Japanese
ANABANTFULLS
2021年10月号掲載
Member:安田 コウヘイ(Vo/Gt) 小林 卓矢(Ba/Vo)
Interviewer:山口 智男
-今回、歌詞からは労働者階級の怒りみたいなものが感じられましたが。
安田:「天国発電」はそうですね。2020年に何人かで会社を始めたんですよ。音楽とは関係ないんですけど。コロナ禍になってからの休業要請とか、僕たち、飲食店ほど食らってるわけじゃないけど、それでもやっぱり"言わせてくれ"みたいなことはかなり増えてきて、「天国発電」はたぶん、そういう曲だと思います。意識して書いたわけではないですけど。
-なるほど、自然に滲み出てきた、と。6曲目の「スパッタ」は溶接の用語ですか?
安田:そうです。この曲は最後までタイトルだけ決まらなくて、初めて鯉ちゃん(鯉沼)に"何がいいかな? 決めてよ"って言ったら、"「スパッタ」がいい"って。なんか溶接の感じがしたらしいです。でも、あとから調べたら飛沫みたいな意味もあるらしくて、今っぽくっていいなと思いました。
-やはり歌詞にしろ、曲にしろ、日々の暮らしの中のいろいろな思いが自然に滲み出るわけですね。「大人になれよ」の"生きるか、生きるか、決めたい"、"歌うか、歌うか、決めたし"とか、「火種」の"最後尾から 俺たちは唄う/強がりは火種だ"、"最後尾から 俺たちは唄う/すぐ追いつくはずさ"とかは、再出発したANABANTFULLSの新たな決意にも聞こえました。
安田:たぶん、以前の曲はバンドマンとしてステージに上がったときのことを想像して、こういうことを歌ったらかっこいいんじゃないかって書いてたんですけど、今回は超シラフなんだと思います(笑)。バンドマンというよりもむしろひとりの人間として思っていることを書いている。ただ、決意みたいに聞こえる歌詞は、ネガティヴな歌詞になっちゃって、それを解消するために書いておかないとまとまらないから書いたところもあります。ネガティヴな思いを回収しておかないと、ネガティヴなままの曲になっちゃうぞみたいな(笑)。そういう意識がはたらいているところはあると思いますね。
-"最後尾から 俺たちは唄う"という状況をどこかで感じたわけですよね?
安田:感じたよね?
小林:常に感じてる。
安田:常に? 常には、僕は感じてないですけど(笑)。正直、僕らも年齢が年齢ですからね。二十歳ぐらいの若い子たちがどんどん出てきたことを思うとやっぱり。来年、結成10年目になるんですけど、コロナ禍になったとき、僕ら完全にストップしてたんで。そのときに頑張ってたバンドもいるし、戦ってたバンドもいるんで、その人たちが一番強いバンドだと僕らは思ってるんですけど、僕らは最初、戦えなかったんで、もう列から外れたとは思ってたんですよ。だから、3人で始めたときに最後尾にいるなとはかなり感じました。
-でも、"強がりは火種"になると?
安田:続けながら、それをそんなに誇りに思ってなかったんですよ。好きだから続けるってあたりまえじゃんって思ってたんですけど、10年続けてるのは、多少誇りに思ってもいいんじゃないかなっていうふうになってきました。それは強がりかもしれないですけど、続けることも誇りに思おうと最近は思ってますね。
-ところで、曲調も『自然発火』では歌メロを重視していましたが、今回歌メロも重視しつつ、ハード&ヘヴィなリフで聴かせる曲がまた増えてきたという印象もありましたが。
安田:松村は小難しいフレーズが得意だったんですけど、小林と僕はシンプルなリフが好きなんですよ。それが自由にやれるようになったんだと思います。
-「天国発電」をはじめ、曲の途中でリズムが変わるなど、意表を突くアレンジも増えましたが。
小林:それは鯉沼のアイディアです。
安田:3人になってからアイディアを以前よりもくれるようになったんです。
-じゃあ、3人になってからリズムをはじめ、メンバーそれぞれの考えがより反映されるようになったわけですね?
安田:そうですね。ほんとに自由度が上がったというところはあります。
-小林さんのベース・プレイは、どんなふうに変化しましたか?
小林:もともと、小難しいことはできないし、リスナーとしてもシンプルなベースが好きだから、ベース・ラインを作るときは、最初に浮かんだフレーズをとりあえずはめこむんですけど、そのあと、やっぱり要らないと削っていく作業が多くて。今回もリフものの曲はそういうふうに作りましたけど、「火種」とか「メリーチェイン」とか、歌のメロディが立つ曲はいつも通り引き算しちゃったら曲が寂しくなったんです。そのとき、あぁ、3人になってベースの役割が増えるっていうのはこういうことなんだと気づいて、今までだったら要らないと思ってたフレーズを追加しました。そこでも自由度が上がったと思います。今まではフレーズを考えても、松村のギターとぶつかったら削ってたんですけど、3人になってからは、ここも入れられるぞって楽しみが増えましたね。
-今回、安田さんは初めてひとりでギターを弾いたわけですが、いかがでしたか?
安田:ギター教室に通った甲斐がありました(笑)。先生に感謝です。この間、"ギター、うまくなったね"って小林に言われたんですけど、自分でもそれは感じてました(笑)。ギターが前よりも楽しくなりました。これまではアンプに直差しだったんですけど、エフェクターもいろいろ揃えて、あれこれとアレンジするのが楽しい......ってギターを始めたての人みたいなことを言ってますね(笑)。
-それを考えると、新たにサポート・ギタリストとして、あいくれの小唄さんが入って、以前よりもギター2本のアンサンブルの幅も広がっていきそうですね。
安田:小唄に求められたら応えられると思うんですよ。相乗効果しかないですね。
-小唄さんはもともと、安田さんの友達だったそうですね?
安田:あいくれと一緒にツアーにしたこともあるんですけど、僕は普通に一緒にフットサルをやってたんです。それですごく仲良くなったんですけど、小唄はもともと、アナバンが大好きなんですよ。"サポートやる?"って話になったときも、"やった!"ってガッツポーズして、"見てください"って見せてくれたApple Musicに僕らの新曲が入ってて、"めっちゃ聴いてるんですよ"って。3つぐらい下なんですけど、こういう若いやつとやったら面白そうだと思いました。
-ギタリストとしては、松村さんとはまたキャラクターが違うんですか?
安田:"俺はこれだからよろしく"ではなくて、みんなが出したい音の中で、どの音が一番このバンドにフィットするかって考えるタイプです。それが一番かっこいいってわかっていて、そこを探してくれるんですよ。小林も僕もそうなんです。松村とはそこが違いますね。松村は"俺はこれ"。そこに俺らが合わせる。ただ、小唄ももともとネジがぶっとんでるんで、わけわからない音は出したりするし、"ここは自由にやってもいいよ"ってなったら、自由にやってくれるんで、いい感じになると思います。
-今回のアルバムのリリースに先駆け、4月に「火種」、5月にアルバムには未収録の「後悔薄明」、6月に「メリーチェイン」、7月に「消された理由」、そして8月に「スパッタ」と5ヶ月連続でシングルを配信リリースしてきましたが、それはもちろんアルバムを見据えてのことだったんですよね?
安田:いや、それこそ見切り発車でした。ライヴハウスが目の敵にされて、ライヴが全然できない状況だったから、だったら3人でできる曲を増やしていくしかないということで、最初6ヶ月連続って考えたんですけど、長すぎるってことで5ヶ月にしたんです。それでも相当しんどかったですけど、アルバムは正直、いつか出したいなぐらいに思ってました。もとからアルバムにしてツアーを回るぞとはあんまり考えてなくて、マジでリハビリというか、とりあえずやんなきゃって感じでシングルを配信リリースしてたんですけど、「消された理由」を出したとき、僕の中で曲を書く人としてまだ行けるかもって確信できて、これ、アルバムにしないともったいないと思って、アルバムってことになったんです。
-いろいろお話を聞かせてもらいましたが、そんな『天国発電』、改めてどんな手応えがありますか?
安田:めっちゃかっこいいと思います。間違いない。もちろん、傑作なんですけど、これで終わりってわけじゃないし、名刺代わりに聴いてくれって思ってます。この先もまだまだ全然あるんですよ。
小林:とにかく聴いてもらえれば、ジャンルの好みはあるかもしれないけど、こんなバンド、初めて聴いたとか、新しいかっこいいものを見つけたと思ってもらえるはずです。500円にした理由もそうなんですけど、いろいろな人に届いてほしいですね。
安田:(ANABANTFULLSに)気づけって思います(笑)。
-最後に10月に東名阪で開催するリリース・ツアー("ANABANTFULLS「天国放電ツアー」")の意気込みを聞かせてください。
安田:大阪公演のLONEとジラフポットはもともと、友達なんですけど、名古屋ではラッパーの呂布カルマが出たり、東京ではレイヴ的なSPARK!!SOUND!!SHOW!!が出たり、異種格闘技戦みたいなメンツなんですよ。格上のバンドともちゃんと勝負できるってところで、そういうメンツにしました。自分たちでこういうことを表現したいっていうのはできてきているんで、それを見てもらう現場ですね。それがどう評価されるかというよりは、それを1回思いっきりやれたらいいという感じです。今、やりたいことを100パーセントやって、"はい、おわり! どうだ!? "って感じでできたらいいですね。
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