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INTERVIEW

Japanese

cyberMINK

2020年01月号掲載

cyberMINK

Interviewer:TAISHI IWAMI

cyberMINKが2019年3枚目となるシングル「Twinkle」を配信リリースした。様々なエレクトロニック・ミュージックやロックの要素をミックスしたサウンドに、赤裸々な言葉やビートと呼応するような破裂音を衝動的に発するヴォーカルが乗った、ユーモアが爆発するセンスはそのままに、また新たな境地を切り拓く。直線的な語感勝負のフレーズは、流れのあるメロディになり、エクストリームなビートは煌めくサウンドスケープが印象的な曲線美を描き、聴き手のシチュエーションに溶け込むような曲にシフト。その変化の理由を尋ねたところ、プライベートな恋愛事情から、彼女なりの"ポップ"に対する考えまで、様々な持論を展開する、興味深い時間となった。

-2019年は、Trigger Recordsに所属することになり、シングル『commonsense』(3月リリース)、シングル『Happy Overload』(8月リリース)と今回のシングル「Twinkle」をリリースされました。まずはこの1年を振り返ってみて、どうでしたか?

cyberMINKとしてというより、プライベート、特に恋愛でいろいろあって。私、付き合う男に左右されやすいんですよ。それを終わらせてやろうと思ってバタバタしてたことが、音楽的な変化に出始めてるのが今ですね。8月に出した『Happy Overload』を作っていた頃は、一番しんどかった時期。私自身が、生活丸ごとその環境に依存していたから、ちゃんと独り立ちしなきゃいけないと思いながらも、なかなか踏み出せなくて。ようやく抜け出して安定してきたのがここ半年なんです。

-具体的にはどう変わっていたんですか?

それまでは感情の起伏が激しかったことと同調するような、簡単に言うと"刺しにいく"曲が多かったように思うんです。今回出した「Twinkle」は、『Happy Overload』を作ったのとほぼ同時期なんで、そんな今のモードが反映された曲ではないんですけど、ちょっと精神的にいい兆候が見え始めた頃に仕上げたんで、今に至る変化のプロセスですね。

-まず歌詞とメロディについて。今までは、破裂音やセリフ調、インパクトのあるワンフレーズの繰り返しなど、語感やユーモアで引き付けるイメージだったんですけど、今回はまっすぐな"歌モノ"になっています。

今までは自分のパーソナルな部分や精神の揺れが"ドンッ"って言葉に出た感じ。だから語感でもっていく曲ばかりだったんですけど、恋愛とか男とかもういいから、仕事とか制作とかに生活の比重をシフトできたらいいなって思うようになって。それが言葉や歌にも出たんだと思います。

-"恋でも愛でもないひとつぶのきらめき"という、恋愛による視野狭窄から解かれた瞬間を思わせる言葉を起点に、受け手の様々なシチュエーションとシンクロできる機能を持った歌詞とメロディが印象的でした。

そうかもしれません。以前と比べると"刺す"というよりはフワッとした足取りの軽い言葉になっていると思います。とはいえ、今も刺したいとは思ってるんですけど、刺し方が変わってきたんですよね。曲調もポップでわかりやすくなっていて、『Happy Overload』のタイミングだとEPの中でちょっと違うタイプの曲だと思われていたような気がするんで、ここでシングルとして出せて良かったって、思います。

-"ノイズと混ざってマーブルになる"というフレーズもすごく印象的でした。マーブル柄を見ていると、生きていればいろんな出来事に巻き込まれることも、自らかき乱すこともあるけど、結局自分の色は変わらないから個性を大切にしようって、思うんです。

マーブルには私も近いイメージがあります。その感覚を共有できたのなら、すごく嬉しいです。

-そしてマーブル柄の美しさは、この曲の全体の良さを端的に表しているようにも感じます。まさに"刺し方が変わった"とおっしゃったことがストンと落ちました。cyberMINKさんの曲は、様々な感情や音楽性を折衷するうえにおいて、ときに相対する要素がぶつかることで起こる化学反応が魅力だと思うんです。そこに今回は、言葉やサウンドから美しい景色や色が見える、描写力が加わった。

早い段階で騒音のような音ができていて、そこからどうしようか考えたときに、今までは奇天烈というか、個性的な曲が多かったんですけど、もっとポップな曲も作ってみたいなって。あとは、心に余裕ができて、自分自身が作ってきた曲をちょっと外から見たときに、歌のメロディを主体にした曲がないから作ってみたくなりました。もともと、星とか宝石とかラメのようなキラキラしたものを想起させるような音と、それらを際立たせるようなコード進行とメロディに、ギリギリの不協和音が入ってくるような曲のフェチでもあったんで。

-もともと持っていながらも、知らないうちに閉じていたポテンシャルの蓋が開いたんですね。

今までは、恋愛しかり、生活の中で感じるネガティヴな感情が原動力だったんですけど、私が曲を作るうえで最も大きな力は、そこじゃないんじゃないかって。みなさん何かしらの経験をもとに曲を作っていくと思うんです。オンタイムでそれを表現するテンションやきっかけがなくても、積み重ねてきた経験は確実にプールされている。その私が持ってる貯金の中で、最も大きいのは実はきれいな景色だったんだって、改めて自覚したんですよね。今回の「Twinkle」も、プラネタリウムを観たこととかが影響してますし、今作ってる新曲も"自然っていいな"って思いながら作業してます。

-でも、そういうポジティヴな感情って、エネルギーとしては弱くないですか? もともと世の中に対する沸々とした怒りもあったように思うんですけど、そこはどうなったのでしょう。

おっしゃることはすごくわかります。ネガティヴから生まれるエネルギーってすごく大きいですし、ミュージシャンは結構怒ってる人が多いし、私もそうなんですけど、思想的には保守的なところもあって、社会に対しては"怒る"って感覚じゃないんですよ。

-今は恋愛の呪縛から逃れて、本来の"自分らしさ"を実感している時期だと思いますが、その変化の過程をメッセージにするつもりはないんですか?

私の場合は、自分らしさをカッコ良く歌っちゃうことこそ自分らしくないなって。ほとばしる自意識とか、苦手なんです。

-では、世に曲を出す、すなわち"伝える"ということをどう考えていますか?

ATARI TEENAGE RIOTがめちゃくちゃ好きで。彼らってめちゃくちゃ怒ってるし煽ってくるじゃないですか。

-私も、彼らの音にどれだけ奮い立たされたことか。

だから私も、怒りをぶちまけて、誰かを先導できるようなアーティストになりたいと思っていたこともあったんです。じゃあどんなことで煽ろうかって思ったときに、まじでないんですよ。オリジナルなルサンチマンとか、くすぶった何かが自分にもあるはずだって、探してみたんですけど、どれも薄っぺらくて浅い。そこで、私はなんで音楽やってんのかって考えてみると、気持ちいいからやってるんですよね。だから、私は誰のためでもなく私自身のために気持ちいい音楽を作るので、そんな感じでも良かったら聴いてくださいって、思ってます。でも、その反面"共感"についても考えるんです。

-それはどういうことですか?

ここまで歌詞やメロディのことをしっかり質問していただいて、私もたくさん喋ったので、それらを全部ひっくり返す、もとも子もないようなことかもしれないですけど、実は歌にそこまで興味がないんです。でも、ポップスという現象はすごく好きで、私の"気持ちいいこと"に含まれます。J-POPとかK-POPみたいな、多くの人が聴けるようにパッケージングする面白さへの好奇心は尽きない。そんなポップスの世界には身を置いていたいと思うから、歌わないとなって。そこで、ポップスとして誰かに共感してもらう言葉を考えたときに、今までみたいに自分の感情とかユーモアを勢い良くぶつけてきた経験はすごく大切。恋人を最低だと思いながらも抜けられない人の気持ちも、稼いだお金が全部酒に消える人のストレスも、散々遊んできたんでよくわかります。そのうえで、作詞となるとそこに他人の感情が入る余地がないと、共感されないように思うんです。

-でも、そこまで共感を機械的に狙った印象はないんですよね。すごく人間的な音楽であることは、変わってないような気がして。

日本はどんどん景気が悪くなってきてるし、Twitterを開けば弱者が見えやすくなってるし、私もそんな弱者のひとりでもある。でも私は今すごく幸せだし心に余裕もあるし、心置きなく贅沢できるときはしたいし、"贅沢大好き~!"って歌ってもいい。幸せに生きてることを隠す必要もないし、そこを隠して共感に持っていくのは好きじゃないんです。そんな今の状況がいつまで続くかはわからないけど、立ち位置が変わったのに曲の視点はそのままだと、それこそ薄っぺらいと思うんで。