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INTERVIEW

Japanese

渡會将士

2024年09月号掲載

渡會将士

Interviewer:石角 友香

-そして今回、場面場面に海が出てきます。

意識的にやってます(笑)。そもそも海なし県(埼玉県)の出身でめっちゃ海に憧れてて。小学生のときとか、授業中暇だったんで、教室からどっちの方角が海なのかっていうのをいつも気にしてたんですよね(笑)。FoZZtoneで最初に出したその「MorroW」っていう曲も夜明けについて歌ってるんですけど、海での夜明けなんですよ。それがあったんで"MorroW SoundS"っていうアルバムを作ろうと思ったときに、やっぱ海も突っ込みたいなと思って。で、ちょうど春ぐらいに制作が乗ってきたぐらいの段階で、鎌倉の海の家の方から"うちでライヴしませんか"っていうお話をいただいたんです。"よろしくお願いします!"つったら、そこがDAY DREAMER'S DECKっていう海の家で、"協賛みたいな感じで曲作ろう。そうしたら店でずっとかけてくれるかな"と思って(笑)。そのぐらいの感じで「Daybreaker」って曲を作ったんです。

-ドライブに似合いそうな曲ですが、開放的なだけじゃない面白い音像だなと思いました。

そうですね。エンジニアさんとはいろいろ密にやりとりしながら曲を作っていきましたね。真心ブラザーズの「サマーヌード」ってあるじゃないですか。めちゃくちゃ好きな曲なんですけど、あれも開放的な感じの曲なのに、歌詞をちゃんと読むとなかなかしんどいことを歌ってるように感じる、みたいな。みんな夏に対して開放的なイメージを持ってるはずなんですけど、実は夏の歌って意外と陰鬱なものが入っている気がして。なのでこの「Daybreaker」もただ楽しいっていうよりは、陰鬱なものがどうしても入ってしまった感じで、そのへんはサウンド面でもあんまりオープンにしすぎないようにはしました。

-夏の曲を選んでくださいと言っても昼間のビーチみたいな曲を選ぶ人もいれば、焦燥感たっぷりな曲を挙げる人もいるでしょうし。

光が強くなるぶん、影も濃くなるじゃないですか。そういうことなんだろうなと思って。

-「Wake me up(Re-Mix)」や「タイガーリリー」の主人公は子供というかとても若くて、そこも夏をイメージさせるのかもしれないです。

うん、そうですね。背景として子供のときのあの夏の、みたいなのはあると思います。

-「タイガーリリー」、切なくていいですね。

これはマジで小学校ぐらいのときに隣の席になった女の子がいて。そのときはまだお互いに男女みたいな感覚はないんで、速攻でマブダチみたいになったんですよ。でもその後ちょうど性教育とかが始まるタイミングで、それまでめちゃくちゃバカで下品な話とかできたのに一切相手してくれなくなって、めちゃくちゃ寂しかったなっていうのをふと思い出して。そのときのフィーリングのまんま作った感じです。

-なるほど。ご自身で今回これは面白いことができたという曲はありますか?

「Kebab」っていう曲がですね(笑)、作ったはいいけどアルバムに必要か? みたいな気もしてて。でもギター・ソロを考えてたときに、世の中にカッコいいギター・ソロを弾く人はたくさんいるじゃないですか? そこに対抗しに行くような曲でもないのに、なぜ俺はギター・ソロのための空白を作ってしまったんだろうかとかいろいろ考えながら、変なギター・ソロを弾きたいと思って。それもエレキじゃなくてアコギで弾きたいと思って、ひたすら変なソロ変なソロって追求しながらやってたらすごく楽しかったんです。この曲自体が変な曲って言われていいというか。ドラムにスネアのスナッピーというパーツがあって、スナッピーを掛けるとバシって音になって、外すとトンって間抜けな音がするんですけど、あえて"スナッピー掛け忘れてるよ"みたいなちょっと間抜けな音にしつつ、裏ではこっそり結構どぎついこと言ってる、でもそれに気付かれなくてもいいみたいな曲になってるんです。

-なかなか辛辣ではありますよね。皿っていうものを何と考えるかによって非常に批評的な内容になる歌詞で。

そうなんですよ。音楽全く関係ない一般の会社員の方とお話しする機会があって、愚痴を聞くんです。会社で"こういう企画があるから"って概要だけ決められて、"あと中身頑張って"みたいな振り方をされる。それって皿だけ用意されて中身を勝手に後から詰め込むみたいなことで、でもその皿が歪だ、と言ってて"その感じ俺もめっちゃ経験あるな......あぁブレチャ(brainchild's)だ"と思って。EMMA(菊地英昭/Gt/Vo)さんから"こういう曲だから歌詞考えて"と言われるみたいなことなんです。シンガー・ソングライター的には、こういうメッセージがあるからこんなメロディにしたいって、それは"料理に対して映えるお皿"みたいな感覚なんですけど、バンドやってると往々にしてひっくり返るというか。"この皿カッコ良くない?"っていう感じで曲がバーンってできあがって、そこに合う料理、要は歌詞を後から考えるのはよくあることだし、人によって皿と料理の意味合いが変わっちゃうんですよね。(自分にとっては逆でも)EMMAさんにとっては料理がサウンドであり自分のギター・ソロであり、俺の歌詞は皿の部分だったりするんで。これは「写真はイメージです」のさっきの話じゃないですけど、見ようによって全てが変わるし、誰も共通の意識を持ってる人はいないんだなっていうことをふと思って作った曲です。

-人と作る音楽の場合は見方の違いも面白いものを生み出すからいいと思いますけど、事業とかだとそうも言ってられない気がしますが......。ところで今回、打ち込みだけでできてる曲っていうと?

「MorroW SoundS」、それから「Kebab」、「タイガーリリー」、あと「Daybreaker」、「写真はイメージです」かな。

-「Daybreaker」は1人で完結していることが意外ですね。

うんうん。なんだったらこういう曲程人と一緒にプレイしたほうが疾走感が出るんですけど、ドラムって情報量めちゃくちゃ多いんですよ。録ったときにその部屋の広さまで全部音に収録されるんで。それで「写真はイメージです」と並べるってなったときに、生ドラムがいきなり来るとおかしいなというのもありました。

-どの曲にもアコースティック・ギターをっていう意味で、その比重が大きい曲で言うと「Offshore」ですかね。これも渡會さんのソロらしくメロディが強い。

そうですね。バンドだとここまでメロディで持ってく、みたいなのは少ないですね。

-ブレチャでもこれぞ渡會さんの独壇場! みたいなメロディ自体はあるじゃないですか。

はい。ああいうのは、注文されていないのに"すみませんパクチーも乗せておきました"みたいな感じで(笑)、突っ込んでるやつですね。

-ただやはりソロ作品の音像は端正な感じで。

まぁそうですね。リズムの取り方も統一されてるんで。バンドになると当然ドラマーがいてベーシストもいて、そこのリズム隊の時点でブレが生じるんですよ。そのブレがいわゆるロック! みたいな感じで楽しめるんで、5人ぐらいでしかやってないのに、いっぱい音が詰まってるみたいに情報量がめちゃくちゃ多く感じるんですよね。それが美学でもあるんですが、ソロのほうでは隙間を聴いてもらうみたいな感じなんで、狙いとしてはたしかにそんな感じです。

-実際に完成してみてこの作品は渡會さんにとってどういうものになりましたか?

今まで、ソロのシンガー・ソングライターなのに、ちょっとバンドマン的な感じを引きずりながらずっとやってきたというか、アルバムもなるべく打ち込みじゃなくて、プレイヤーに生演奏してもらって録音してたんですけど、それをやってるとやっぱり別の人の体温が乗り移ってくるんですよ。それがいいと思っている部分ももちろんあるんですけど、今回はなるべく人の体温をどんどん削っていって、自分の血と肉しかないみたいな状態にしたいなと思ったんです。ある種の自分のわがままを最後まで貫くみたいな作り方をしたくて、できあがってみたらわりと自分の思い通りにいったなっていう満足感があって。これを機にもうちょっと面倒くさい人間になっていこうって(笑)、その部分を出していこうというふうに今は思えてますね。

-リリース後にはツアーも始まります。一旦の集大成的な11月の東京のライヴ("渡會将士 20周年ワンマンライブ「渡會将士20周年音楽會」")はどんな計画をしていらっしゃいますか?

アルバムの中で"その曲をやるんかい"っていう、あえて計画している部分があって。ツアーを回りながらどんどん変わっていくこともあると思いますけど、このアルバムありきでやる東京ワンマンは一個仕掛けを用意しています。