Japanese
小林私
Skream! マガジン 2023年10月号掲載
2023.08.27 @I'M A SHOW
Writer : 石角 友香 Photographer:ハタサトシ
アーティストを名乗るからと言って、自分は表現に全身全霊を賭けて生きていますとも、生活費を稼ぐための生業だとも言い切れるものじゃないだろう。小林私のライヴを観ていると、そうした我々の日常と地続きな、決して100パーセント居心地がいいはずもない現実を見ることになる。
東京2公演、大阪1公演からなるツアー"分割・裁断・隔別する所作"の8月27日公演。ゲストには親交の深いレトロリロンを招いたのだが、いわゆるツーマン・ライヴともゲストとも違う見せ方をしたのが面白い。まずレトロリロンのライヴが展開されたのはポピュラーなツーマン形式。だがMCの最中に小林のことに触れると、ステージ袖から小林が顔を出したりするのである。因みに小林のライヴでは着席状態のオーディエンスが、レトロリロンのグルーヴィなピアノ・ポップでは立ち上がり、踊るという、音楽ありきなリアクションを見せていたのが興味深かった。
メイン・アクトの小林が裸足で登場すると、改めてアコギのチューニングをし、演奏するかと思いきや最近ハマっているゲーム"Vampire Survivors"の面白さを熱弁。トピックは脱線しつつ、ようやく"曲やりましょうか"と、新作『象形に裁つ』からアコギの激烈なカッティングと矢継ぎ早に繰り出されるドスの効いたヴォーカルで一瞬にして景色を変える「線・辺・点」を披露。高いテンションで走り抜け、一気にギャップの大きすぎるMCを挟んでの「並列」はさらにどこでブレスするの? と、こちらも目と耳の集中力を最大限にしてしまう。それは一度動き出したらあと戻りできないジェットコースターのようなのだ。さらにブルージーな重さを弾き語りならではの自由度で表現する「HEALTHY」が、無自覚な渇きに色や匂いをつけていき、楽しさとは違う痛快な気分が溢れてくる。
そしてまたしても演奏と大きなギャップのあるMCを挟んで、なんとまだタイトルのない新曲も披露し、間髪入れず次の曲に行くはずが歌詞を忘れ、スマホで確認しつつ(それがオリジナルなのかサブスクを検索しているのか興味深い)、「スープが冷めても」の一語一句に聴き入ってしまった。MCで緩い時間が訪れても、弾き語りがすべて凌駕していくというこの繰り返しそのものが小林のライヴなのだと改めて思う。
中盤にはラジオ・パートが挟まれるのだが、いい意味で絶妙にくどい感じの架空のCMや、スマートな交通情報も作り込まれていて精度が高く、どんな展開になるのかと期待していたら、まず、事前にこの日アンケートを募った中から小林への要望やアピールが読まれる。多くは自分の居住地域に近い場所でのライヴの希望や対バン要請だが、中には車両保険に詳しいという謎のアピールがあったりして笑いが起きる。さらにゲストのレトロリロンを迎えて、両者の関係性を話し、なんとコラボ・パフォーマンスも実現。レトロリロンの「Slow time lover」のヴァースで小林も歌い、こうしたチルな楽曲での珍しい声を聴けた感じだ。さらに小林の「生活」をレトロリロンのバンド・バージョンで聴けたのも今回ならではの趣向だった。
後半は本領発揮と言っていいであろう、小林の弾き語りが怒濤のように展開していく。MCでは『象形に裁つ』のリリース記念であろうという大方の予想を裏切るセットリストでここまで演奏してきたことを明らかにし、ようやく新作からのブロックなのか? と思わせつつ、"関係ない曲をやります"と「遊歩する男」のミディアム・テンポが、どこに行っても結局居心地の悪い心情をジリジリ伝えてくる。続いてもミディアムの「飛日」が歩くことから車での移動に景色を変えていくのも、ひと連なりの感情を灯していくようだ。
弾き語りのテンションから再び"Vampire Survivors"の話題に戻り、人によっては"Vampire Survivors"のオフ会だったとネタにされるかもと、あらかじめ予防線を張るのも、いわゆるライヴという目の前のオーディエンスに伝えたい歌や音楽があるという常識が常識に思えない小林ならではの行動なのだと思う。が、歌と演奏のスイッチが入ると、再び引き返せない緊張に身を投じる感じで新作から途轍もない言葉の連なりが押し寄せる「目下Ⅱ」、ラップ的な譜割で言葉がグルーヴを作り出す「biscuit」が、弾き語りならではの切れ味のいいアコギのプレイで披露された。
演奏に引き込まれ、オーディエンスの集中力も高まっているところで、小林はいい歌を作って大きな会場でライヴをするということの自分にとっての意義がわからないというような発言をしていた。自作の曲をYouTubeで配信し、不特定多数がどう受け止めようが構わないという覚悟は確実にあると思う。ただ、その先でリアルに顔が見える対象にどう接するべきなのかという"べき"がないのだろう。そこを起点としていないアーティストの表現だからこその面白さなのだ。本人も"今、(客席の)誰とも目合ってないですから"と言っていた。そのMCからの「花も咲かない束の間に」のパーソナルで優しい言葉が連なる様子と絶叫に近い歌唱の対照に聴き入ってしまった。歌と無関係なMCで人を煙に巻いていた過去のライヴと比較すると、"なぜ自分はここで歌っているのかよくわからない"という表明があったのはひとつの変化かもしれない。ラストは再び走り出したら引き返せない言葉の速度を持つ「サラダとタコメーター」が爆走し始める。途中2度、歌詞を失念したとスマホで確認していたが、何事もなかったようにリスタートし、疾走して行った。
小林のライヴのあり方はもしかしたら一曲一曲でしか感じ得ない濃度をそのまま体感させる手段なのかもしれないな、とあとから思った。1本のライヴの流れで感動させたり、非現実に誘ったりする要素はまったくない。それはアーティストとしてひとつの潔いあり方だと思う。そして、この日の深夜0時、ここで体感したことを追認できるかのように、これまで発表してきた楽曲から選んで弾き語りで収録したアルバム『原作』が配信リリースされた。痒いところに手が届くというか、この日のライヴを反芻し、内在化するのはとても嬉しい計画であった。
[Setlist]
■レトロリロン
1. カウントダウン・ラグ
2. ヘッドライナー
3. Document
4. 深夜6時
■小林私
1. 線・辺・点
2. 並列
3. HEALTHY
4. 落日(新曲)
5. スープが冷めても
6. Slow time lover(レトロリロンとのコラボ・パフォーマンス)
7. 生活(レトロリロンとのコラボ・パフォーマンス)
8. 遊歩する男
9. 飛日
10. 目下Ⅱ
11. biscuit
12. 花も咲かない束の間に
13. サラダとタコメーター
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