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INTERVIEW

Japanese

木下百花

2021年07月号掲載

木下百花

Interviewer:秦 理絵

-歌モノの音楽を作る人だと、もっと歌を詰め込みがちだと思うんですね。でも、この曲は歌に対して、間奏を挟み込む割合が結構多いなって。

あぁー、そうですね。言い方悪いですけど、"歌モノをやってます"みたいな感じになりたくなかったんですね、自分が音楽をやるにあたっては。もちろんそういう音楽も聴くんですけど、自分がそうなるのは違うなっていう。それも1回アルファベットのkinoshita名義のときに、"アーティストですよ"みたいなことをしてしまった反動なのかもしれないんです。そもそも自分がバンドをやってみたかったのもあるから、歌をそんなに大きくしたくないっていう注文をしたんですよ。

-周りに反対されませんでした?

言われました。響(Dr/吉澤 響)さんとかは大人やから。"そうなんや......でも、シンガー・ソングライターって、歌を大きくせなっていうのがあんのよね"って。でも、そんなもん知るかいって(笑)。"力強く歌いますよ"みたいなんがどうしても嫌で、今回はかなり力を抜いた歌い方なんです。それぐらい歌モノにしたくなかったんです。

-「家出」に続く、「タクシードライブ」も、家出の歌ですよね。

あ、そうですね。最後の曲以外は、逃げようとしてる感じがすごくしますね。その場から立ち去る。自由になりたがってるというか。全体的に、"私、自由です"みたいな感じが出てるなって思いますね。結局、逃げたがってるなって。

-でも、木下さん自身は逃げないですよね?

何かから逃げようとするというよりは、基本的に思うままに生きてるだけですからね。ただ、変に救われたがってる人たちが寄ってくるから。それが嫌で。最近はオンラインサロンで相談を受けるんですけど、そこで辛そうな話を聞くと、"全部やめたらええやん"って思ったりするんですよね。そこで考えさせられることが歌詞に出てるなって思います。

-やめるのが難しいこともあるけど、人の悩みって、とらわれなくていいところにとらわれたり、しがみつき続けたりすることで苦しみが増すことが多いですよね。

そこがすごく嫌なんですよね。今回の歌詞は、自分の中ではそんなに重たくないと思ってるんですよ。執着を持つのも嫌で。ただ嫌なところから逃げて、楽しいところに行きたいだけですっていう気持ちが強く出てると思うんですよね。

-ただ、「タクシードライブ」は家出をしながらも、どこか"貴方"に執着している、心を残しているようにも感じたんですけど、どうでしょう?

そこは、自分に対して執着してくる人がいて、"あなたはいつまでもそういう次元にいらっしゃるんでしょうけど、私は楽しいところにいるんで。あなた一生そこにい続けてください"みたいな皮肉ですよね。私、最近気づいたんですけど、下手に優しいというか。どうでもいいと思ってるのに、離れてほしすぎて、ちゃんと説明しちゃうんですよ。そうすると、向こうには余計"優しい!"って思われたりする。そういう謎の需要と供給ができちゃって。引き離したいのに引き離せない。その繰り返しを書いてるんです。

-普通に聴くと、喧嘩したカップルが家出したけど、実は帰る気は満々で、みたいな歌だけど、そこに木下さん自身が抱く、執着から逃げられない感情が描かれていると。

基本的に、私は何かがあったというよりは、そのときの感情を書いてるので。変にリアルなところと、漠然としたところか一緒になってたりしますね。

-資料によると、今作は"出会いと別れ"がテーマだったそうですけど。このあたりはアルバムの収録曲が出揃って見えてきたんですか?

完全にあとからですね。作品を説明するときには、説明する言葉が必要なんだよ、みたいなことを言われて(笑)。"あ、そうなんですね"って歌詞を眺めて悩んで、私は何について歌ってるのかって考えたときに、全体的に、出会いと別れを歌ってるなと思ったんです。その逃げたがってる感じもそうですし。逃げた先に出会いがあったりするから。

-"別れ"のニュアンスは、特に後半の曲に強く表れていますね。

「誰かの隣でパーティーしていたい」は完全に別れの歌ですね。この曲を作ったきっかけは、身近な人が亡くなったからなんです。私、亡くなりはったあと、全然泣かなかったんですよ。まだいるんじゃないかってぐらい現実味がなくて。夢を見てる感じというか。本当に急やったんですよね。"え、どっか田舎に帰ったん?"ぐらいの感覚だった。だから、この曲はどこか現実感のない感じなんだと思います。

-だから、タイトルと曲調にギャップがあるんですかね。

"パーティー・チューンかなって思う"って言われたことがありますけど、全然違うんですよね。どこかさっぱりしたかったんだと思います。悲しいことがあったり、嫌なことがあったりしても、悲観的になって浸っていたくなくて。いつまでも引きずって落ち込むのが嫌だった。だから、歌詞が悲しくても、明るい要素を入れる、みたいなことをやりたかったんです。

-「グリルパインベーコンブルーチーズアボカド」はタイトルが面白いですしね。

これは実際にあった出来事です。爆弾ジョニーのギターのキョウスケと、甘いものを食べる会をたまにやってたんですよ。で、"明日、どこ行く?"って聞いたときに"ワッフルを食べたい"って言うから、私がお店を調べたんです。交代交代なんですよ。前回は、私がパフェを食べたいって言ったから、向こうが調べてくれて。でも、次の日に会ったら前日飲んでて顔色がクソ悪い。しかも、ワッフルを食べたいって言ったのに、アイスを頼んでそのアイスも残したんです。それで、ぶち切れて。"お前で歌詞作ったるからな"とか言って。

-それでできた曲(笑)?

はい。そのときの出来事を膨らませました。"お前で失恋ソング作ったから。お前がフられるほうな"って。そこから甘いもの会は1回もやってないです。

-ははは(笑)。「月が見える」は今作の中では少し異色ですね。浮遊感がある曲で。

そうですね。NMB48にいたときに、いろいろなCDをプレゼントしてもらう機会があって。その中に、今度(7月18日に開催する"木下百花「また明日」リリースツアー"心斎橋Music Club JANUS公演)対バンするリンダ&マーヤさんがやってたN'夙川BOYSとかも入ってたんです。あとは、マイブラ(MY BLOODY VALENTINE)とか、シューゲイザーも好きなんですよ。私はあんまりジャンルで聴くことがないから、それがシューゲイザーってものなんやっていうのはあとで知ったんですけど。こういうのがすごく好きやなと思ってて。きのこ帝国とか、うわーって音が鳴ってる中に、佐藤(千亜妃/Vo/Gt)さんのガラスみたいな声があって、強いけど、本当に壊れそうなのがいいなと思ったり。ラブサマちゃん(ラブリーサマーちゃん)にもそういう曲があったり。今回はそういう自分が聴いてきたカルチャーが出てるんですよね。

-そういえば、木下さんって、デモ作りは相変わらず歌とギターですか?

いや、最近めっちゃ成長してて。打ち込みで作ってます。

-あぁ、やっぱり。そうなってくると、特に「月が見える」みたいな曲は、より明確に自分のやりたいことをサポート・メンバーに伝えられますもんね。

フル・アルバムのときは弾き語りのデモが多かったんですけどね。そこまでのイメージが湧かなかったっていうのもあったから、言葉で伝えたりしてたんですけど。今回のデモは、ギター2、3本と歌も2、3本、ベースもイメージで重ねてこういうのをやりたいですって渡したので。"そりゃ、変わるな"と思いましたね。

-サポート・メンバーも"汲み取りやすくなった"とか言ってくれたんじゃないですか?

響さんは感慨深そうでした。"デモを作るのがうまなったな"って。

-アルバム・タイトルの"また明日"にはどんな意味が込められているんですか?

"出会いと別れ"っていうテーマを考えたあとに、タイトルを決めたんですけど。ジャケ写の喫茶店がきっかけなんです。これは友達が撮ってくれて。初めて行ったんですけど、入った瞬間、"何ここ?"ってなりました。どんぐらい置いてんの? ってぐらいものが積んであって、異次元に来ました、みたいな場所なんです。そこにいっぱい習字が貼ってあって。ここで店主と話した人は、みんな習字を書かなくちゃいけないらしいんですよ。

-ジャケ写に一緒に写ってるおじいちゃんが店主さんですよね?

そうです。飲みものを頼むと、出てきたコップが曇ってるんですよ(笑)。"あぁ、最悪や"って、飲もうとするたびにくらくらするんですけど、店主から"このへんの地域はこうだったんだよ"みたいな話を聞かせてもらってたら、どんどん馴染んできちゃって。完全に麻痺してくるんですよね(笑)。最終的に、この喫茶店なくなってほしくないって思ったんです。こんなクセが強いところ、いつまで続けられるんだろうって考えたりして。そのなかで、"また明日"っていうワードが出てきたんです。この人に"また明日"って言うのって祈りに近いものがあるな、みたいな。それはこの喫茶店だけじゃなくて、そもそもこういうご時世じゃなくても、"また明日"って祈りに近いなって思ったんです。

-誰にとっても、明日が必ずしもあるとは限らないわけだから。

そう。私、"いつか行きます"とか、めっちゃ嫌いなんですよ。友達と別れるときも"またね"って言えなくて、"バイバイ"って言うんです。

-さっき「誰かの隣でパーティーしていたい」は、亡くなった人のことを思って書いたって言ってましたけど、"全て忘れて明日を見なくちゃ"って歌ってるんですよね。そこも結局タイトルに繋がってる。

そうなんですよね。その人は、亡くなる何日か前に"百花に会いたい"みたいなことを言ってくれてたんです。でも、仕事が忙しいっていう、今思うと理由にならない理由をつけて会わなかったんですね。頑張ったら会えるのに。で、会いに行った何日かあとに亡くなったんです。あのとき、会ってて良かったって思いました。それは自分のエゴかもしれないけど。だから、"また会おう"って祈りやなと思うんです。

-前作『家出』を経て、今回の『また明日』という作品は、木下さんにとってどういう意味を持つ作品になったと思いますか?

やっと今やってることと向き合えるようになった感じがします。『家出』のときもそうなんですけど、基本"消えたい"と思ってるんですね。失踪したいとか。そういう願望は変わらないし、嫌だったらやめるんですけど。今は漠然と"失踪したいわ"とかは思わなくなってるんですよね。ちゃんと自分がやりたいことに向き合いたいので。

-そこは前作とは大きな違いじゃないですか? 今やりたいことをやるだけじゃなくて、ちゃんとこの先も見据えるようになってる。

そうですね。祈りに近いって、そういうことかもしれないです。"自分に対しての"という意味もあるのかなと思いました。失踪はできるだけしたくないじゃないですか(笑)。面倒くさいし。やりたいことに向き合えてる時間が一番楽しいですしね。

-7月の東名阪ツアーはAnalogfish、リンダ&マーヤ、羊文学を迎えて開催されます。さっきのシンガー・ソングライターっぽい/っぽくないという意味では、完全に"っぽくない"ほうだし、かなり異色の対バンですね。

たしかに、シンガー・ソングライターっぽくない(笑)。私はジャンルに関係なく、固定観念を壊してくれる人たちが好きなんですよね。あと、バランス感覚が上手い人たち。尖ってるけど、歌はめっちゃきれいとか。概念を壊してくれる人が好きなんです。

-もうライヴの構想は何か考えていますか?

動物をテーマにしてみようと思ってるんですよ。名古屋のラジオにリモート出演したときに、動物園の話をして。"動物をテーマにしてみますわ"ってなったので。完全にノリなんです。まだどうなるか、私もわからないんですけど(笑)。