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Japanese

NOMELON NOLEMON

2022年01月号掲載

NOMELON NOLEMON

NOMELON NOLEMON

ツミキ

ライター:石角 友香

スキルを競い、辿り着いた先にあった――アップデートされたヒューマニティ


デビュー曲「INAZMA」を"YOASOBIのオールナイトニッポンX"にて2021年の8月11日に初解禁。大きな話題を呼び、8月13日に配信リリースと、鮮烈なデビューを果たしたNOMELON NOLEMON。すでにボカロPとして活躍するクリエイターのツミキと、シンガー・ソングライターで、アコースティック・セッション・ユニット ぷらそにかでも活動するみきまりあからなるこのユニットへの登場時のリアクションは高く、11月12日にリリースした2ndシングル「イエロウ」では早くも「INAZMA」とは180°異なる音楽性でリスナーを驚かせた。その存在感、音楽的な振り幅で期待値が最高潮を迎える2022年1月26日に1stフル・アルバム『POP』をリリースする。

すでにボカロPとして多くのフォロワーを持ち、同業のアーティストはもちろん、イラストレーターや映像作家からも注目されているツミキ。そしてシンガーとして高い表現力を誇るみきまりあのプロフィールを改めて振り返ってみよう。様々なインタビューで答えているようにツミキは祖母がライヴハウスを経営していたことや自身も幼少期からエレクトーンを習うなど、音楽が身近な環境で育ったそう。中学時代にバンドを経験しつつ、表現したいことの純度を高めるためにボカロPへシフト。2017年12月に「トウキョウダイバアフェイクショウ」をニコニコ動画に投稿し、初投稿にもかかわらず10万回再生(殿堂入り)を記録し、注目を集めた。2021年2月にリリースした1stアルバム『SAKKAC CRAFT』は全編、初音ミク歌唱で通し、BPM高めのエクストリームな楽曲が30分ノンストップで駆け抜ける怒濤の展開を見せた。歪んだギターと高速ビートに中毒性の高いメロディとエッジの効いた歌が乗る世界観は衝動的。自分にとって障壁となる現実を映しつつ、それに抗いながらも全力で破壊もしくは逃避するような音像と歌詞の世界はリアリティに満ちていた。また、「フォニイ」が多くの歌い手にカバーされ、スマッシュ・ヒットとなったことも記憶に新しい。

一方、みきまりあは個々での活動も行うシンガー・ソングライターたちによるアコースティック・セッション・ユニット、ぷらそにかの東京メンバー。同ユニットでのカバー楽曲をはじめ、個人名義でもミニ・アルバム『PARFAIT』などをリリース。甘さとハスキーさを併せ持ち、チルアウト系のR&Bもギター・ロックも自分の色に染められる表現力が魅力的だ。こうして若いリスナーに注目されるふたりが新しいユニットとして始動したのがNOMELON NOLEMON。経緯としてはツミキが『SAKKAC CRAFT』で自己表現を突き詰めたことで、次のフェーズでは"誰かのための音楽を作ってみたい"という想いが発生したことが大きな理由だろう。すでに「INAZMA」と「イエロウ」で両極に振った音楽性を聴かせていることに片鱗が窺えるが、アルバム・スケールでツミキの意志が明快に掴めるはずだ。

ここではアルバムを聴き進めていくうえでのサブテキスト的に楽曲を深堀りしていこう。アルバムは神聖でフラジャイルな音像のミディアム・ナンバー「cocoon」でスタートするが、曲の後半は一気にカオティックなノイズ・ギターの轟音で世界を塗りつぶす。すべてがひらがな表記の歌詞は同音異義語として受け取れる箇所もあるのだが、その余白も含めこれからNOMELON NOLEMONの音楽がリスナーであるあなたの世界に鳴り響くと宣言するオーバーチュアの役割を果たしている。続く2曲目がデビュー曲「INAZMA」であり、同時にここから現実が立ち上がることを理解する。手数が多く速いBPMで放たれるドラミングはまさに稲妻の轟きのようであり、自分の価値観で生きようとしても突き刺さる他者の視線の中で生きざるを得ない現実そのものをもう一度"本当なのか?"と自問自答させるのが稲妻の光なのかもしれない、そう感じさせる。擬音語を多用するサビ、それがもたらす混乱、その歪さを叫ぶことを"ロックンロールの正体"と綴る、ツミキにとってのロックンロール観も掴める楽曲だ。時に突き放し、時に自分へ刃を向けるみきまりあの歌唱が自分ごととして迫る。

暴発寸前の16ビート・ナンバーを数多く作ってきたツミキのキャリアの中でもグッと奥行きや位相が転換するような体感を伴う「rem swimming」は彼らのジャンルを無化する力技を実感できる1曲。アバンチュール・ホリックとも言えそうな主人公の無謀な心情と、おしゃれなファンクを踏みにじるようなノイズ・ギターのインダストリアル感。リスクと背中合わせの状況が見事にアレンジに昇華されている。ふたりのデュエットが聴けるのもスリリングだ。

続くのは2ndシングル「イエロウ」。アルバムの流れで聴くと、刹那的な恋が終わりを告げる切なさがよく際立つ。ローが強調されるシンセ・ベースを使いながらも、全体的には柔らかい音像でグッと主人公ひとりの世界にシーンが移行するイメージだが、単にチルアウト・ヒップホップ・テイストの楽曲ではなく、感情に沿うような細かなSEが構築されており、微細な音の挿入にドキッとさせられる部分も。緩やかに聴こえる楽曲でもエクスペリメンタルな仕掛けを施すのがツミキ流だ。ミディアムのピアノ・リフ押しの楽曲「umbrella」の胸に迫るドラマ性もこのふたりが邂逅したからこそ生まれたのではないだろうか。言葉数が特段多いわけではないが、サビで畳み掛けるように歌われる諦観には心拍が早まる。また、雨の日にまぶたに落ちる雫の感覚もリアルに感じられるあたりはツミキの詩作能力だろう。

アルバムの後半を告げる「ゴーストキッス」は、ハード・ロックのニュアンスとスピード・メタルなAメロからハイパー・ポップなサビへの飛翔が、邦ロックと呼ばれるサウンドをスクラップ&ビルドした感覚。ユーモアも含んでいそうな歌詞も爆速で過ぎ去っていくトルネード級の楽曲だ。懐かしいシンセ・リフで作るようなファンクのBPMをグッと上げ、言葉の切り方でラップ的なフロウを作る「syrup」はみきまりあの高いスキルが全編で堪能できる1曲。サビで高速ラテンに転換し、高低差のあるメロディを乗りこなす歌唱は耳にカタルシスをもたらしてくれる。随所に貼った歌メロのエディットも痛快。真実なのか錯覚なのか、酔いが回る感覚を疑似体験させてくれるようでもある。

カオスをかいくぐってきた主人公がポツンとひとりで、ピアノ伴奏だけで狂騒を冷静に見つめるような、戦い疲れた末に見つけた真実のように歌われるのが「mutant」だ。1曲目の「cocoon」がオーバーチュアなら、「mutant」は静かな決意とともにNOMELON NOLEMONとはなんなのかを言い残すような、アルバムの事実上のフィナーレのように聴こえる。ならばラストの「night draw」はどんな立ち位置の曲だろうか。およそツミキの従来のアレンジからは想像できないシンプルな構造を持ったポップ・ロックで、みきまりあの切な苦しいヴォーカルが生きるメロディが書かれている。難解な歌詞の表現もなく、平易な言葉で"きみ"の不在を描く。だが、これは他者の不在、もしくは喪失の歌なのだろうか?――そこから彼の"誰かのための音楽を作ってみたい"という言葉を思い出す。そこで聴いている自分自身の生身の心身がフラットに感じられるのだ。

生身の人間に再現不能なボカロPの世界観を人間が模写するようにスキルを競い、辿り着いた先にあったアップデートされたヒューマニティ。音だけでも言葉だけでもなし得ない体験型のポップ・ミュージックが2022年初頭、完全体で現れる。



▼リリース情報
NOMELON NOLEMON
1stアルバム
『POP』
NOMELON_NOLEMON_POP_JK.jpg
2022.01.26 ON SALE
amazon TOWER RECORDS HMV

1.cocoon
2.INAZMA
3.rem swimming
4.イエロウ
5.umbrella
6.ゴーストキッス
7.syrup
8.mutant
9.night draw
「syrup」配信はこちら

2ndシングル
「イエロウ」
yellow-jacket.jpg
NOW ON SALE
配信はこちら


▼みきまりあ リリース情報
配信シングル
「IQ」
NOW ON SALE
配信はこちら

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