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INTERVIEW

Japanese

sleepyhead × Ichika Nito

2021年09月号掲載

sleepyhead × Ichika Nito

sleepyhead:武瑠
Ichika Nito
インタビュアー:山口 哲生 Photo by fukumaru


負の感情を得るような体験がなくとも暗い感情を表現することはできる(Ichika Nito)


-Ichikaさんとしても陰の部分を音楽に昇華させていくところはあります?

Ichika:そうしていることもあるんですけど、実際に経験した出来事や感情がないと曲が作れないというのは、ちょっと苦手で。例えば、"自分の近しい人が亡くなったことがキッカケになって名曲が生まれた"みたいなことってあると思うんですけど。ただ、その理屈でいくと、不幸がないといい曲が書けないということになるし、それはアーティストにとって救いがないというか。もちろん、そういった経験を通していいものが生まれることも当然ありますし、それも素晴らしいんですけど、そういう環境にいなくともいいものは作れる。負の感情を得るような体験がなくとも暗い感情を表現することはできるんだというのは、今の自分のテーマになっていますね。想像力と意志の力だけで、音楽を作れるかどうかというところに挑戦しているところはあります。

-では、今回のアルバムについて、少し振り返りながらお聞きしていこうと思うんですが、前回武瑠さんがSkream!にご登場されたのは3rd EP『endroll』のとき(※2019年10月号掲載)だったんですよ。

武瑠:そんな前になるんだ!?

-そうなんです。ただ、その時点でもう今作についてのお話をされていたんですよね。次のアルバムは"センチメンタルワールズエンド"というタイトルになること。sleepyheadというプロジェクト自体、このアルバムをリリースするために動き出したということ。そして、このアルバムがsleepyheadの第1章の集大成的な作品になるということ。実際にその作品が完成したわけですが、現在の心境はいかがですか?

武瑠:コロナのこともあって、予定していたよりもリリースが1年遅れてしまったので、実感が得づらいところはあるんですけど。今日、ここ(取材場所)に来るまで聴いていて思ったのは、「暇乞い」とかは1年半ぐらい前にレコーディングしているので、ちょっと歌い直したいところがすでにあったりして(笑)。でも、こんなに長いスパンでアルバムを作ったこともなかったから、いつもとはちょっと違う感じがありますね。達成感は......まだちょっとないかも(苦笑)。

-そうなんですか?

武瑠:今回のアルバムで久しぶりに小説を書くんですよ。そっちはまだプロットしか書いていないので、もしかしたらそれを書き終えるまでできた感じがしないかもしれないですね。もちろん音源はやりきったんだけど。あと、今はライヴハウスのブッキングを2パターン出しているんですよ。ツアーを年内にやるのか、来年にやるのか。

-執筆作業も残っているし、ツアーも調整中という意味では、まだ道の途中だと。

武瑠:そうですね。(Ichikaも)さっき似たようなことを言ってましたけど、負の感情から生み出すルーティーンみたいなものは、1回どこかでやめなきゃいけないなと思って。自分もそういうフェーズにいるので、そういった感傷的な世界を終わらせる──それもあって"センチメンタルワールズエンド"っていうタイトルなんですよ。その根幹にある小説をまだ書いていないから、やっぱりまだできた! って感じていないんだろうな。一昨年、全部録り終わったんですけど"終わった......かな?"みたいな感じだったんで(笑)。

Ichika:あんまり実感ない?

武瑠:うん。ずっとひとりで作っているとわかんなくなってこない?

Ichika:あぁ。どこまででも突き詰められるから、自分の中でここまでにしようって楔を打たないと終わらないですね。

武瑠:ね? 終わらせてくれる人がいないから。自分でもっとやりたいと思ったら、自分で予算を増やせばできちゃうし。終わりがない。

-小説はプロットまで書かれたそうですが、どういった感じなんですか?

武瑠:今度の小説はほとんど自分の話を書いているんですけど、そのまま書いてしまうと、やっぱり傷つく人が出てきてしまうんですよ。だから、自分の人格を、アイドルだった女の子と、小説家の男の子のふたりに分けて、ノンフィクションを脚色しながら書いているんですけど。で、物語の中で、そのふたりが遺書を書くんですよ。だから、自分としては、死を仮想体験する感じで書いているんです。実際にはそうしないですけどね。

-集大成的な作品という意味でも、自分の人生にひとつの決着をつけるというか。

武瑠:うん。そうですね。"今までの遺書"みたいな感じです。もっとプラスに、今までみたいに減点法じゃなくて、すべてを加点法で考えていく人生にしていくための遺作みたいな感じ。だから、今は前向きになる準備をしてます。前向きなことばかりに目を向けるようにしてる。

-Ichikaさんは、アルバムに収録される「rain one step feat.Ichika Nito」という曲に参加されていますが、どうやって作り進めていきました?

武瑠:いつも最初はめちゃくちゃテキトーなデモを作るんですよ。最終的にアレンジャーに渡すので、あまり自分だけで固めすぎるとつまらなくなっちゃうから、言葉とメロディのメモみたいなものを渡すようにしていて。あと、曲を作る前に、ストーリーが浮かんでくるんですよ。「rain one step」だったら、声が出せないギタリストが、日記の代わりに楽譜を書いて、自分の感情をメモしていくっていう。で、その楽譜を弾くと、そのときのことを思い出すっていう。そういう話を書きたいなと思ったんで、これはもうIchikaにお願いするしかないなって。

-ある意味、Ichikaさんをイメージして作った部分もあると。

武瑠:そうですね。それも伝えて、ギターとかいろんなものを入れてもらって、それをTokiっていうakubi Inc.のトラックメイカーにビートを打ち替えてもらって。いろんなパスをし合って作っていった感じですね。本当はIchikaに出てもらってPVも撮りたかったんですよ。ただ、時期もずれちゃうし、どうしようかなって。話自体がすごくいいので。

-Ichikaさんとしては、今回の楽曲にどう臨まれました?

Ichika:いつも頭の中で、どういう景色なのかを一度構築してから、それを当てはめていくように作っていくんですけど。なので、大枠を作りつつ、最終的にToki君がアレンジしてくれるという話があったので、ある程度、幅をもたせられるようにしつつ、自分のギターの世界と歌のマッチだけはしっかり固めた感じでしたね。ただ、(武瑠から)届いた歌のデータがすごく雑で(笑)。BPMも揃ってなかったんですよ。

武瑠:そうだ。ボイスメモを送ったんだ(笑)。クリックとかも一切入っていないやつ。

Ichika:だから、もはやMP3でもWAVでもなかったんです。iPhoneのボイスメモ。

武瑠:ははははは(笑)。しかも、その場で歌詞を考えてフリースタイルで歌ってるから、ブレスしたところが1拍空いてたんですよ。

Ichika:1拍というか、0.5拍空いてたんですよ。僕がそれを真に受けとって、0.5拍ずらして弾いたら、"ここ何?"って言われて、"いやいや空いてたから!"って(笑)。

武瑠:あのブレスでそう思ったのか! って。でも、エンジニアがすごくびっくりしてましたね。"これ、多重(録音)してないんだ!?"と。パっと聴きではいっぱい重ねているって思うんだけど、一発でやってるんだって。

-今回の曲もギターをまったく重ねてないんですか?

Ichika:1ヶ所だけ2本重ねてハモらせてます。ちょっと物足りないなって思ったときにハモりを入れたりはするんですけど、基本的には全部1本ですね。動画で出しているものも全部1本です。

-動画をよく拝見しているんですが、どうやって弾いているんだろうって、シンプルに思うんですよね。

武瑠:たしかに。ギタリストって、みんなそれぞれ個性とかスタイルがあるけど、あまり詳しくない人が聴いても、一発で誰かわかる音というか。MIYAVIさん以来にそういう人と出会ったなと思いました。俺、テク自慢ギターが昔からそんなに好きじゃないんですよ。速弾きも好きじゃないし。そうじゃなくて、ちゃんと必要だという法則のもとに鳴っている音だから、めちゃくちゃいいなって。

-タッピング(奏法)をよくされているのもあって、ピアノを弾いているみたいですよね。

Ichika:僕、ルーツはピアノだったりするんですよ。そういう意味では、和音とリズムとハーモニーが全部共存している美しさを求めているところもありますし、やっぱりギターって単音楽器で、一音に込める情報量をどう繋げていくかというところがあると思うんです。それを一音という横軸だけで作っていくんじゃなくて、縦軸も広げていく、音を重ねて和音を作っていくという試みもあるかなと思いますね。

武瑠:なんか、理系的な発想も入っているんだけど、ちゃんと叙情的なところも兼ね備えているところが奇跡のバランスだなって。どっちかになりがちじゃないですか。だから、繊細なマッチョみたいな。

-たしかにどちらかに偏りそうな感じがありますからね。Ichikaさんとしては、武瑠さんはヴォーカリストでもあり、クリエイターでもあるわけですけど、そういうところはどう受け止めてます?

Ichika::唯一無二だと思いますね。歌っていたと思ったら、それこそ"BEAT GAMBLES"みたいなイベントも開きますし、最近はカフェのプロデュースもしたりしているし。久しぶりに会うたびに、何か新しいことを始めていて。

武瑠:たしかに(笑)。

Ichika:そういう意味では、ヴォーカルっていうイメージはあまりないんですよね。やっぱり表現者とか、もっとラフに言うと、やりたいことをやっているだけの人みたいな。

武瑠:ほんとそうだよ。ほんとにそう。

-アルバム全体をチルなサウンドで固められていますが、そこはタイトルにある"センチメンタル"というワードから引き出されてきたものですか?

武瑠:自然とそうなりましたね。バンドのときとかは、ここでこういうふうに踊らせたいとか、このシーンの中でどういう立ち位置でありたいかみたいな、当てに行く感じはあったんですけど。でも、そのなかでも「桜雨」(2016年リリースのSuGミニ・アルバム『VIRGIN』収録曲)とかは、パっと思い浮かんだメロディをボイスメモで録って、あとで曲にしたりとかして、だんだん変わっていって。そうやって意識しないで作ることで、ちゃんと自分由来のものになっていったんだろうなって。だから、ここで表現しているものは自分の根幹にある美学みたいなものが詰まっているのかなと思います。