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LIVE REPORT

Japanese

木下百花

Skream! マガジン 2021年02月号掲載

2020.12.27 @渋谷WWW

Writer 秦 理絵 Photo by 沼田 学

"自分の部屋に招くようなライヴをしたい"。取材の中で、そんなふうに意気込みを語っていた木下百花は、この日、最新アルバム『家出』のジャケット写真さながらにパジャマ姿でステージに立っていた。昨年、本名である"木下百花"名義の活動をスタートさせた木下が、12月にリリースしたアルバム『家出』を引っ提げた初の東阪ワンマン・ツアー"家出常習犯"の東京 渋谷WWW公演だ。サポート・バンドには、伊東真一(Gt/HINTO/SPARTA LOCALS)、岡部晴彦(Ba)、吉澤 響(Dr/セカイイチ)というアルバム制作を共にした信頼するメンバーを迎えたほか、爆弾ジョニーのりょーめー(Vo)ら、木下の友人たちも続々と出演。パジャマ姿から女子高生スタイル、華やかな衣装へと衣装チェンジも挟んだライヴは、NMB48として活躍したアイドル時代を経て、現在はシンガー・ソングライターとなり、剥き出しの自分自身で勝負する道を選んだ"木下百花"という人間を、まるごとぶつけるような2時間だった。

ゆったりと心地よいグルーヴに揺れる「強さ」からライヴは幕を開けた。人間の本当の"強さ"とは何か。そんな問いを投げ掛ける木下の凛としたヴォーカルが会場に響きわたっていく。爆弾ジョニーのりょーめーを呼び込み、軽やかにタンバリンを叩きながら歌った「世界の宿題」では、木下が弾くピアニカのレトロな音色がエッジの効いたギターとユニークに重なり合う。りょーめーのハーモニカをイントロに、弾き語りで歌い出した「5秒待ち」では、途中でバンド・サウンドが加わった瞬間、木下の表情に嬉しそうな笑顔が浮かんだ。この日の木下は、MCで数えきれないぐらい"楽しい"という言葉を口にしたが、ステージで演奏をする彼女の一挙手一投足からは、このメンバーで鳴らす音を心から楽しんでいることが伝わってきた。

"今日はみなさんに会えたことがビッグ・ラヴって感じです。ありがとう!"と感謝を伝えたMCを挟み、透明感のある歌声を聞かせたバラード「少しだけ、美しく」から、フォーク・ソング味わいで届けた弾き語り「愛の証」をノンストップで繋いだ流れは鮮烈だった。"いくら死んでも生き返らせてあげる"と、何度も繰り返す「愛の証」のフレーズには、包み込むような優しさと同時に激しい情念も滲む。木下が紡ぐ切実な歌は、時に、生きることに真面目すぎるがゆえに葛藤を抱える私たちの心に寄り添い、救済するような瞬間がある。"私はここで歌っているので、生きていれば、また絶対に会える。そういう曲です"という言葉から、セトリを変更して新曲「誰の隣でパーティーしていたい」へ。寂しさも滲むダンス・ナンバーを歌い終えたあと、"今日みんなに会えたことが私の幸せです"と語り掛けた木下は、感極まったような表情を見せた。

新型コロナの感染予防対策としてとられた換気タイムのあとは、女子高生スタイルに着替えて登場。"みんな騒然としてますね、私の女子高生姿に(笑)"と、いたずらっぽい笑顔をのぞかせると、「料理教室は似合わない」では、全身を大きく使ったハンドマイクの歌唱で会場を盛り上げていく。"私が人生で初めて挑戦したギター・リフをやります!"という宣言に、ドラムの吉澤が大袈裟にドラム・ロールを叩き始めた「卍JK卍」では、"そんな大層なソロなわけないでしょ!"とつっこむ木下。オリエンタルなサウンドに合わせて、ミュージック・ビデオに登場した"みほちゃん"とパンダも迎え入れ、ハッピーな空間を作り上げた。後半戦では自身でリメイクしたというMV撮影時の衣装に着替えると、「ダンスナンバー」へ。カラフルな照明を浴びながら、ひとりで"超絶ダンス・バトル"を繰り広げたりと、そのパフォーマンスからは、アイドル時代に培ってきたエンターテイナー精神も決して失われていなかった。自分の持っている武器をすべて使い、その場所にいるお客さんと一緒にひとつの徹底的に空間を楽しみ尽くす。そうやって木下は最高のクライマックスを描いていく。

残り2曲を残したところで、"早いなぁ"と、あっという間だったライヴを振り返った木下。本編のラストを飾ったのは、アルバム『家出』でも最後の曲として収録されている幻想的なナンバー「ひかる」だった。郷愁を誘う懐かしいバンド・サウンド。りょーめーと織りなす男女ツイン・ヴォーカル。透明感のあるサウンドは軽やかなダンス・ステップへ表情を変え、やがて暗闇に仄かな希望を灯すように静かに終演。言葉で多くを語ることはなかったが、じんわりと温かな余韻を残すフィナーレだった。

この会場にいる誰よりもステージを楽しむ、そんな木下の雰囲気はアンコールでも変わらなかった。『家出』のブックレットの写真を撮影したという"ただの友達"=伊豆のトオルをパーカッションに呼び込むと、陽気なシーサイド・サウンドが心地よい新曲「家出」を披露。そして"寂しいけど、終わっちゃうなぁ"と名残惜しそうに言いながら、本当の最後に届けたのは「アイドルに殺される」。底抜けにポップなバンド・サウンドの中で、木下は"私はみんなと出会えて良かった! アイドルのときも、今も!"と力強く叫んだ。その言葉が今の木下百花の強さのような気がした。有名だったアイドル時代のイメージを抱かれたまま、シンガー・ソングライターとして活動することは、ゼロからのスタートよりも困難なこともある。だが、そういう過去を地続きの歴史として背負い、今を全力で謳歌する。この日のステージからは、そんな木下百花の覚悟が伝わってきた。
今後、この場所から木下百花が描いてゆく新しい景色が楽しみでならない。


[Setlist]
1. 強さ
2. 世界の宿題
3. 5秒待ち
4. いい人のフリ
5. 少しだけ、美しく
6. 愛の証
7. 誰の隣でパーティーしていたい
8. 料理教室は似合わない
9. タクシードライブ
10. 卍JK卍
11. ダンスナンバー
12. わたしのはなし
13. ひかる
En1. 家出
En2. アイドルに殺される

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