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INTERVIEW

Japanese

木下百花

 

木下百花

Interviewer:秦 理絵

-ただ、木下さんの本意ではないかもしれないけど、今作には、メンヘラというか、心が不安定なときに救われるんだろうなって感じる曲もあるような気がしました。「強さ」とか。

そうかもしれない。「強さ」っていうのは、自分の人に対するややこしい想いが出てると思います。私、不安定な人たちが、"私の歌に救われる"って言ってくれることに対して、私は何もできない、みたいに思ってしまうんです。私が救うっていうよりは、勝手に救われてほしくて。そういうのって、他人に求めちゃいけない。みんな、そんなに弱くないはずなんですよ。もちろん、めちゃくちゃ疲れたときには、人に頼ったほうがいいときもあるけど、全部人任せにするのは良くないというか。

-そういう人たちを突き放すわけじゃないけど、もう少し現実に目を向けて戦ってもいいんじゃない? っていうような。

そう、それはもともとの自分に対して言ってることでもあるんです。アイドルのときとか、kinoshita名義で活動してたときは、結局全部人のせいにしてたんですよ。自分が上手くいかない、苦しんでるのは周りのせいだって思ってた。それをやめないとって思ったら、やめられたんです。そこは自分で向き合っていかないと、変わっていけないんですよね。「強さ」っていうのは、自分の好きなことには向き合って、自分が嫌なことからちゃんと逃げることなんじゃないかなって思うんです。これは自分への戒めでもありますね。

-なるほど。では、他のアルバム曲についても詳しく聞かせてください。個人的には8曲目の「いい人のフリ」が好きでした。スペイシーなミディアム・テンポですね。

ずっとスライドで弾いてるっていう。

-登場人物が抱いてる感情はピュアなのに、これに"いい人のフリ"っていうタイトルを付ける? っていうところに怖さを感じましたけど。

結構怖い曲ばっかりですよ、私(笑)。どこか不穏な空気があると思います。きれいごとだけで終わらせられないんですよね。これもね、私って本当にややこしいなぁって思う曲です。歌詞全体としては、救われるようなことも書いてるんですけど。実はいい人じゃないかもよ、みたいなのがあって。私、"意外といいやつだよね"みたいなことを、結構言われるんですよ。

-わかる気がします(笑)。

タトゥーとかピアスを空けてたり、髪の毛が派手やったりしてたから。ヤンキーが普通に挨拶をしただけで、ちゃんとしてるって思われる。それに近い風潮があるんですよ。それで勝手にいい人と思われて息苦しかったりする。それをタイトルに込めたんです。冒頭の"なりふり構わず天使になって"とかも、アイドル時代に、人に対していい顔をするというか、そういう言葉で表したんです。

-その倒錯した表現に、もっと本質的なところを見てほしいっていう想いとか、人ってそんなに単純じゃないよねっていうメッセージを感じました。

うん。このアルバムを通して思うんですけど、私って、すごく矛盾してるんですよ。でも、すごく芯が通ってるとか、自分を持ってるって言われる。たしかに自分のやりたいことはあるけれど、結局、人なんて矛盾しかないとも思うんです。1日1日で変わっていくから、1個の答えだけ出すっていうのはできないんですよね。

-その矛盾が人間らしくて美しかったりする。『家出』は、そういう作品ですよね。

"人"って感じですよね。

-アルバムを締めくくるのが「ひかる」なのも素敵でした。これはちょっと不思議な曲で。空から俯瞰してるようにも聴こえるし、等身大にも感じました。

これは、最近おかんとめちゃくちゃ喧嘩してできたんです(笑)。Aメロの最初の"裸足で抜け出した"とか、ズボンの裾がくたびれちゃったっていうのは、実際にそうだったんですね。Twitterで、そのときの実況をしてたんですけど、そのへんは実際に起きたこと。でも、サビが俯瞰してるんですね。

-"月から見下ろす君は幸せか"っていうところとか。

実は「卍JK卍」もそうなんですけど、これは人が死んだ歌なんです。"死は救済"っていう言い方があるじゃないですか。私はそれがわかるなと思うんです。人が自殺をしたときに、それを"かわいそう"って言う人がいますよね。死ななくても良かったのに、とか。でも、もしかしたら、その人にとっては死んだほうがラクだったのかもしれないって考えちゃうんです。だから、その選択を肯定も否定もしないような曲にしようと思って。発端は自分自身の出来事だけど、そういうところは少し物語っぽく書いてるんです。

-こういう曲を書こうと思ったのは、コロナ禍に有名人の自殺が相次いだとか、そういう出来事も影響してるんですか?

いや、その前からずっと思ってたことですね。それを肯定もしないけど、否定もしたくない。結局、死を選んだ本人しかその理由はわからないから、周りがとやかく言う問題ではないっていうのがあるんですね。その想いはずっと変わらないですね。

-「ひかる」には、"月の上でただダンスを踊るのさ"っていう歌詞が出てきますけど、今回のアルバムって、"踊る"っていう言葉がすごく出てくるなと思ったんですね。

あぁ、そうですね。

-「ダンスナンバー」もそうだし。"踊る"っていうのは、木下さんにとって、"生きる"っていうこと、イコールの意味で表現してるんじゃないかって思ったんですよ。

うんうん。

-他人の生き死にをどうこう言うつもりはないけれど、でも"生き続ける意味"みたいなことを歌いたいアルバムだったんじゃないかなって。

どうせ生きてるんやったら、踊ればいいのにってことですよね。踊るとか楽しむとか。みんな、適当に楽しむことを忘れてるんじゃないかなって、最近すごく思うんです。人の目とか世間体を気にしたり、言えないことがいっぱいあったり、できないことがいっぱいあったり。もっと自分の人生を楽しめばいいのに。どうして他人のことに目を光らせて生きてるんやろなっ? ていうのがすごくあって。どうせ、みんな死ぬんやから、生きてる間にしかできないことを、ちゃんと自分で楽しまないとっていうのは感じますね。そういうのが伝えたかったことのひとつではあるなと思います。

-うん、それは「ひかる」に辿り着いたとき、すごく伝わってきました。

良かった。でも、これを作れたのは運が良かったなと思います。

-運ですか? 自分の力だとは思わない?

言葉だけじゃ表現できないって思いました。音でちゃんと自分を出さないと、自分じゃなくなるって、本当にあるんやって。アルバムを出すタイミングで、自分が好きな音と出会えたのは、めちゃくちゃ運が良かったと思います。

-このアルバムができたことで、木下さんはやっと自分を肯定できたんでしょうね。

本当にそのとおりですね。レコーディング中、楽しくて、ずっと踊ってたんですよ。いいギターが録れたときに踊り狂って、わざわざみんながいない部屋に入って、めっちゃ叫んだりとかして(笑)。

-よろこんでる姿をみんなに見せたくないから?

いや、嬉しすぎて大声を出したいから。別部屋に行って、"うぉー!!"みたいな。みんな見てるんですけど、それは(笑)。

-ははは。

すごく楽しかったです。みんながずっと私のやりたいことに付き合ってくれたので。

-アルバム・タイトルを"家出"にしたのは、どういう意味ですか?

ワンマン・ツアーも"家出常習犯"っていうタイトルなんですけど。私、家出常習犯だったんですよ(笑)。小学校4~5年生ぐらいから家出しまくってて。14歳のときに本格的に家を出たんです。今はひとり暮らしなんですけど、今でも家を出たい衝動ってあるんですよね。知らない土地に行って、何も考えずに、ぼーっと立っていたい。でも、そういう感覚って、意外と持ってる人が多いんじゃないかなと思ってて。家から出るっていう物理的は話だけじゃなくて、心の中も解放されたがってる自分がいるというか。

-自分のしがらみから解き放っていこうよ、みたいな。

そう。この言葉には、さっき言ったような、"もっとみんなラクに生きたらいいのにな"っていう想いも出てると思います。それを漢字2文字で表したかったんです。最近の、ちょっと日本語を長くした文章みたいなタイトルは、みんな使いすぎだし(笑)。私がするのは、私っぽすぎるなと思って。キャッチーなタイトルが良かったんです。

-アルバムを引っ提げて、12月24日からは初の東阪ワンマン・ツアーが開催されます。木下さんにとって、ライヴはどういう場所ですか?

自分の家みたいにしたい場所ですね。ずっとそれができないなぁと思ってたんです。ステージは高いし、リラックスできへん。家にいるときの歌のほうが何百万倍もいい。それじゃ良くないと思って、絨毯を持って行ったり、服を変えてみたりもしたんですけど。そういうのも意味はないですね。自分の中で自分を肯定できて、ようやくステージでも素の自分で歌えるようになった。自分のテリトリーを作れるようになってから、ずっとライヴも楽しいんです。それも最近のことなんですよ。

-当日はアルバムを一緒に制作したメンバーとステージに立つわけですね。

そうです。今も何本かライヴをやっていて、自分の好きな音でライヴをできるのは、こんなに楽しいのかっていうのも実感してるので。やっとスタートできたんです。

-ようやく、ですね。なんで人って自分らしく生きるのがこんなに難しいんでしょうね。

本当にそう思います。私、"百花らしいね"って言われるのが苦手なんです。お前に何がわかるねん? みたいに思ってしまって(笑)。たぶん人って、ずっと自分らしさを摸索し続けるんやなって感じます。それは毎日変わっていくものでもあるから難しいんですよね。