Japanese
Muvidat
2021年12月号掲載
Member:Uqui(Vo) MAH(Dr)
Interviewer:吉羽 さおり
SHAKALABBITSのUquiとMAHによるバンド、Muvidatが2作目となるフル・アルバム『VOICES IN MY HEAD』を完成させた。タイトル曲から始まって、様々な世界へとひとっ飛びするような極彩色のサウンドが次から次へと登場する、多ジャンルがポップに混じり合ったアルバムで、音楽が鳴っている間、ここではないどこかへと旅する作品となっている。そんなトリップ感を味わいながらも、日々のいわく言い難い気持ちをほぐしてくれたり、思ってもみなかった感情に触れたり、思い出が引っ張り出されたりと、心地よい感情のジェットコースター感もある作品になった。2020年のコロナ禍は、ライヴができないことも、配信ライヴや無観客ライヴとなってしまう状況もあった。そんななかで織り上げてきたアルバムに、ふたりはどのように向き合ってきたのか。その思いを訊いた。
-この約2年、ライヴができない状況がありましたが、Muvidatではそのなかでの制作へのモチベーションをどう保っていた感じですか。ライヴがないからこそ難しさを感じるようなところはあったでしょうか。
Uqui:前回のインタビュー(※2021年6月号掲載)でも話したんですけど、"抗わないでいこう"というのがテーマにあったので(笑)。今までのような感覚でライヴができないのは仕方のないことだから、とにかく制作に集中していけばいいんじゃないかって、あまりいろんなことを考えなかったですね。曲を作る、それを形にする、まとめることに集中できたので。もちろん歌詞を書いているときやアレンジをしているときに、"ライヴでやったらこんな感じだよね"って想像はするし、ステージで私はどんなことを言ってるかなとかも考えますけど。
-制作に集中ができるぶん、想像力がどんどん広がることもありそうですね。こういう曲があったら面白いだろうなとか。
MAH:まさにそんな感じで、この曲たちはできましたね。
-完成したアルバム『VOICES IN MY HEAD』は、リスナーが旅するような感覚、いろんな世界に連れていってもらえる感覚だなと思いました。
Uqui:それは作っている私たちもそうだよね。だから、これまとまるのかなっていうのもあって(笑)。
MAH:でも想像することは自由だからね。旅にも行けるし、どこでもなんでもできるので。時間も関係なく過去にだって行けるし、未来にも行った気になれるし。そっちのほうが全然軽やかなんじゃないかなって。
Uqui:タイムワープもし放題だしね。
-それが音楽のいいところですよね。アルバムの幕開けとなるタイトル曲からすごく高揚感があります。ままならない思いが沸々としていることも音の背景に染みていますが、その思いを背負いながらも行こうよって語り掛けてくれる曲で。
MAH:元気があれば──っていう有名な人の言葉もありますけど。
-なんでもできる、ですね(笑)。
MAH:まさにそうで。すべて気持ち次第だし。それこそライヴが飛んで、ちぇ! って言ってた頃は、ちょびっと落ち込んだりもしましたけど。逆に言えば、例えば僕なんかはライヴをやるとなったら、そこに合わせてドラムを自分の本調子に持っていかなきゃいけないじゃないですか。その間、いったんその制作はお休みになってしまうこともあって。長年そこはジレンマでもあったんです。逆にドラムが超うまくなって、今最高だぜ! ここでライヴしたいってなったときに、"はい、制作です"ってなったりもしてたし。だから、どうせライヴができないなら、しっかり夢の中に入っちゃおうみたいな。そういう意味でちゃんと制作に向き合えたというのは、初めてかもしれないですね。
-ずっと密度が濃いままでいられた。Uquiさんは気持ちの切り替えの面で変化はありましたか。
Uqui:私はあまり切り替えというのがないかもしれない。それがいいか悪いかもわからないままですけど。歌詞を書いて、歌うっていうサイクルでやらせてもらったので。練習とかは頭の中でしかしてないし、ライヴもないし歌ってない状態だったけれど、すごく歌った気になっていて(笑)。
MAH:Uquiさんはそういうほうが本領を発揮できるんですよ。しっかりボイトレに行ったりとかすると、変に凝り固まっちゃう人なので。
Uqui:遊びに行く計画とかも含めて準備することって楽しいんですけど(笑)。でも、自分の中でこれをああしてこうしてって完璧だ! って整えてしまうと、実際にそれ以上の力が発揮できないんじゃないかなって──それも思い込みかもしれないですけどね。全部自分の中で作り込んでしまうと、レコーディングでもライヴでも、実際にそれができなかったということのほうが不安になるし、冒険がない気がしちゃうから。
MAH:Uquiさんは加点法なんだよね。
Uqui:喋ることも、決めていったらそれを言わなくちゃいけないみたいな。でもそれって面白くないので、あまり準備をしないんです。
MAH:全部決めちゃってそれができたら100点なんだけど、一個でも忘れたら減点になるわけじゃないですか。でもUquiさんの場合、ゼロからスタートだからね(笑)。
Uqui:自分の中ではあまり作りすぎない、考えすぎない、固めすぎないっていうのはモットーにしています。
-録るときも、あれこれ考えるより、曲に没入してしまえばいいみたいな?
MAH:ドラムもそうなんです。あまり決めておかない。
Uqui:やりながら閃くことってたくさんあるしね。
MAH:今回初めての試みなんですけど、ギターやベースをドラムよりも先に録っているんですよね。通常はドラムからレコーディングするじゃないですか。そうじゃなくて、ゲスト・メンバーが弾いてくれたものに対して、ドラムを叩いているんですよ。
-普通とは逆の方法ですね。でも、ギターやベースのみなさんは、それはそれで大変なのでは?
MAH:僕がなんとなく作ったドラムのトラックに対して弾いてもらっているんですけど。みんなに自由に、どシンプルなドラム・マシーンで作ったトラックをどうにかグルーヴィにしてごらんよっていう感じで。そのみんなに弾いてもらったものを聴いたインスピレーションで、何回か叩いてみて。"今の良かったな"みたいな感じで捕まえていく作業だったんです。
Uqui:レコーディング自体もメンバーみんなMAHちゃん家に集合して、録っていたので。レコーディングで、みんなでよくご飯を食べたっていう印象がありますね。私、餃子何枚焼いただろうっていう(笑)。そういう感じで、スタジオで完成させるんじゃなくて、1回家を挟んでるっていうのが良かったよね。
MAH:1回、俺んちが入る。
Uqui:なおぴー(佐々木直也/空想委員会/Gt)は録ったあとソファで寝てたからね。そんな感じで。
-同じ釜の飯を食って、という感じで一体感を分かち合っていたんですね。
Uqui:楽しく作るのが一番なので。
MAH:何よりそういう空気は作品に入るので。デジタルになろうが、不思議と入るんですよ。笑って歌ってるのも、声だけで想像できるもんね。これは笑顔だなとか真面目な顔してるなとかも、音に入ってるから。
-凝り固まることなく自由に作っているなというのは、「トーキョーメイズ」などからもわかります。テンション的にはダークな雰囲気で、気持ちがぐるぐる回って、めまいを起こすような曲ですが。その感情の起伏に合わせるように、歪んだディストーション・サウンドが響くパートがあったりして、ひと筋縄でない心のストーリーが音にも表れた曲です。
Uqui:サビとかそういう概念がない曲ですけど、これはメンバーの中で人気だったよね。私も好きだったし。
MAH:今回すごくいっぱい"天才"って言われました(笑)。嬉しいですね。
-それは想像力の濃さがもたらしたものですよね。Uquiさんの歌詞もとてもディープです。
Uqui:これこそ頭の中の片隅に渦巻いている......片隅なのか全面的なのか、自分で取り払えないものがあって。それをいつか拭いたい、いつかでいいのか、今すぐなんじゃないかみたいな自問自答をしながら、でも希望だけは捨てずに抱きしめながら歩いているような、そんな曲ですね。
-歌詞を読んでいるとひとりぼっち感があるけれど、サウンドと一緒に聴いているとまた味わいが違って。周りにいろんな気配があるのを感じる曲にもなっていますね。
Uqui:そうですね。助けてくれるようなオブリガートやそばにいてくれるコーラス、いろんなものが近くにいて。独りで戦っているわけではないというメッセージはありますね。
-歌詞が乗ったときに、またアレンジ面でこうしようと広がっていくんですか。
MAH:そうですね。歌詞を乗っけてもらってからまたアレンジを変えたりとかして。そういう言葉を使うならこの音を使おうかとか。そういうのはありますね。
-「熱帯的シンドローム」は、旅をするという話じゃないですが、想像の世界に思い切り飛び込ませてくれる曲で、さらにサウンドでいろんな体験をさせてくれる曲です。
Uqui:この曲が最初に録った曲だったかな。曲として最初にあったのは、「VOICES IN MY HEAD」なんですけど。
MAH:「VOICES IN MY HEAD」は曲のカケラだけあって、ライヴ本編が始まる前のジャムりでやっていた曲で。1回だけ、無観客配信かなんかのライヴでやったんですよね。
Uqui:ちょっとやってみたいからやってみようって感じで。そこからメロディができあがったのも、たぶん「VOICES IN MY HEAD」が最初だったんだけど、私の中ではいったん置いておいて(笑)。先に夏に配信をしようとなったので、一番夏っぽい曲ということで「熱帯的シンドローム」から歌詞を書いていったんです。
-アルバムに向けてもいい突破口になった感じですね。
MAH:面白い曲ですよね。なんて言うんだっけ、サウナとかでこうする──
Uqui:熱波師?
MAH:そう。ああいう立場になったつもりで、演奏したいなと思っている曲で。
Uqui:曲としてはずっと私たちが持っている感覚みたいなものではあって。
MAH:うん、調子に乗る瞬間でしょ。
Uqui:でも調子に乗りすぎてはいないんだよね。ちょっとB面っぽい感じだねというのはありながら、配信でリリースしたんですけど。いい味を出してくれているから、アルバムからの初めての配信曲としては良かったかな。
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