Japanese
DATS
Member:MONJOE(Vo/Syn)
Interviewer:TAISHI IWAMI
-そして1曲目の「Time Machine」では"no iPhone"、"no internet"という歌詞が冒頭に、"Nirvana"や"Oasis"というバンド名も出てきます。やはり4人に共通する"School"を感じるものとして90年代は大きいのでしょうか。
僕は93年生まれで、一番年上の早川(知輝/Ba)も91年生まれなので、みんなほぼ後追いなんですけど、90年代への憧れが最も強いんです。巧(吉田 巧/Gt)は、あそこまでOASISに詳しいやつにはほかに会ったことがないレベルだし、THE STONE ROSESやPRIMAL SCREAMも大好き。一彌(大井一彌/Dr)はロックも好きだしTHE CHEMICAL BROTHERSとかのイメージも強い。早川もそんな感じですね。僕はOASIS、NIRVANA、RED HOT CHILI PEPPERSやRADIOHEADといった90年代にめちゃくちゃヒットしたオルタナティヴなバンドに出会ったことが、最初に音楽をやろうと思ったきっかけで。音楽やファッション、グラフィックとか、とにかく時代そのものが僕らには輝いて見えるんです。
-「Dancing in the moonlight」はBOFFALONGOが1970年にリリースし、2年後にKING HARVESTがカバーしてヒット。時を経て99年にTOPLOADERのバージョンも大ヒットした曲です。現在DATSを担当しているレーベル・ディレクターの方が、当時TOPLOADERを担当されていたそうですね。
そうなんですよ。面白い巡りあわせですよね。
-こういった古き良きソウル/R&Bの哀愁を感じる歌を、生々しく歌い上げたことは今までになかったと思います。作品全体的にもヴォーカルの表現力が豊かになったことは大きなポイントだと思うのですが、いかがでしょう。
歌に対する意識はすごく変わったと思います。昔は正直、ほとんど意識していなかったというか、歌を第1に曲を作ったことがなかったんです。日本語を歌詞に入れるようになってからも、海外の音楽ばかり聴いていて、メロディも英語がハマるようなものばかりを作っていたので、全然うまくいかなくて、行き詰まったんですよね。そこでヴォイス・トレーニングに通うようになって、2年くらい経っての今ですね。
-しっかり学んだんですね。
考えてみたら、ここまでで話した僕が影響を受けたバンドも、みんな歌が立っているじゃないですか。メンバーにも前々から、歌ありきでアレンジを考えたいって言われていましたから。そこを今作では落とし込むことができて、曲の幅が広がったと思います。
-「Your Home」でTAWINGSのCony Plankton(Vo/Gt)さんを迎えたのはなぜですか?
これはコロナ禍に伴う"STAY HOME"的な曲を作ろうと思って、せっかくだから誰かに歌ってもらおうと考えたときに、TAWINGSが去年の秋に出した「水仙」がめちゃくちゃ好きだったことをふと思い出して。それで再度聴き直してみると、やっぱりめちゃくちゃいいんですよ。それでConyさんにお願いしたら受けてくれたんです。
-自粛期間はどう過ごされていました? 実は私、緊急事態宣言前の3月末、イベントごとを開催していくべきかどうか、多くの人々がその狭間で揺れていた頃、MONJOEさんが"感染拡大に加担したくない"とツイートしたことに、かなり影響を受けたんです。
"これなら絶対に感染しないし、感染させることもないだろう"っていうところまでストイックに自粛していました。そこにはいろいろな意見があっていいし、今はそのときと状況も変わっていますけど、コロナはまだまだ未知のウイルスで、感染しなくていいんだったらしたくないし、何よりほかの人がかかる状況を作りたくないという気持ちは同じです。
-ストイックな自粛で何を思いましたか?
とにかくキツかったです。人間としての尊厳すらも失われていく感じがしました。最近は少しだけ外に出るようになったんですけど、周りを見てみると、例えばスーパーで、何事もなかったかのように買い物をしている人もいれば、密集を避けながら商品を触るときもすごく気を使っている人もいる。なんだか自由だなって、思いました。
-自由ですか?
この間、メルボルンの友達と話したんですけど、完全にロックダウン中で家から許可なしで出たら逮捕されるし、家族とハグもできないし大変だって言ってたんです。そういう話を聞くと、日本はまだ選択権があるから。そこにはいい部分もそうでない部分もあるのかもしれないけど、僕はどこかでその自由に救われているんです。自分がストイックに過ごすことを選んで続けているからこそ、これが完全に国家の指示で強制的にコンロトールされてしまったらと考えたら、さらに苦しい。
-たしかに、出てもいいけど出ていかない、一応逃げ場のある状態と、出ていくことが禁止されている状況はおそらくまったく違うように思います。そんななかで「Sunlight」も、今のMONJOEさんの状況と生活スタイルから思うことを書いた曲とも取れるのですが、いかがでしょう。
これは価値観の分断がコロナで強く浮き彫りになった部分はあるけど、コロナ以前からもともとあった話だよなって、そういう気づきを発端に、孤独と不安が増幅していく自分に向けて書いた曲ですね。
-浮き彫りになったことで、いろいろと変わっていくことについてはどうですか?
今は無駄とされるものがどんどん省かれていってるじゃないですか。それで、オンライン・ミーティングとかも、前からそれでよかったんじゃないかって話になっている。効率化は正義。それはそうなんですけど、長いこと自粛していると無駄なことが恋しくなってくるんですよね。満員電車で通勤しろとか、何がなんでも顔を合わせて会議とか、その手の無駄ではなくて。
-わかります。空いた時間を楽しむための趣味などの例えですよね。
こうしてオンラインで取材をしていても、話が面白くなってきたら会いたくなる。外出を自粛して家で音楽を作っているとメンバーに会ってスタジオで音を合わせたくなる、その恋しさをここでは"無駄"と言ってるわけですけど、そういうことを大切にしなきゃいけないって、ストイックに自粛していたからこそ強く思うんです。今回のタイトル"School"の語源には、そういう意味もあって。かつての貴族たちが、あくせく働かなくていいぶん、余暇に教養を身につけよう、みたいな。まぁ諸説あると思いますけど、そういう時間は本当に必要で。人間は無駄なことをできる時間がないと、人間らしく生きていけないし、音楽だって享受できない。人の言葉を借りると、坂口恭平さんが、"いまは暇であるべき。暇な人は喜ぶべき。能力があると勘違いされとる人はみんな依頼ばかり受けて仕事で忙しすぎる。しかし人生は仕事ではない。人生は楽しみ喜びを感じ、人間以外の生命体無生物たちと交感し涙するものである。喜びの涙を流すためには暇である必要がある。みなさま暇であってくださいね"とツイートされていたんですけど、まさにそれだなって。
-私も見ました。
それで言ったら、今の時代、バンドって、暇があるからこそ享受できる、いわゆる"不要不急"の音楽の中でも、さらに無駄の極みなんですよ。作曲からアレンジまで少ない人数で完結できて、ライヴも音を出すという意味ではセットがシンプルな、トラックメイカーやラッパーの動きがすごく面白いなかで、リアリスティックに見ると、バンドはロックダウンになると活動が難しくなるし、曲を作るにもレコーディングするにも、みんなが演奏したものを合わせなきゃいけないし、ステージのセットも大変だから、この先は厳しいとか言われたりすることもあるかもしれないけど、その情熱は絶やしちゃいけない。
-MONJOEさんはトラックメイカーとバンドマン、両方の側面があるからそう思う部分も大きいでしょうね。
無駄の極みだからこそ、無駄を愛する人たちの最後の駆け込み寺じゃないですけど、そういうエモーショナルな魅力がバンドにはある。
-ある意味究極の楽しみだと。
だから絶対にバンドはなくならないし、意地でもバンドは続けたい。僕らの音楽の社会的な価値なんてわからないし、それを見いだすために音楽をやっているわけじゃないですけど、それだけは本気で強く言いたいし、その象徴でもありたいし、それが"School"という名のDATSのステイトメントです。
-そのうえで、どんな音楽をやっていきたいですか?
最初のほうに、そのステイトメントを持ったルーツのひとつとして、"THE 1975のような、活動そのものが主義主張、ステイトメント化しているバンドへの憧れ"と言いましたけど、彼らの根本は、ひとりの人間としての生き様を、バンドを組んで生々しく正直に表現しているだけ。だからカッコいいと思うんです。
-同感です。
マーケティング的に何をやったら売れるのか、成功するのか、そこにある程度のパターンはあったとしても、結局のところそれが正解かどうかなんてわからないし、そこに倣って仮に成功したとしても、それもまた正解がどうかなんてわからない。結局自分たちがどういう音楽が好きで、どういうことをやりたいか、その感覚だけを頼りにやっていくことが、自分たちの音楽を聴いてくれている人や支えてくれている人に対する誠実さでもあると思います。
-まさしく。
そんななかで、葛藤がありながらも言いたいことを正直に言ってるバンドや人間そのものに、僕らは惹かれている。DATSとしては、そんな理想のバンド像に向かうための出発点が『School』になるんです。だから、このアルバムは、今までの作品と比べると、よりパーソナルな想いや経験が歌詞になっています。日記みたいなものですね。恥ずかしいくらいに自分を曝け出している自負はあります。これ以上の自分の言葉で綴ったオリジナル・メッセージはない。それがソーシャルな若者の想いを代弁していると共感してもらえて広がっていったら、それは僕にとってすごく嬉しいことだし、そうじゃなくても、それはそれでこの時代に生まれた若者のリアルなひとつの声であることには変わりない。そこがすごく重要なんだと思います。
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