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INTERVIEW

Japanese

Base Ball Bear

2020年01月号掲載

Base Ball Bear

Member:小出 祐介(Vo/Gt) 関根 史織(Ba/Cho) 堀之内 大介(Dr/Cho)

Interviewer:金子 厚武

歌はしっかり聴かせつつ、演奏には抑揚がある。それが今一番いい作り方なんじゃないかなって


-EPの収録曲がニュー・ミックスになっているように、やはり"サブスク時代のロック・バンドの音作り"には意識的だったのかと思いますが、どんな部分がポイントでしたか?

小出:一番はやっぱりダイナミクスですかね。一緒にやってる佐藤(宏明)さんという人は、今の海外のトレンドの音をすごく研究してる人で、下の出し方と、あとダイナミクスがポイント。いろんな音を詰め込みすぎて、演奏やアレンジに隙間がないと、レベル(音の出力レベル)が貼りついちゃうんですよね。これまでは自分たちも含め貼りつかせ気味の人が多くて。

-いわゆる音圧戦争と言われてた時期ですよね。

小出:そうですね。CDで聴くには音がデケぇほうがいいってことだと思うんですけど、それはダイナミクスを潰してるってことでもあって、要は"抑揚"を殺してるんですね。でも、サブスクのルールだと、抑揚を殺して音をデカくしようとするとリミッターがかけられちゃうんです。音を突っ込めば突っ込むほど音がちっちゃくなるっていう逆転現象が起きてしまう。そのなかで、バンド・サウンドで戦うためには強弱とアレンジの隙間が大事。ただギターを弾いてると埋まっちゃうんで、抑える場面をきっちり作らないとストリーミング映えしなくなっちゃう。これまでは情報量の多い、目が細かく詰まってるサウンドが多かったと思うけど、それって本当はプレイヤーそれぞれのアビリティが消えていく方向なんですよね。でも、今はそれぞれの演奏がちゃんと聴こえる録りと仕上げにしたほうが、ストリーミング映えする。これもまた結局、昔のような音作りなんで不思議な話でもあるし、理に適ってるようにも思います。

-関根さんは音作りに関してどんな部分を意識しましたか?

関根:私自身、埋め尽くしてしまう音楽とか、グリッドにきっちり合わせる演奏とかには魅力を感じてこなかったので、自分たちがロック・バンドとしてやれることはこれだなって思いながら演奏しました。グリッドに合わせるのが美しいことってなっちゃうのは嫌で、人の作るグルーヴのかっこ良さや迫力を失いたくないし、それが最後には勝つと信じたいから、自分がやれるのはそういうところかなって。最終的な好き嫌いは聴き手に委ねますけど、そういうかっこ良さに気づいてほしいなっていうのは心の中に秘めてます。

-堀之内さんはどうでしょう?

堀之内:僕、デモを作るときはエレドラでクオンタイズ(※演奏データのタイミングのバラつきを補正する機能)するとかして、1回忠実にやってみるんです。音も自分でシミュレーションして聴いてみて、それを曲ごとに当てはめるんですけど、3人になって音の絶対数が少なくなって、ルーム感とか、余白の音の鳴り方とかをすごく気にするようになりました。録りのエンジニアさんは前にもご一緒したことのある人だったので、お互いの成長を確認しつつ、さらには、『ポラリス』と『Grape』を作って更新した状態で今回のアルバムを作れて、すごく勉強になりましたね。

-楽器だけじゃなくて、ヴォーカルの処理もかなり面白いですよね。

小出:演奏自体はすごくスタンダードでシンプルなんですけど、ヴォーカルの処理はめちゃくちゃ今っぽくて。例えば、ディレイひとつとってもトレンドがあって、今だとだんだんピッチダウンしていくディレイが流行ってたり、あとは"リバーブ深ぇなぁ"みたいなのだったり(笑)。原音を食わない程度に、後ろについてるリバーブがポイントなんですよね。そこは佐藤さんのチョイスで、トレンドのサウンドを踏まえて、バンド・サウンドに持ち込むっていう。

-近年のヒップホップやR&Bにアンビエント的な音作りは欠かせないわけですけど、それをあくまでロック・バンドがやるっていうのは面白いですよね。

小出:あとは、歌のレベルの書き方ですね。歌がはっきり聴こえるように1文字単位でレベルを書いてるんです。抑揚って歌が一番出ちゃうんですよ。でも、歌と演奏も全部でダイナミクスを作っちゃうとただ生っぽくなっちゃうから、そこのコントラストのつけ方が大事で。歌はしっかり聴かせつつ、演奏には抑揚がある。それが今一番いい作り方なんじゃないかなって。なかなか面白い合わせ技になってると思います。

-新曲の4曲に関してはEPと並行して作っていたのでしょうか? それとも、直近に作られた4曲なのでしょうか?

小出:アイディアは『Grape』の頃からあったのもありますけど、ほぼほぼ直近に作りました。「Cross Words」は、ここまで1年やってきた3ピースでのサウンド構築がここで極まったと思いますね。レコーディングは一番時間がかかったんです。あれだけゆっくりで、ジャカジャカ弾いてるわけでもないので、手のニュアンスがめっちゃ出るんですよ。ちょっとした震えもミス・タッチも全部出ちゃうから、あれだけシンプルなのに、丸2日間弾き続けました。あとは歌詞的にも、この1年コミュニケーションについて考えてきたことが込められたので、良かったなって思います。

-「EIGHT BEAT詩」は作曲クレジットに関根さんの名前も入っていますね。いかにも生音ヒップホップ的なスネアの音もかっこいいです。

関根:チャップマン・スティックでループを作って、そこにラップを乗っける手法でした。演奏はリズム隊のふたりだけなので、そこにびっくりしてほしいです。

堀之内:この曲めちゃめちゃ大変なんですよ。"チャップマン・スティックの曲"って聴こえるかもしれないけど、ほぼドラムだけでやってるような曲ですからね(笑)。

-"EIGHT BEAT詩"というタイトルは「ポラリス」の歌詞に出てきていたフレーズで、見事な伏線回収になってるし、バンドのこれまでを辿る内容もグッと来ます。

小出:都築響一さんの"夜露死苦現代詩"っていう、川柳とか、玉置 宏さんのナレーションとか、いろんな詩的な言葉を収集して1冊にまとめてる本があって、それがすごく好きで。その本で初めて"現代詩"って言葉いいなって思ったんですよね。そこまで広く捉えられるのかって。で、たまたま"EIGHT BEAT詩"っていう言葉ができて自分なりの現代詩じゃないけど、ギター・ロックの文法をもっといろんな角度から考えてみたいと思ったんです。ギター・ロックって、内省的な歌詞が似合っちゃうんですよ。自分語りっぽい、いかに自分が悲しくて切ないかみたいな。僕もよく使うけど、そこにヒップホップっぽい、セルフボーストっぽいことを持ってこれないかと思ったときに、このタイトルならやれるかもってところから、この歌詞に発展したんです。

-「ポラリス」自体も固有名詞を使いながらメンバーのことを歌っていて、ある意味そこからの発展形とも言えそうですよね。

小出:アルバムの残り4曲を仕上げる段階で改めて全体のテーマを考えたんです。"3"が大事っていうのはありつつ、フレーズとして言える言葉が欲しくてもう1回考え直すと、バンドそのものを歌の題材にすることがありなんだって思えたアルバムだなって。作者の内面を描くことはずっとやってきてはいたけど、自分たちの姿、バンドとしての立ち姿を見せるのはギター・ロックには似合わない表現だと思ってたんです。でも、「ポラリス」を作って、最初はちょっと恥ずかしかったけど、これだけ自分たちの姿が見える音作りをしてるわけだし、これもアリなんだなって。じゃあ自分たちがなんで音楽をやってるのか、それ自体を歌にしてもいいと思ったし、その向こうにあるのは自分の人生の肯定でもあると思った。自分たちがここまでやってきたことの肯定、今ここでやっていることの肯定。それを自分たちで言えるっていうのは、ここまでキャリアを積んできたからこそだと感じるんですよね。このテーマ自体、ここまでやってきたからこそ出てきたものだと思います。