Japanese
ツミキ
Writer 秦 理絵
圧倒的な情報量が押し寄せてくる。超高速BPM、メロディに詰めこまれた圧倒的な言葉数の多さ、複雑に絡み合う楽器パート。それがツミキの音楽の特徴だ。ツミキがボカロPとしての活動をスタートさせたのは2017年。初めて投稿された「トウキョウダイバアフェイクショウ」でいきなり殿堂入り(ニコニコ動画で10万回再生以上のVOCALOID曲に付けられる名称)を果たすと、続けざまに人気曲を次々と生み出していった。そんなツミキが自身初となるフル・アルバム『SAKKAC CRAFT』をリリースする。今作には、これまで様々なVOCALOIDを駆使して発表してきた楽曲を、すべて初音ミク歌唱にリアレンジして収録される。ツミキの3年間を総括すると同時に、様々なシンガーやユニットへの楽曲提供を経て、進化したツミキの現在地を知るベスト盤的な作品になった。
今作を語るうえで、まずポイントになるのが、"全曲を初音ミクの歌唱でリアレンジした"というところだろう。2007年に開発されて以降、初音ミクは多くのボカロPたちを虜にしてきた。のちに米津玄師としてデビューするハチ、ヒトリエとしてバンド・デビューしたwowakaを筆頭に、最近ではヨルシカのn-bunaや、YOASOBIのAyaseといったボカロP出身のコンポーザーがヒットを連発しているが、その原点にあるのが初音ミクの存在だ。今回ツミキが初のアルバムをリリースするにあたっては、人気の歌い手を起用したり、自身による歌唱で収録したりするなど、様々な選択肢もあったと思う。だが、あえてすべてをミクに歌わせるというところに、ツミキの、自身を生み出し育んだ土壌への愛情を感じてならない。それは冒頭に書いた、ツミキ特有の情報量の多い音楽へのこだわりにも通じるものがある。最近では、ネット・カルチャーの音楽性の流行り廃れはJ-POP、邦ロック・シーンと連動するように移り変わっている。ダンス・ロックやチル・アウトしたシティ・ポップ、最先端のトラップを取り入れたヒップホップなど、多彩なジャンルに広がりを見せている。そんななか、ツミキが貫くのは、ネット・カルチャー黎明期を彷彿とさせる音数の多いロック・サウンドだ。それは今新たな先進性をもって、現在のボカロ・シーンに再吸収されつつあるようにも感じる。つまり、『SAKKAC CRAFT』は、ツミキのネット・シーンに対する変わらない愛情と、そこから育まれた自身の音楽への美学が詰めこまれた作品であり、同時にそれが、ネット・カルチャー発の音楽がチャートを席捲するようになった2021年の音楽シーンにおいて、どんなカウンターとして届くのかという挑戦的な作品でもあると思う。
ツミキのキャリアをスタートさせた「トウキョウダイバアフェイクショウ」から幕を開けるアルバムには、人気曲「トオトロジイダウトフル」や、そらる×天月の歌ってみたカバーでも話題になった「リコレクションエンドロウル」など、これまでインターネットで発表されていた全8曲に加えて、新曲「レゾンデイトル・カレイドスコウプ」も収録される。ダンサブルなビートに乗せた艶やかなピアノ・ロックに乗せて紡がれるのは、この不確かな世の中に正解はあるのか? 正しさとは何か? 偽りだらけの自分の存在意義とは? というような、ツミキがこれまでの楽曲でも投げかけていた問いだ。めくるめく転調の果てに訪れるラスサビに圧倒的なカタルシスを感じさせるなか、"君が白紙に帰する迄 未だ手を繋ぎ合って居たいのさ"と歌われる。他の誰かの模倣ではなく、本当の自分であることが何よりも美しい。そう手を差し伸べられるようなツミキの音楽には、たしかに人間の体温が宿っている。
今ネット・カルチャー出身の多くのアーティストが、シンガー・ソングライターやユニットとして活動の幅を拡大していくなか、ツミキが次にどんな一歩を踏み出すのか。それは続報を待ちたいが、いずれにせよ『SAKKAC CRAFT』という作品は、ツミキの原点と本質が詰まった作品として、重要な1枚になるだろう。
▼リリース情報
ツミキ
1stフル・アルバム
『SAKKAC CRAFT』
2021.02.03 ON SALE
UXCL-252/¥1,818(税別)
[SME]
1. トウキョウダイバアフェイクショウ
2. レゾンデイトル・カレイドスコウプ
3. リコレクションエンドロウル
4. ヒウマノイドズヒウマニズム
5. アノニマスファンフアレ
6. トオトロジイダウトフル
7. ニビイロドロウレ
8. アングレイデイズ
9. スイサイ/アンブレラ/ロクガツ/ドライフラワ
※全編初音ミク歌唱にて収録
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