Japanese
小林私
2023年06月号掲載
Interviewer:石角 友香
-小林さんって詞先なんですか? 曲先なんですか?
一応、詞先ではありますけど、ほぼ同時進行ぐらいですね。コードをざっくり決めて頭の詞をちょっと書いて、そこからほぼ同時で進んでいくことが多いです。
-これがほぼ同時に進んでるのはすごいです(笑)。特に「目下Ⅱ」の永遠に続くメビウス・リングみたいな歌詞の展開とか。
あはは(笑)。
-歌詞とメロディが一緒に出てきたんですか?
そうですね。基本、詞がないとメロディが出てこないので。詞が出てきたら序盤はもう上から順番にずっと書いていく流れが決まってるんですけど。「目下Ⅱ」もたぶん1行目とかを書いてみて、じゃあこのメロだなって、そこからあとはメロディの行き先を見つめるぐらいの感じで、僕がどうこうすることがほぼないですね。あとは転がるようにできていくことがほとんどなんで。
-1個言葉が出てきたらその言葉を覆す言葉が出てきて、またそれを飲み込んでいくみたいな展開を見せますね。
片一方のことで最後まで進むみたいなのはあんまりできないので。1行目とかを結構熱意を持って勢いで書いてみても、2行目でだんだん冷静になってくるんで、その冷静さみたいなものを無視して書くのは嘘になるなぁっていう思いがあるんです。1行目の時間に考えた自分と2行目を考えた自分っていうのは、多少相反しても本当なのかなとは思いますね。
-自分の中でAさんとBさんが喧嘩してるときの状態というか。
ちょっと病気感あるか(笑)。
-でもそれを書いていくとわりと冷静になれる?
そうですね。あとから自分のそのときの歌詞を読み返してみて、"なんで俺この言葉にしたんだろう"とかをもう1回辿りながら、たぶんこんな気持ちで書いたんだろうなみたいなのを追ってみて、"あ、こんなこと考えてたのかな"っていうのは結構あります。
-それをやることによって小林さんの中で思考が整理されるとか?
思考の整理はそうですね。でも、あんまり整理すべきじゃないんだろうなっていうふうにも最近は考えてるんです。多少煩雑なぐらいが人間っぽいというか、思考の整理を結構固めちゃうと、それに対してある種の正当性を持ってしまうというか。それはそれで意固地になるのかなと思うので、"そんなこと考えてたんだな"ぐらいで止めるようにはしてますね。"あ、いいこと言ってんな~"とか思いながら。
-これが自分のやりたいことって明言できる人もいると思うんですけど、そうじゃなくてむしろ1本化することに違和感があるっていうか、実はそれが素直な状態であるって人は多いだろうなと。
そうですね。
-ある意味安心します。
リスナーにも"小林の曲は前進も後退もしないからいいよ"なんて言われます(笑)。気持ち自体が、暗くはあるんですけど、もうそのネガティヴな状態も肯定したい自分がいるんで、結果的にはポジティヴというか。結局それが嫌だったとしてもしぶしぶ生きてるじゃんと思うので、落ち込みすぎても良くないなっていう意識を持ちながら曲は書いてますね。結局その状態もあって、別に死のうとかしてないから、どっかで(ネガティヴな状態を)認めたいんだろうなと思いつつ、まぁそれは曲の中に織り込んでやったほうがいいだろうなと考えてます。
-しかも今回は、これまでの大枠で言うロックとかダンサブルという切り口より、もっと細かいところにまでアレンジが入っていると思うんです。
うんうん。
-今回のSAKURAmotiさんとか白神(真志朗)さん、シンリズムさんやトオミヨウさんっていうのは小林さんからのオファーなんですか?
人によって結構違くて、ディレクターさん側からこの人いいんじゃないっていう人をリストアップしてもらって、白神さんとか、"白神さんって頼めんだ?"と思って。白神さんの曲とか普通に聴いてたから、そういうのやってくれる人なんだと知らなかったんで、"じゃあちょっとお願いしましょうよ"と。SAKURAmotiさんは"いけるんじゃないかな?"と思って。僕が自分の配信でご機嫌に「アイウエ feat. 美波, SAKURAmoti」(MAISONdes)を歌ってたのを、(作曲者でもある)SAKURAmotiさん本人が聴いてくださってたんです。DMをいただいて"歌ってくれてありがとうございます"みたいなやりとりがあったんで、"頼めないかな"と思ってお願いしたら快諾してくださって、いけたんで良かったですね。
-SAKURAmotiさんて今18ぐらいでしたっけ?
18ですね。この間18歳になったぐらいで、とんでもねぇなと思って(笑)。
-今のハイティーンって冴えてるなぁと思います。
いや、すごいっすよね。こんな曲書きながらTwitterで同い歳ぐらいのボカロPの方とかと"サイゼリヤ行ってきた! ドリアが一番おいしい"って(笑)。"知ってるよ!"と思いながら、"今が一番いいなぁ"と。
-たしかに。
こんな曲書いてめちゃくちゃ曲も伸びてる、で、高校生なのに全然調子乗ってないのがすごいなって思います。もっと乗りたいですよね。俺だったら乗ってますよ(笑)。
-SAKURAmotiさんはそう見えないんでしょうね。
キタニタツヤさんと"SAKURAmoti君すごいよね。俺らだったら絶対調子乗るけどね"みたいなことをこの間話してて(笑)。
-この"杮落し"というタイトルですが、この曲が先行配信されたってところで、小林さんなりに池に小石を投げた感があるなと感じました。
ははは(笑)。そうですね。たまたまちょうど「杮落し」って曲を作ってて、"1曲目じゃないと変か"と思って。で、そのSAKURAmotiさんから最初に返ってきたアレンジのデモがもう素晴らしかったんで、これが第1弾先行配信シングルだろうっていうのがまず決まったんです。非常に都合のいいことが起きましたね。
-詞とメロディが同時にできる感じはこの曲にもあったんですか?
そうですね。「杮落し」はかなり勢いで書いたんで、この歌詞はたぶん書く瞬間瞬間は必然性を持って言葉を出してるんですけど、書き終わったあと、なんでこの曲をこういう曲にしたのかを完全に忘れちゃったんです。あとから読み返して"あぁたぶんこういうことを言っている"って思いながら、最近ようやく自分の中で腑に落ち始めた感じがありますね。
-ビートにいい違和感があるんですよ。
ハモりも変だし、エンジニアさんと"このハモリは本当にハモれるんだろうか?"ってああだこうだ言いながらレコーディングしましたね。
-マイナーの16ビートってボカロPの人が作るヒット曲の定石ですけど、この曲はいい意味でいびつで。
そうですね。そのビート感と僕の歌詞の食い合わせが絶妙というか。2番に入る直前のフィルインみたいなところキモすぎますからね(笑)。"なんだその音? 俺はそんなデモ送ってない!"と思いながら、めっちゃいいなって。"若ぇ!"と思いながら聴いてましたね。
-今回アレンジがグッと若いですね。
うん。「杮落し」とかちょっと歌詞が"子供部屋おじさん"すぎるんで、逆にアレンジをフレッシュにやってもらったのが、いい塩梅でバランス取れたのかなと思いましたね。
-意識と肉体みたいなものもこの曲にはテーマとしてあると思うんですけど、その違和感がトラックでできてるような気がして、抜群な曲だと感じます。
そうですね。"18か......"と思いながら(笑)。
-1曲目にぴったりな感じっていうか、小林さんの節目というか、始まりにぴったりな感じもしました。
僕のリリックもボカロの畑から大枠来ているので、そこの塩梅も良かったなと思いますね。
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