Japanese
illion
2016年10月号掲載
Interviewer:沖 さやこ
-その自信もじんわりと湧いてきたものだったのでしょうか。
どこかのタイミングでシャキーン! と自信がついたわけではないですね(笑)。(メジャーというフィールドで)10年やってこれたというのもひとつの自信だし、ちょっとずつ自分を信用できるようになったんだと思います。ちょっとずつ、ですね。ある意味閉鎖されたバンドという環境で10年音楽をやってきて――それはそれで"4人だけで音を鳴らしてどんな新しいものができるかな?"という崇高な作業なんですけど、最近は劇伴をやったり楽曲提供やプロデュースをやったり、映画に出たりと自分を開いている時期で。どれをやるにしてもすべての経験が影響し合ってるから、僕はそれが心地よくて。"ほかの誰かとのコラボレーションを信じながら自分の表現に落とし込む"という楽しみを覚えたんですよね。すごく楽しい。本当に楽しいですね。
-少しずつ自信を得ながら、今までとは違う楽しみを見つけることができたんですね。
自分が0から100まで見るのではなく、誰かに預ける部分があって、預けたらそのぶん返ってくるものがあって、それによって自分に広がりが生まれて――そういうことを繰り返していくことで、その面白さにハマッていったんです。『P.Y.L』でも5lackや(クラムボンの原田)郁子ちゃんに参加してもらって、温度感が合う相手と一緒に何かをやるということが何の気なしにやれるようになった。だから"来週火曜ヒマ?"みたいな感じで連絡して(笑)、やりたいと言ってくれたからやる、みたいな。なんの無理もなくやれるから、楽しいですね。
-信頼しているスタッフさんと一緒にスタジオに入ったり、気の合う音楽仲間を誘ったり、そういうラフな空気が『P.Y.L』にはそのまま表れているのでしょうね。ものすごく単純な意見ですが、とても気持ちのいいアルバムでした。
あぁ、よかった。俺もそうなんです(笑)。『P.Y.L』は聞き流すことができる。よく眠る前に流したりして――過去の作品ではそういうことをほとんどしなかった。トラックのループ感や特性もあるだろうけど、すごく自分がナチュラルに作ったんだなという感じがして。意識や神経を研ぎ澄まさなくても聴けるアルバムを初めて作れたなという気がして、それがすごく新鮮なんです。
-これまで野田さんが作ってきた楽曲は言葉そのものが持つ意味も強くて、音もそのメッセージを後押しするものが多かったと思います。だけど『P.Y.L』は普段よりもリズムが生きているぶん、メロディや語感も含め、思考というよりはイメージに働き掛ける音色で。透き通る美しい水の中にいるような気分になるというか。
うん、そういうイメージで作ってたんですよね。何曲かはその場で浮かんだ歌詞をただその場で歌っている。"歌詞、これだけでいいのかな? まぁいいか"と思って演奏で終わらせたりとか(笑)。すごく常温で、たゆたいながら作って、(制作)時間が短かったので余計にそれをそのまま閉じ込めることができました。RADWIMPSは抽出したエキスを爆発させたような感じというか、メッセージの強い音楽を作ってきたつもりだし、それを意地でも届けるんだと思っていて。でもillionでは"言葉の持つメッセージ"というものから離れたかったし、illionはそういう(RADWIMPSとは真逆のことをする)役割だなと。"(曲に対する想いは)自分がわかってればいいや。曲に閉じ込めた自分のこの感覚をどれだけの人がわかってくれるんだろう?"という楽しみも残せたし、何より自分自身が一番たゆたえればいいなという感覚で作ったから......こんなパジャマ姿のアルバムは初めてです。
-これだけキャリアを重ねながら、今までの表現の手法に加え、その真逆とも言える新しい感覚を得ることができたのは、野田さんにとってもかなり刺激的な出来事ですね。
1年半、劇伴というすごく開けた制作をして、その間にRADWIMPSの制作やプロデュースをしていたから、余計にその反動があったのかもしれない。ずっと自分のジャッジで音楽を作っていたけど、劇伴は最初のジャッジが新海誠監督で。監督には"どメジャーな、ど真ん中に届けるんだ!"という熱い思いがあって、その人が僕らの作る音楽のリーダーシップを取ってくれる――その経験はすごくデカかったです。31歳でここまでひねくれることなく、ストレートに音楽を作れたのはあの作品のおかげだし、そこでど真ん中をやりきった感じがあったから、1回ちゃんと自分自身に戻ってきてリセットする必要があって。だから必然的な気がしているんです。『君の名は。』が自分が起きて開いている状態なら、『P.Y.L』は眠っている状態というか。
-活動すべてが異なる表現であれ、どこにも本当の野田さんが存在していて、それを楽しむことができていると。
うん。楽しいですよ、音楽。捉え方も広がったし、聴かせ方もいっぱいあるなぁと気づいたし。それを全部RADWIMPSの中でやろうとすると、ちょっとごちゃっとしちゃうから、"illion"という出口がひとつあると僕にとってすごくしっくりくるし。空気感としてillionがあると、RADWIMPSにも還元しやすい。illionの反動でRADWIMPSの新作(※2016年11月23日リリースのフル・アルバム)がまた面白くなりそうな気がしているし。すべてが響き合って、良い関係性を築けていると思いますね。illionはこの先、自分の欲求、自分が一番試したいことをする実験の場であり遊び場――何をやっても許される"言い訳"、としてもちょっと使ってるというか(笑)。
-ははは、言い訳ですか?
失敗しても許されるというか(笑)、冒険ができる。やっぱりRADWIMPSは俺がすべての責任を背負っているし、俺もそれを背負う覚悟を持ったから、そういうバンドであるべきだとも思うし。でもillionは、"自分に自由でいること"を責任にしているというか。何でもないことを歌いたいし、何でもないことを歌ってもいいでしょ? という気持ちもあるし、雰囲気をそのまま閉じ込めることに使ってもいいし、明確な意図や意思とは違う余白の部分を残せたらいいなと思って。だから"みんなはどういうふうに受け取るんだろう?"という興味がある......トラック・メイキングの音やビート感的にも、時代にしっくりきてるアルバムだなと思うんですよね。僕は5lackとの出会いも必然的だと思っているんですよ。
-そうですね。RADWIMPSは初期からミクスチャーの要素がある楽曲を作っていましたし、今"アラサー"と言われる人たちは音楽そのものが圧倒的な市民権を得ていた時期に10代を過ごしていた世代なので、ジャンルを意識せずに音楽を吸収していたという経験が地盤にある。
シーンの枠はどんどん薄まっているから、"同じ感覚を持って響き合える相手だったら一緒に何かをやるべきだよね"と思う。活動するフィールドは同じじゃないけど、"源"が近い相手との間で生まれるものはすごく面白いものだし、わかり合う時間が必要ないぶん、すぐナチュラルに生まれてくるんです。音楽でも映像でもどんな仕事をしている人でもそうなんですけど、俺は"あ、この人と俺は同じ感覚を持ってるな"というのがわかるということに自信があるんですよ。どうしても人は体系化して類型化することによってジャンル分けしていくけれど、そこをひたすらかいくぐって抗っていくのは大事なメッセージだなと思うんですよね。それができる人はやり続けるべきだと思うし、俺はそれ自体も表現にしていきたいという意志があるんです。
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