too Many Of Us」が奇妙な哀愁を醸し出す。終着駅であるTrack.12の「Mirror Ball」は、ブルーズとサイケデリアが絶妙なバランスで配合され、当初の英国的なムードからはずいぶん遠いところに辿り着いた心持ちになってしまった。

そもそも、その香港でレコーディングした音源に再び向き合い、バンド初期のプロデューサーであるStephen Streetに連絡を取ったのはGrahamその人である。90年代に脱ブリット・ポップ化を図り、しかしバンドとの音楽性の相違で脱退した彼は、それでもというか、だからこそBLURの音楽的支柱だったのはたしかだ。彼がもう1度、バンドのケミストリーに賭けてみようと思った、その序章、それがこの『The Magic Whip』なのだろうと思う。いい意味でGrahamのアイディアの閃きが練りこまれ過ぎずに楽曲としてスリリングなバランスで鳴っているという意味で、"知っているのに知らない"BLURに出会えるアルバムだ。



BLUR
『The Magic Whip』
[WARNER MUSIC JAPAN]
WPCR-16444 ¥2,457(税別)
2015.4.29 ON SALE
amazon | TOWER RECORDS | HMV | iTunes

1. Lonesome Street
2. New World Towers
3. Go Out
4. Ice Cream Man
5. Thought I Was A Spaceman
6. I Broadcast
7. My Terracotta Heart
8. There Are Too Many Of Us
9. Ghost Ship
10. Pyongyang
11. Ong Ong
12. Mirrorball
13. Y'all Doomed *Bonus Track

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