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COLUMN

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十二回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十二回】

Written by 松田晋二
2023.08.24 Updated

第三十二回「闘志」 あっさり負けてしまった予選リーグの2試合が終わり、最後に1試合だけ出場しなかった選手たちのフレンドリーマッチが行われた。ベンチから見ていた強者たちの勝負に挑む緊迫したムードとはまた違い、試合に飢えていた血気盛んな者たちの、ある意味フレッシュな気迫が両チームに漲っている。とは言っても、相手の力もさっきの主力メンバーよりは1段落ちるが、今まで味わったことのないスピードで目まぐるしく

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十一回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十一回】

Written by 松田晋二
2023.06.15 Updated

第三十一回 「経験」 それまでにチームがどれだけの試合を経験してきたかという違いは、真剣勝負の場所において明らかに結果という現実に作用してくる。年に数回しか試合をしていない経験値では、勝ちを手繰り寄せる感覚すら育っていない。上には上がいる。よく聞く言葉だがまさに世界が広がれば広がるほど、その分だけ強いものは出てくる。見た事もない上手い奴が現れる。その頂点に立つほんの一握りが、プロ選手という称号を勝

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十回】

Written by 松田晋二
2023.04.17 Updated

第三十回「猛者」 あの日、何も分からずただ集められた試合で、自分でも驚くようなファインセーブがなかったらきっとこの選抜チームという新たな世界の扉も開いていなかった。選抜選考会という説明を受けて、これはチャンスを掴む大事な試合だと変な力が入っていたらあんなプレーはきっとできなかった。もし運命というものがあるとするならば、それはほんのわずかな紙一重の瞬間を掴めるかどうかで大きく変わるのだろう。大人にな

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十九回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十九回】

Written by 松田晋二
2023.02.15 Updated

第二十九回「集中」 醸し出す雰囲気は初対面の相手ほど感じやすいかも知れない。ましてや同じスポーツで同じポジションをやっていれば尚更、プレイに対する自信や経験値、立ち振る舞いなどそれらから醸し出される雰囲気は動きを見なくても分かる「上手さ」が滲み出ている。そしてその者同士が対峙した時の動物的な勘はほぼ当たる。もう一人のキーパーが近づいて来た時のそれは、数分後のプレイでやはりそうだったと確信に変わった

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十八回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十八回】

Written by 松田晋二
2022.12.05 Updated

第二十八回「断罪」 結局は愛されたいだけなのか。自分を見て欲しかっただけなのか。反抗するふりして、寂しいふりをして、実は一番大人に期待していたのは自分だったんじゃないか。今ではあの時の先生の気持ちも理解できる。休日を返上して馴染みのないサッカーの選抜練習へと生徒を連れていかなくてはいけないのだから、その約束を破ったら腹も立つし、そのせいで全く知らない同じ立場の教師に頭を下げなくちゃいけないなんて、

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十七回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十七回】

Written by 松田晋二
2022.10.04 Updated

第二十七回「虚無」 帰りの電車の記憶はうっすらとしている。決闘に向かう前の大人数のあのざわざわとした空気と変わって、5、6人の車内は静まり返っていた。薄暗くなった田園風景がやけに寂しかったのを覚えている。電車を降り、朝から壮絶だった出来事を心が処理できぬまま帰路に着いた。玄関を開けて家に入ると、どことなくいつもと違う空気が流れている。茶の間に座ると、母からサッカーの顧問の先生から何度も電話がかかっ

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十六回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十六回】

Written by 松田晋二
2022.08.02 Updated

第二十六回「直面」 怖いものは無いというのは、ある意味ではまだ何も知らないという未熟さと同等かもしれない。その先に待ち構えている未来を、少しでも想像して判断できるのが大人の入り口だとすれば、中学生はまだまだ幼稚で、どうにかなるという身勝手な自信に身を任せ、好奇心の赴くままに危うい方へと流されてゆく。そんな僕らを乗せた、たった二両の車両は無情にも隣町の駅にゆっくりと停まった。ホームに降り立つ僕らは改

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十五回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十五回】

Written by 松田晋二
2022.06.01 Updated

第二十五回「決闘」 暗い。どこまでも暗い。夜は住む場所によってその濃度を変えるようだ。家の灯り。街灯。信号機。人通り。心の陰。自分が住んでいた町の暗さは世界でどれほどの暗さだろうか。その暗さと共に迫ってくる、耳鳴りがつんざくような静けさに耳を塞ぎながら、何度も眠りにつく。明けない夜があるのなら、このまま眠り続ける事ができる。誰にも会う事もなく、誰にも邪魔される事もなく、自分という存在を確かめ続ける

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十四回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十四回】

Written by 松田晋二
2022.04.04 Updated

第二十四回「世界」 そんな世界が変わるような一瞬の感触を味わえた非日常の喜びから一転、月曜日になればまた現実の世界に引き戻される。今でも中学校生活の厳しい縦社会の日々はずっと記憶の底にこびり付いて離れない。 絶対的な先輩の存在。同級生でも男女問わずハッキリした上下関係。なんだろうか、逆に忘れられない夢でも見ていたのかのように、あの当時の風景は色褪せる事なく浮かび上がっては消える。教室では、教壇と最

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十三回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十三回】

Written by 松田晋二
2022.02.01 Updated

第二十三回「反応」 だいぶ後から分かったのだけれど、その試合形式はいわゆる地区選抜の選考会だったようだ。福島県の県南地域のそれぞれのチームが集まり、その中から選び抜かれたメンバーでチームを作り県内の他の地区と戦う大会の為の選考会。 そんな事も知らされぬまま、運動着でグラウンドに立っている姿はまるで選考される気もないように映っていたかもしれない。しかも、中学入学と同時におばあちゃんに買ってもらったオ