Japanese
Galileo Galilei
2011年12月号掲載
Writer 沖 さやこ
2008年、10代限定のフェスティヴァルである「閃光ライオット」で初代グランプリを獲得。2009年にインディーズ・デビュー、2010年にメジャー・デビューを果たし、現在ではオリコン週間チャートTOP10に入る人気バンド――彼らの略歴をこう書くと、世に言うシンデレラ・ストーリーに見えるだろう。とんとん拍子、順風満帆……確かにそう見えてしまうのも事実。だがそれは、彼らの音楽に対する苦悩や挑戦があってこそ成立する物語なのだ。シングル『明日へ』はそれを十二分に感じさせてくれる大作である。
北海道の最北端、稚内から生まれたGalileo Galileiは、メジャー・デビューを機に上京したものの、今年3月に拠点を札幌に移す。一軒家にメンバー4人+サポートメンバー1人で共同生活をし、シャッター車庫を改造したスタジオで曲作り。大の犬好きであるメンバーにより通称“わんわんスタジオ”と命名されたこの場所は、床から壁、空間まで所狭しと楽器、機材で犇めいている。最初はライヴの練習用として使用していたものだったが、現在はレコーディング・システムも導入。本格派ハンドメイド・スタジオで、作詞作曲は勿論、編曲もセルフ・プロデュースだ。
そんな音楽漬けの空間から作り上げられたタイトル曲は、バンド・サウンドにシンセサイザーを大胆に導入し、それ以外にも様々な楽器やプログラミングで彩られたダンス・ナンバー。突き刺さる寒さが透き通った空気を作り出し、吐く息が白く染まる冬のように、やわらかさと鋭さのコントラストが美しい。そこに乗るフロントマン尾崎雄貴による全編日本語の歌詞。“東の国からの逃避行”“ここにいたって陽は落ちて/焦りを繰り返した”……これは現在の彼らを形容しているのだろうか。“焦り”という言葉も顔を出す。だがそれでも彼は高らかに“終わりのない明日へ”“錆つかないように”と何度も繰り返すのだ。
夢を追うというのは常に挑戦し続けることに等しく、とても覚悟の要ることである。それを継続させることは生半可な気持ちでは出来ない。札幌に拠点を移し、自らが信じる新しい深化を選ぶこともそうだっただろう。だが彼らは苦悩と葛藤の中で、必死にもがいて希望の道へ、明日へと馳せる。その姿はひたすらに勇敢で、力強い。
サウンド面にも様々なチャレンジが詰め込まれているが、彼らの根底に存在しているのは“ポップ”。キャッチーで心地良いメロディは流麗に駆け抜けてゆく。今に限らずであるが、彼らの楽曲には常に現実や日常に魔法を掛けるような煌びやかさがある。それが彼らなりの、暗い情報が多い世の中に対する抵抗なのかもしれない。日常から非日常に連れて行かれるような感覚――それは逃避ではなく“暗かったら明るくすればいいじゃん”という痛快なエネルギーに溢れている。インスト・ナンバーである「ぷにぷにわんちゃん」はスタイリッシュで都会的な本格エレクトロニカ。サンプリングされた女性の声、強調された低音、波打つ機械的なビートにどんどん引き込まれてゆく。曲名とのギャップにも驚愕だが、歌モノで見せる顔とインストゥルメンタルで見せる顔のギャップに感服だ。
着実に人気を獲得してゆく彼らは、2011年に“自分たちらしくいること”を選んだ。『明日へ』は、その決意表明とも言うべき作品だ。新しいストーリーの幕開け――4人は確かに、その目が見据える希望の光の先へと走り出したのだ。
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