Japanese
真空ホロウ
2015年05月号掲載
Member:松本 明人 (Vo/Gt) 村田 智史 (Ba) 大貫 朋也 (Dr)
Interviewer:沖 さやこ
-ああ、なるほど。ギターは自分の欲求を音楽に込めるだけではなく、それを高めるところまで意識が行っているなと思いました。当時の音はとにかく内向的で、それが美しさを作っていたけれど、このアレンジは華やかだから外向的な雰囲気はあります。
松本:ひとつの理想に辿り着くために、細かいいろいろなことを試して力強くなったと思います。実はギターは変わってないんだけど、アンプは変わったし。自分が聴きたいところの自分の声とか、ギターとか......そういうところをもっと見られるようになった。この曲をレコーディングしたときはそんなこと1mmも考えたことがなくて、"俺が歌えば大丈夫"って感じで(笑)。その若者特有の、根拠も理由もない自信――そういう要らない自信を喪失した、という感じですね。
村田:でもそれ本当、大事だよね。
-新曲のTrack.6「CAGE」とTrack.10「こどものくに」は、自分たちを信じたくて悩みもがいている気持ちがそのまま、シンプルな音になっているなと思って。ここまで人間くさいサウンドは、『contradiction of the green forest』以来かなとも思うんです。それ以降の真空ホロウは、それを隠しているような気もしていて。
松本:......そういうところも、あったかも。
-『ストレンジャー』(2011年6月リリース)以降は、役者のように演じるというか、物語を見せる、世界を作るアプローチも多いなと思っていたんです。『contradiction of the green forest』のころは根拠のない自信で、我を全部さらけ出すことができた。でも今、いろんなことを重ねてきたから、ここでシンプルな気持ちを出せるようにもなったのかも、と思いました。
松本:そう、まず、ずっと『contradiction of the green forest』というアルバムを超えたかったんです。......だからそういう意見をいただけるととても嬉しいですね。
-そういう意味でも「開戦前夜」もそうですが、音楽への向き合い方が原点に戻ってきてるのかもしれないな、と思ったんですよね。『contradiction of the green forest』と同じくらい松本さんの世界観が全面に出ているけど、あのアルバムと違うところは、ちゃんとバンドらしさを持っているところで。おまけにこの2曲は、この『真空ホロウ』というアルバムの中でも特にバンドらしい、エモーショナルが詰まっている。
松本:全曲そうじゃないといけないかもしれないけど......この2曲にはメンバー全員強い愛があると思いますね。アレンジ、音作り云々、すべて。
村田:言ってくれたことがまさにその通りで。『contradiction of the green forest』のころは無垢なんですよね。そのあと曲を作るごとにいろんな意見をもらいながらいろんな挑戦をして、そんな中できたこの2曲に、ものすごい手応えを感じることができて。だからその2曲に反応してくれたのは本当に嬉しいし、自分もすごく納得できてるし。その2曲のお陰で、この『真空ホロウ』というアルバムに、さらに愛が持てたんですよね。
-このアルバムは、始まりだなとも思ったんです。昔持っていた無垢な気持ちを取り戻しつつ、いろんなことに挑戦したからこそ見えたことや、鍛えられたものもありますから。Track.9「Tokyo Blue bug」みたいな歌謡曲風味のあるストリングスとピアノが入ったバンド・サウンドは、昔では作ることができないものですしね。
松本:僕のいろんな頭の中の引き出しに、かなり大きなものとして中森明菜さんとか黛ジュンさん、佐良直美さん、ザ・テンプターズ、ザ・タイガースといった時代のものがあって。そういったところをここまで濃く出した曲は、今までなかったかもしれないです。
-ルーツをちゃんと出せるようになったのは、ソングライティングの変化ですね。
松本:ああ、そうですね。いろんなものに迎合はしてないですね(笑)。変に器用になりたくないな......とも思うし。いろんな曲に比べて、さらに孤独になっている曲。でも、それさえ信じていればいいのかも......と思ったときがあって。前はメロディと言葉を同時に出してそこにコードを付けるというやり方をしてたんですけど、最近は曲を書いて、そこに歌詞を書けるようになってきて。それが自然とそういう(歌謡曲的な)メロディになっていったんですよね。
-ようやくいろんなものが整って。真空ホロウはこれからですね。
大貫:いろんな引き出しを開けて、新しいことに挑戦しても"真空ホロウらしさ"をぶれずに出していこうと思います。
村田:人は負のところを見がちじゃないですか。"これがあればできるのに"、"こうだったらうまくいくのに"、"相手はきっと理解してくれない"とか......自分本位になりがちな世の中というか、毒の吐き合いみたいな感じになっちゃってるから。それをどういうふうに崩していこうかな、という感じなのかな。バンドで毒を吐いているけど"その毒の裏には何があるのか?"、"ただ毒を吐いているんじゃないんだな"と思っていただくためにはどうするかが大事になってくる。その奥に何があるのかを見せることを、考えるときなんじゃないかと思いますね。
-音楽が手軽に楽しめるぶん、軽く触れるだけの人も増えていますからね。
村田:音楽自体もさらっとしすぎちゃってね。サウンドもとりあえず調子がよければいいみたいな感じだけど、もっと奥が深いものだと思うんです。もう1回オーディオ・ブームが来ないかな?と思ってるくらい。もう1回みんな、ちゃんと音楽を聴いて欲しい。今の時代は"なんとなく"が多いかも。こんなに音源に気持ちを詰めることは必要なのか?、こんな小っちゃなところに気を巡らすのはエゴなのか?、リスナーに届くのか?というのもすごく考えたときがあって。でも届くか届かないかよりは、愛情をどれだけ注ぎ込めるかどうかが勝負になってくると思うんです。じゃないと、心の底から納得できる盤を出せないから。時代に負けずにいいサウンドやいいCDを作っていきたいですね。今回も自分らのベストを出せているつもりだし、ベストは常に更新したい。
松本:昔から3人で思っている"自分たちが出したい部分を色濃く出す"、"自分たちの根本にあるキャラクターを出す"ということに、この何年間で身についた自信や絶対に曲げられない思いを踏まえての器用さ。そういったものを使って新しい曲たちを作っていけたらいいなと思います。そこには自分たちの成長が絶対的に必要なんですけど。......負けられないです。まだまだ世に出ていない新曲も手元にあるので。これからですね。
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