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COLUMN

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十六回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十六回】

Written by 松田晋二
2020.12.02 Updated

第十六回「決意」 相手チームのロングシュートが外れたあと、高鳴る鼓動が落ち着かぬままゴールキックから試合が再開する。グラウンド上にはなんとも言えない響めきが漂っている。保護者の観客がそんなに沢山いたわけではないが、明らかにさっきのシュートで会場の空気が変わったように感じる。「いけるぞー」俄然、相手チームの声も出ている。一呼吸ついてボールを前線に蹴り飛ばす。真ん中くらいで、その相手のキャプテンを中心

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十五回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十五回】

Written by 松田晋二
2020.10.02 Updated

第十五回「鼓動」 弁当を楽しんでいる時間が終わり、食べ終わった人からボールを蹴ったり、走り回ったりしている。みんなまだまだ体力はありそうだ。前半後半15分ずつ。合わせて30分を3試合。このリーグ戦で2位までに入れば、次の県南大会に進む事になる。後々聞いて分かった話だが、このリーグ戦は全国少年サッカー大会の地区予選も兼ねていて、ここで上位になると、県南大会、県大会、全国大会と小学生最後の全国に繋がる

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十四回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十四回】

Written by 松田晋二
2020.08.05 Updated

第十四回「休息」 勝利で終わった一試合目の後にお昼を挟む事になり、みんなで軒下にブルーシートを引いて持参した弁当を広げた。次の試合に向けて束の間の休息だ。田舎で育った僕らは、当時の時代もあり、いつもと違ったよそ行きのおかずが並ぶ弁当は特別だった。というのも、夕食は決まって家族で食卓を囲み、母親の手料理を食べる。お爺ちゃんお婆ちゃんがいた自分の家は特にみんなが食べれるよう、煮物があったり、漬け物があ

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十三回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十三回】

Written by 松田晋二
2020.06.10 Updated

第十三回「奮闘」 寒々しい冬の空気がグラウンドを支配している。時より吹き抜ける風が痛々しいほど肌を撫でる。走り回る仲間達と相手選手の身体から白く湯気が立ち込める。一心不乱に汚れたボールをみんなで追いかけ回す。ただ呆然と立ち尽くしている訳ではない。研ぎ澄まされているような、興奮しているような、何故かどこか冷めているような感覚で戦況を見つめている。自分の出番がなければ勝てる。この1点を守り切れば勝てる

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十二回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十二回】

Written by 松田晋二
2020.04.02 Updated

第十二回「運命」 小学生最後の大会当日、そわそわした気持ちと同時にぴんと張り詰めた緊張に包まれながら家を出た。冬の寒さが余計に緊張感を煽る。校庭までの道のりがいつもと違って見えた。何度も渡った橋も、国道を渡る歩道橋も地に足がついてないような感覚で歩いている。会場に着くとまばらにメンバーが集まってきた。何を話す訳でもなく、いつもの荷物置き場でそれぞれ準備をしているけど、皆んなどことなく違う表情をして

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十一回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十一回】

Written by 松田晋二
2020.02.05 Updated

第十一回「不安」 消えない不安を払拭するにはどうしたら良いだろうか。今思えば、大人が投げかけた励ましの言葉は無力だった。自分を信じろとか、やってきた努力は報われるとか、説得力のない定型文の台詞はそいつを消し去るには余りにもひ弱だった。上手くプレーできないかもしれない。痛みは治るだろうか。一度生まれてしまった不安は誰の言葉でも拭われる事はない。ただただ、頭の中に言葉としてたどり着くだけで、実感として

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十回】

Written by 松田晋二
2019.12.10 Updated

第十回「暗影」 福島の冬は寒いというより痛い。そんな記憶が甦る。肌を突き刺すような風が吹き抜け、日差しでは追い付かないくらいの冷たく凍えた空気が支配する季節。なぜか思い出すのは曇り空。樹々も枯れ果て、夏の山々の深々とした緑色や、絵具のような空の青と白の鮮やかさから一変、街はとても寂しく錆び付いた景色に染まっている。そんな冬の始まり。 放課後、毎日のように小学生最後の試合、東白リーグに向けた練習は行

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第九回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第九回】

Written by 松田晋二
2019.10.10 Updated

第九回「距離」 2学期が始まると、クラスはいつもの雰囲気とは違いどこかよそよそしさが漂っているようだった。いやひょっとしたら、みんなは何も変わらなくて自分だけが感じていた距離感なのかもしれない。仲が良かった友達とも水泳練習のおかげで1ヶ月も会わなかったのだから、流石に久しぶり感がある。そして、自分から積極的にその距離を埋めようとするも、怖さの方が勝ってしまっていて縮められずにいる。きっと友達たちは

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第八回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第八回】

Written by 松田晋二
2019.08.06 Updated

第八回 「残照」 小学6年の夏休み。そんな対外試合の他は、なんとなく曖昧な形でサッカー部の活動は行われていた。曖昧な形というのは、水泳部というのが存在しなかった僕の小学校では、一年に一回の郡の水泳大会に参加すべく、他の部活動からメンバーが召集され、水泳の強化練習が行われていたからだ。サッカー部のほとんどのメンバーが、水泳が得意でそこに参加していて、残されたメンバーは3、4人しかいない。真夏の炎天下

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第七回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第七回】

Written by 松田晋二
2019.06.11 Updated

第七回「鍛錬」 初公式戦が終わってしばらく時間が経ち、試合の事も少しずつ忘れ始め、平穏な日常に戻りつつあった。部活自体が試合に勝つ為に日々真剣に練習しているのとは違って、放課後の時間を持て余した子供達の遊び場的な場所だったので、勝敗の結果を引きずり、いつまでもうじうじ言ってくる奴もいなかった。 キーパーは奥が深い。反射神経、ジャンプ力、瞬発力、判断力、勇気。それのどれが欠けても失点に直結する。今振