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INTERVIEW

Japanese

Buzz72+

2025年08月号掲載

Buzz72+

Member:井上 マサハル(Vo) 松隈 ケンタ(Gt) 北島 ノリヒロ(Ba) 轟 タカシ(Dr)

Interviewer:サイトウ マサヒロ

松隈ケンタ率いるロック・バンド Buzz72+が、メジャー・デビュー20周年を記念したニュー・アルバム『twenty』を配信リリースする。松隈以外の各メンバーが作詞作曲した3曲も収録された本作の制作は、積み重ねた年月の円熟味を抽出するというよりも、ブランクの13年間を取り戻すことができた喜びを、無邪気に味わいながら進んだのかもしれない。かつて想像も付かない程に遠くに感じていた未来の先に立った今、彼等はまるで少年のように音楽を楽しんでいる。

-2020年の再結成から現在まで、コンスタントなリリースやライヴ活動を重ねてきましたよね。皆さんはこの5年間をどのように振り返りますか?

松隈:自分たちのペースに合った活動ができた5年間だったと思います。復活のライヴ("サウンドスクランブル天神2020")がコロナで中止になったときはすごく悔しかったですけど、それからは地元福岡を中心にいろいろとタイアップもしながら活動させてもらって。若い頃は良くも悪くも東京に揉まれて、メジャーに揉まれて、メンバーの関係もぐちゃぐちゃになってしまいましたから、復活するときには何よりメンバー4人の気持ちを優先しようと決めたんですよ。周りが何か言っても、誰か1人がやりたくないと言ったらやらない。逆に、誰か1人がやりたいって言ったら助け合おうぜと。そのルールを守って、世の中や偉い人に翻弄されずに自分たちの意志を大事にしながらやってきました。

井上:僕の脱退がBuzz72+の活動休止の原因でもあったので、やっぱり当初は葛藤もありましたね。だけど、この5年間で自分の気持ちが解けていきました。脱退前には"今日はスタジオか。嫌だな"と思ってましたけど、今は"もうすぐスタジオだ。楽しみだな"になって。それぞれ仕事に就いたり、家庭ができたり、環境が変わったなかで心地よく活動できていて、感謝の気持ちでいっぱいです。一方で今回のようにアルバムを作るときにはどんどん計画が進んで刺激的でもありますし。僕は神奈川に住んでいるので、福岡で3人がレコーディングしてる模様を動画で観て"楽しそうだな。俺も行きたいな"と思ってます(笑)。

北島:とにかく自由な5年間でしたね。伸び伸びとやってます。

轟:5年前より松隈君やノリ(北島)君を近くに感じるようになりました。"もっとバズ(Buzz72+)をやりたい!"っていう気持ちは心の奥底に強くありつつ、無理のないようにバランスを取りながら、それでも溢れ出る汁みたいなものが、少しずつ染み込んでいくような5年間だったと思います。

松隈:表現が独特だね(笑)。

轟:最近歌詞も書いたんでね(笑)。

-復活時にはバンドの状態を"リハビリ"という言葉で表現していましたけど、それからライヴや制作を重ねたことで生まれた変化や進化はありますか?

松隈:この歳ですから、演奏能力が成長するってことはないんです。むしろ"まだなまってないな"、"まだハゲてないな"って老いないように確認し合ってるみたいな感じ。でも、何本もツアーを回って惰性になっちゃってた頃に比べると、毎回のライヴに重みがある感じがしますよね。ライヴがないときは半年以上会わなかったりするからこそ、リハーサルにいい緊張感があって、そこで溢れ出る汁をぶつけ合ってる(笑)。新しいものを持ち寄るというよりは、一本一本で前回を超えられるように頑張ってます。

井上:リハの回数が減った分だけその場所で起きていることに集中するようになって気付いたのは、バンドの根本が昔と変わってないなってこと。そういうのを愛おしく感じるようになりました。あと、どうしても20年やってるとフィジカル的な劣化がありますけど(笑)、そのなかでどんなふうに効果的に身体を使ってパフォーマンスに向き合うか、方法を見つけること自体も楽しいです。

轟:僕はみんな上手くなってるように感じますよ。あんまり会えないからお互いの音を聴くようになったのかもしれない。飯を食いに行く回数も減りましたし(笑)。前はリハが終わった後に"もっとこうしよう"と話してましたけど、最近は"もう大丈夫やね"って感じ。当日のノリに任せることもできるようになって、良いと思います。

北島:たしかに相手の音を聴くようになったのは大人になったってことなのかもしれない。レコーディングでも、あえて新しい技術を披露するようなことはなくて。"そもそもバズってどんなバンドなんだっけ?"っていうのを思い出しながらやってる感覚です。

轟:でもノリ君は楽器が変わってる。

北島:最近は5弦ベースを使うとかね。プレイっていうよりは音色で違うことをするようになりました。お金に余裕ができたんだと思います(笑)。

-今回のニュー・アルバム『twenty』は、EP『world』(2021年リリース)以来約4年ぶりのまとまった作品となりますが、制作はいつ頃から意識していたのでしょう?

松隈:本当は去年リリースしたかったんですよ。

-Buzz72+のXでも2024年春に発売と告知していましたもんね。

松隈:書いてありました? ヤバいですね(笑)。僕が忙しくて止めちゃっていたというのもあるんですけど、このタイミングになったのは、この夏に僕がプロデュースしてるGirls be badや、社外で携わっている他のアーティストのリリースが結構あるので、ぶつけて盛り上げようってことで。やっぱりどうしてもバンドよりアイドルのほうがお客さんを呼べるから、そこにどうにか便乗しようってのが僕の音楽制作の基本的なスタンスなんです。

-バーター宣言(笑)。

松隈:そうそう、自分のバンドをバーターにするっていう(笑)。

-近年リリースしてきたシングルと新曲3曲が収録されていますが、これはいずれも再始動後に制作されたものですか?

松隈:そうですね。シングル曲は演奏し直したり、リメイクしたものもあります。新曲に関しては僕ではなくメンバー3人が作った曲を入れようってことになって。あらかじめバズに合いそうなトラックを選んだ上で、3人にメロディと歌詞を付けてもらいました。みんなで7、8曲ずつくらい作ったよね? で、20曲くらいの候補からワーワー言いながら選んで。だからある意味、Buzz72+らしくない曲も入ってる。

-『13』(2020年リリースのミニ・アルバム)は4人だけの音にこだわり、『world』はバンド外のサウンドも取り入れた多彩な作品でしたが、『twenty』の根底にはどんなアイディアがあったのでしょうか?

松隈:まさに今話したように、僕の制作の一部というイメージを超えた"バンド感"を出すことですね。今回ヴォーカル以外は福岡の新しいガレージスタジオで録ったんですよ。今は自宅でなんでも作れる技術が発達してきたけど、それがある意味つまらなくて飽きちゃったというか。なので、最寄りのコンビニまで車で15分かかるような郊外にスタジオを作ったんです。アメリカからAPIっていうミキサーを輸入したりして。時代に逆行してるんだけど、そういうアナログの音作りこそが俺たちの憧れたロック・バンドだから。ただ、日本は夏になるととてつもない量のセミが鳴くから、遠くにうっすら鳴き声が入っちゃう(笑)。そうやって機能性の低いところでなんとか良いものを作ることを、楽しみながらレコーディングしました。

轟:めちゃくちゃ広いスタジオだから響きもいいし、一緒に演奏してるっていう感じが音に出ましたね。あと、今回はエンジニアも松隈さんがやったから。

松隈:スタジオに3人しかいなかったもんね。

轟:僕とノリ君と松隈さんだけで。20年以上前、久留米や福岡のスタジオでもこんなことをMTRでやってたなって思い出しました。"松隈さん、昔のほうがパンチ・インが早かったな"とか思いながら、楽しくやりましたね。

松隈:マイクを向ける方向によってドラムの音が全然変わるのを試しながら、"汚い音だけど、カッコいいからいいか!"みたいな。

-なんだか青春って感じでとても良いですね!

松隈:不思議な話です。第一線のスタジオも使ってるけど今回はガレージで録りたかったし、高い機材は持ってるけど安い機材でもいいじゃんって思えたし、技術的な部分も誰かに任せずに自分たちでやったし、究極のアマチュア・アルバムですね。インディーズとも言えない、アマチュアのアルバムです。

-新曲についても聞かせてください。「GHOST」は井上さんの作詞作曲ですが、どのようなイメージで制作されましたか?

井上:20周年について考えているなかで、「フライングヒューマノイド」(『13』収録曲)で歌われている"十年先の未来"をとっくに飛び越えて、その答えを知っているという状況に気付いたんです。なので、「フライングヒューマノイド」の歌詞をもじったり、今までの楽曲にあったコーラスの手法を取り入れてみたりしました。過去のバズの曲を聴きながらああだこうだってこねくり回して。今までになかった自分というよりも、この場所でありのままに育った自分、そこから溢れ出る汁を表現しました。

松隈:汁溢れすぎや(笑)。

井上:20年はただ漠然と続いたわけではなくて、何回も始まり続けたことの積み重ねなんじゃないかと思うんです。

-「フライングヒューマノイド」を手掛けた松隈さんとしては、グッと来るものがあったのでは?

松隈:まさかのことを言いますけど、ハル(井上)のレコーディングには参加してないのでまだ歌詞を読めてません(笑)。なので今の話を受けて、"その曲聴いてみたいなぁ"って感じです。

-ちなみに、取り入れたコーラスの手法というのは具体的に言うと?

井上:「フライングヒューマノイド」をはじめ松隈の曲って、サビでうっすらと響いてるロング・トーンのコーラスに実はこだわっていて、それによって空間が広がっているのがカッコいいんですよね。それを僕なりに解釈してみました。

松隈:そうやってセルフディレクションで歌ったのが珍しいですよね。僕が録る井上マサハルではなく、井上マサハルが録る井上マサハルっていう。だから、バズの王道っぽい曲調ではありつつ、ハルが好きに歌ったことで新しいテイストが加わったんじゃないかと思います。

井上:僕が思う松隈ケンタや、僕が思うBuzz72+、僕が思う井上マサハル。ただ"俺!"っていう感じではないのが面白かったです。

松隈:実はハルがおらんときに3人で話しとったんやけど......。

井上:何々? なんですか?

松隈:この曲はハルらしいわけ分からんほうに行くメロディがあんまり感じられんから、期待と違ってて。もう一度自由に作らせた上でアレンジしたほうがいいんじゃないかって悩んだんですよ。だから、ハルのレコーディングにもあえて参加しなかったんです。そのほうが差が生まれると思って。

井上:なるほど。すごく心細かったよ。

松隈:プロデューサーっていうのはいろいろ考えてるんですよ。めんどくさいから来てないかと思ったでしょ? それは半分くらいです。

井上:半分はめんどくさかったんかい!

松隈:(笑)だから、「フライングヒューマノイド」のアンサーとして作ったっていう話を聞いて納得しました。