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INTERVIEW

Japanese

クラムボン

2015年03月号掲載

クラムボン

Member:原田郁子 (Key/Vo) 伊藤大助 (Dr)

Interviewer:石角 友香

-ありますね。

原田:あ! それ、写経をお寺でやったとき、同じこと言われました。どんどん書くんじゃなくて1文字1文字とにかく丁寧に、ゆっくり書いていいからって。そうすると、見た人はその時間を過ごすことになるって。そういうのと似てますか?

伊藤:うん。そう思って作ったわけじゃないですけど、そうやって細かいものを細かく拾っていって、それを再現していってっていう作業は、まぁかなり丁寧にやられたことではある。それこそデモはそれぞれに渡ってるから、ふたりだけで練習したら"こういう曲だったんだ""こういうふうに見立てるといいんだね"ってことを確認しながら。時間は限られた中でやってたんですけど、かなりそこは丁寧に。それがもしかしたら受け取る人にとってのスピード感みたいなものと関係あるかもしれませんね。

-音楽って細分化されてるから"今の音楽"ってひと言で言えないのがミトさんは悔しいじゃないかな?と私は勝手に仮説を立てたんです。アニメやテレビの音楽は関係ないのか?というと、関係なくないっていうことをクラムボンの楽曲で綿密に繋いでる印象があったので。

原田:あるころから、小淵沢に居るとき、機材車に乗ると、アニソンしかかからなくなったんです(笑)。で、いつからか、大ちゃんのiPodにもアニソンしか入らなくなって。"す、すごい。クラムボンの3人中ふたりがアニメ大好きなんだ"って(笑)。でも、ミトくんは、この何年ずっと、アニメ・シーンへのリスペクトを持って、どんどん開拓していくような、ジャンルの枠を打ち壊していくような動き方をしていて。彼という存在があることで、いろんな新しいエネルギーが行き来したり、混ざり合ったりして、新しいものが生まれてるんじゃないかと思う。だから、これまでに、丸々セッションから、メロディも歌詞も何もないところから、サウンドありきで、セッションしながら作ったアルバムも何枚かあったんですけど。今は、1曲の中に、どれだけのストーリーを生み出せるか、1本映画を観終えたような、本を読み終えたような、なにか重みと、軽やかさ。そういう混在した何かを、徹底的にやってみる時期なのかなと。ミトくんの"こうしたい"を、私と大ちゃんは、まるで台本をもらうみたいに、まずは受け取って、"この山、一体どうやったら登れるんだ?"っていうところから始まって、途方に暮れたりしながら、何回も何回も身体に通していく。――もしかしたら、自分で作ってるミトくんでさえそうかもしれないけど、自分の頭の中で鳴ってたものが、3人の肉体を通して現実になっていったときに、極限まで緻密だったものが、なんかこう、ある塊になるというか、台風のような(笑)。ぐわあーーって渦を巻き始めるんですよね。すごく面白いです。楽しいだけじゃ決してないですから、そこに向かうまでの......ものすごく練習をしないといけなかったり、気が抜けなかったりっていうのはあるんですけど、なんか本番になったときの破壊力みたいなの、ちょっと今まで聴いたことがない。"何っぽい"とか吹き飛ばすような(笑)感じがする。

-「noir」とかはやってそうでやってらっしゃらなかったことなのかなと思って。チルウェイヴ以降の曲というか。

原田:あぁ、あの曲は、また反対の方向かもしれないですね。音数の多い、情報量の多い曲があるからこそ、最小限、ドラムもエレドラで、音と音の間に無音のスペースが広がってて、かっこいい。1曲ずつのその振り幅っていうのは、きっとクラムボンの今までのアルバムにもそれぞれあるものではあることだと思うんですよね。例えるなら、すごい空の上まで行っちゃったり、海の底まで潜ったり、すぐそば、耳元まで近づいてきたり......色んな側面があって、分裂してる。それが、どんどんくっきりしてきてるのかな。"見ようによってはそう見える"という漠然としたものじゃなくて、もっとはっきり、くっきりしているというか。

-1曲1曲のメッセージも強い気がしました。

原田:"メッセージを込めてる"というとそれはまた少し違うんですけど、やっぱり何といっても、曲が強いから......。メロディ・ラインが、ぼんやりしてない。太字、なのかな。だからといって、"なにかひとつの答えにたどり着いた"ってことじゃなくて、"ほんとにいろんなことがあるよね"っていう、その中でも、"これからも続いていくんだ"っていう、その状態を晒すというか(笑)、ダイナミクスを通じて、自分たちの姿を見るようでもありますね。

-タイトルの"triology"は"三人学"とももとれるんじゃないかな?と思って。

原田:あぁ、そうですね。......あの、きっと、会社に勤めてる人も、そうなんじゃないかな、と思うんですよね。学校でも、お店でも、ひとりじゃない、誰かと何かをするっていうときに、自分とはこんなにも違うって人たちと......"どうやってひとつの場所にいるのか?"っていうのって、なんかきっと、ずっとあるテーマではないかな?と思って。ものすごく離れて見たときにクラムボンっていうのはそういうことをやってるような気がするんですよね、音楽という手法で。個々と全体、っていうようなことを......。その難しさであったり、でも、"こんなこともあるんだな"とか"それは自分ひとりでは絶対に見つけられなかったな"って驚きとか、発見とかそういう、自分が壊れていくような面白さもあって。だから、こうしてアルバムの話をしてることは、クラムボンがやってきたことについて考えてみる時間でもある。

-20周年でアルバムも出ます、ということになると今年は20代のバンドが出ているようなフェスにも出てくれるんでしょうか?

原田:(笑)呼んでくれれば、ぜひ! そうそう、去年は、パスピエとゲスの極み乙女。と、それぞれ2マンでやらしていただいて。すごく新鮮だったんですよね。"クラムボンの曲を聴いたあとすぐに作った曲です"ってライヴで演奏してるのを聴いたり。そういう目に見えないやりとりがたくさんあって、"あー、まだまだ、がんばろう"と思えたというか。