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INTERVIEW

Japanese

キノコホテル

2019年06月号掲載

キノコホテル

Member:マリアンヌ東雲(歌と電気オルガン)

Interviewer:杉江 由紀

-そんな「愛の泡」はマリアンヌさんのヴォーカリゼーションも、色艶が濃厚に滲んでいて素敵です。

きっと、この曲は女性からの共感が多く得られるタイプの曲でしょうね。とても女らしい歌ですし、作って歌った本人からしても"未だに自分の内側からこんなに艶っぽい色が出てくるものなのか"と驚きましたし(笑)。これはひとつの発見でもありました。あとは、「東京百怪」も今回のアルバムだからこそ仕上げられた曲かなぁ。

-それはどういう意味において、ですか。

当初は、もっとシンプルにジャパニーズ・ニュー・ウェーヴを指向したような曲だったんですよ。そこからこれもまたテコ入れをしていくことで、鮮やかな音に化けていきました。それに、このアルバムは曲並びが実に美しい。「ヌード」、「愛の泡」、そしてこの曲でキノコホテルの新たな面を派手に見せつけつつ、中盤に入った「レクイエム」では急にダウナーに落ちて、その次の「雪待エレジィ」でじっくりと聴かせるとか。

-「雪待エレジィ」のイントロでマリアンヌさんの弾かれているオルガンの響きの深さには、聴いていて圧倒されました。

この曲については、アレありきで考えていったところが大きかったです。アルバムの前半戦ではファズ・ギターであったり、オルガンであったりという、これまでのキノコホテルの楽器隊においてツートップを張っていた要素たちを意図的に前へは押し出さないかたちにしてあるぶん、この中盤あたりで"そろそろ真打ち登場"とでも言いたげな流れに持っていくわけです(笑)。

-からの、スリリングな「華麗なる追撃」で佳境へと入っていき、タイトルからしてアメイジングなシャッフル・ダンス・チューン「茸大迷宮ノ悪夢」へと盛り上がっていく後半も、ことごとく胸躍る流れです。

「茸大迷宮ノ悪夢」は、このアルバムの中で最後にできた曲で、実演会場でみなさんに熱狂して暴れていただきたいなと思いながら作った曲ですね。あと1曲、足りないものはなんだろうと考えたときに、やはりこういうライヴ映えする曲は不可欠だと思いまして(笑)。一方で、「華麗なる追撃」で重視したのは痛快さです。これもキノコホテルとしては新しい要素をいろいろと詰め込んだ曲になりました。

-どこかアナログ・フィルムで撮ったような活劇感が、いきいきとした躍動感として音に表れているあたりはまさに痛快です。

冒頭のベース・フレーズで始まって、跳ねたドラムがグイグイと進んでいく感じのイメージからこの曲はできあがっていったんですよ。どの曲もリズム・パートから作っていくこと自体は変わりないんですが、この曲はあのエッジの立ったベースとドラムがハマった時点で"これはキノコホテルにとってだいぶ冒険的な曲になっていくだろう"という予感が強くありました。どこにどう着地するかまで見えていなかったとも言えますが、最終的には思っていた以上のものとして完成しましたね。"これは普通にいい曲なんだから、キノコホテルらしいとからしくないというところで躊躇せず、もっと堂々とやっていくべきだと思う。何をどうやったってキノコホテルなんだから大丈夫!"と島崎さんが背中を押してくれたことで、新しい冒険に対する不安や懸念をはねのけることができました。

-クリエイターとして音そのものに手を加えていただくこともそうですが、時にはそうしたメンタル面でのプッシュをしてもらえることも、レコーディングにプロデューサーを入れるメリットになりうるのですね。

そうなの。第三者から言われて初めて"あ、そうよね!"、"なんだ、これでいいんだ"って気づいたり、それによって力を得たりする場面は今回いくつもありました。これまでだったら、自分で自分を半ば無理やり納得させて前に進んでいくというやり方をしていたこともあったので、それと比べると精神的な面でも今回の体制でのレコーディングには非常に価値があったと思います。


我ながら"最初から最後までまったく隙がない"と豪語できるアルバムになった


-なお、今作はこれまたダンサブルでいて古のゴーゴー感を彷彿とさせる「女と女は回転木馬」と、そこはかとないドラマチックさが漂う「秘密諜報員出動セヨ」にて締めくくられます。この締め加減もさすがですね。

「女と女は回転木馬」は、わりと従来のキノコホテルらしさを踏襲した曲だと思います。「秘密諜報員出動セヨ」はインストのつもりで用意してきた曲を、途中から映画でいうエンドロール的な位置づけのものとして作り込むことになりまして、またとないくらいに最後をうまく締めくくってくれることになりました。このアルバムについては、この流れでしかありえないというくらいに完璧な作りにすることができたのが嬉しいですし、私としてはこの最後の2曲を聴いたうえで1曲目のチェンバロから始まる「天窓」にリピートで戻ったときの感覚も、ぜひみなさんに楽しんでいただきたいです。我ながら、"最初から最後に至るまでまったく隙がない"と豪語できるアルバムになりました。

-「天窓」で聴ける荘厳なチェンバロの音からは、キノコホテルの築き上げてきた格式も感じますしね。

格式っていい言葉ね。それを感じさせつつも、2曲目の「ヌード」以降はきっと聴き手があれよあれよと翻弄されていくことになると思うので、みなさんにはそういう面白さをぜひ味わっていただきたいです。

-つまり、聴き手側を翻弄するような"マリアンヌの奥儀"がこのアルバムの中では大いに発動されているということでしょうか。

そう。これぞすべて"マリアンヌの奥儀"のなせる業(笑)。10年以上やってきて、"13年目にいきなりそこへ跳びますか!?"という秘義や奥の手がこのアルバムにはたくさん詰まってますのでね。かといって、ただのダンス・アルバムになっているわけでもないですし、昔からキノコ(ホテル)を聴いてくださっている方々にとって馴染みやすい楽曲も入っていますから、すべてが新しくなったというより、島崎さんの力を借りながらキノコホテルとしてのレンジを大きく広げられたということなんだと思います。

-この『マリアンヌの奥儀』を携えてのツアー"サロン・ド・キノコ~奥儀大回転"(6月29日の札幌Sound Lab moleよりスタート)も控えておりますが、こちらについてはどのようなスタンスをもって臨まれていくことになりそうですか?

今回のアルバムはどれがリード曲でもおかしくない、というくらいに全曲を"会心の1曲"として仕上げることができましたからね。常に私は"今のままじゃダメだ"という気持ちを持っているし焦燥感も強い方なんですが、キノコホテルとして表現活動をし続けていくことに対する楽しみと喜びとしては、結局のところ会心の1曲が書けたときというのがまずは大きいんです。同時に、それを実際にステージで披露して、みなさんからの反応をいただけたときの感動というのもそれは大きいもので、あれはミュージシャンであるからこそ得られるものでしょうし、本当にすごく気持ちのいいものなんです。ですから、今度のツアーでも私はそんな喜びや快楽をたくさん味わいたいと思ってます。

-マリアンヌさんは、至ってピュアなメンタルをお持ちなのですね。

バンドを続けていくって、もっと汚れていくことなのかと思っていたけれど実は逆ですね。音楽は続ければ続けるほど、自分に対してどんどん正直になっていきます。むしろ、そうじゃないとやっていけない気がする。私、そういう意味ではこのうえなくピュアなんですよ(笑)。自分自身や自分の音楽に対しては、嘘をつけないし、つきたくもないのです。

-また、最後にはなりますが、今回のアルバムには「ヌード」のMVとメイキング映像もDVDに収録されるそうですので、映像の内容についても少しだけ触れていただけますか?

観ていただければ、"なるほど"と腑に落ちるものになっていると思います。と同時に、この映像を観た男性がどういう感想を持つかでその人の性癖や女性観をリトマス試験紙的に判断できるところもあるでしょうね。ぜひ、試してみてください(笑)。