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COLUMN

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十七回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十七回】

Written by 松田晋二
2022.10.04 Updated

第二十七回「虚無」 帰りの電車の記憶はうっすらとしている。決闘に向かう前の大人数のあのざわざわとした空気と変わって、5、6人の車内は静まり返っていた。薄暗くなった田園風景がやけに寂しかったのを覚えている。電車を降り、朝から壮絶だった出来事を心が処理できぬまま帰路に着いた。玄関を開けて家に入ると、どことなくいつもと違う空気が流れている。茶の間に座ると、母からサッカーの顧問の先生から何度も電話がかかっ

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十六回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十六回】

Written by 松田晋二
2022.08.02 Updated

第二十六回「直面」 怖いものは無いというのは、ある意味ではまだ何も知らないという未熟さと同等かもしれない。その先に待ち構えている未来を、少しでも想像して判断できるのが大人の入り口だとすれば、中学生はまだまだ幼稚で、どうにかなるという身勝手な自信に身を任せ、好奇心の赴くままに危うい方へと流されてゆく。そんな僕らを乗せた、たった二両の車両は無情にも隣町の駅にゆっくりと停まった。ホームに降り立つ僕らは改

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十五回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十五回】

Written by 松田晋二
2022.06.01 Updated

第二十五回「決闘」 暗い。どこまでも暗い。夜は住む場所によってその濃度を変えるようだ。家の灯り。街灯。信号機。人通り。心の陰。自分が住んでいた町の暗さは世界でどれほどの暗さだろうか。その暗さと共に迫ってくる、耳鳴りがつんざくような静けさに耳を塞ぎながら、何度も眠りにつく。明けない夜があるのなら、このまま眠り続ける事ができる。誰にも会う事もなく、誰にも邪魔される事もなく、自分という存在を確かめ続ける

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十四回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十四回】

Written by 松田晋二
2022.04.04 Updated

第二十四回「世界」 そんな世界が変わるような一瞬の感触を味わえた非日常の喜びから一転、月曜日になればまた現実の世界に引き戻される。今でも中学校生活の厳しい縦社会の日々はずっと記憶の底にこびり付いて離れない。 絶対的な先輩の存在。同級生でも男女問わずハッキリした上下関係。なんだろうか、逆に忘れられない夢でも見ていたのかのように、あの当時の風景は色褪せる事なく浮かび上がっては消える。教室では、教壇と最

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十三回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十三回】

Written by 松田晋二
2022.02.01 Updated

第二十三回「反応」 だいぶ後から分かったのだけれど、その試合形式はいわゆる地区選抜の選考会だったようだ。福島県の県南地域のそれぞれのチームが集まり、その中から選び抜かれたメンバーでチームを作り県内の他の地区と戦う大会の為の選考会。 そんな事も知らされぬまま、運動着でグラウンドに立っている姿はまるで選考される気もないように映っていたかもしれない。しかも、中学入学と同時におばあちゃんに買ってもらったオ

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十二回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十二回】

Written by 松田晋二
2021.12.03 Updated

第二十二回「帰路」 部活漬けの毎日が続く。夜は日が暮れるまで練習をして、帰るのはだいたい夜八時過ぎ。家に着いたらご飯を食べて風呂に入って寝る。そんな平日を繰り返していた。 中学校までの距離も結構あって、二キロ弱の道を歩いて通う。今振り返ると凄く遠かったなと思うけど、あの頃は友達とわいわい話しながらそれも楽しい時間だった。その道の途中に神社に続く長い石段があって、そこに腰掛けてジュースを飲みながらみ

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十一回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十一回】

Written by 松田晋二
2021.10.04 Updated

第二十一回「社会」 中学生は、子供から大人へと変わりゆく季節の扉を初めて開く時期だったんだと今になると思う。小学生の頃の無邪気さも薄れ、あどけない表情を残しながらも骨格や体つきはしっかりとしてくる。体も心も大きく変わり始めるその扉を開けるのはほんの些細なきっかけであるし、他からの影響が大きい。というかそれが全てであると思う。あまりにも情報を得る手段が少なすぎたあの時代では、他からの影響とは友達や先

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十回】

Written by 松田晋二
2021.08.04 Updated

第二十回「先輩」 そして、サッカー部はというと、最上級生の三年生の最後の試合、中体連大会が夏前に行われる事になる。もしそこで負けてしまうと、部活は引退となり、あとは受験勉強へと向かう。その試合へ向かう三年生の気合いは半端ない。その時ばかりは学校生活における先輩とはまた別の姿を見せる。ジャージや制服はヤンキー風に改造できても、ユニフォームという魔法は、全て一つの中学三年生という種類にまとめ上げ、誰ひ

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十九回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十九回】

Written by 松田晋二
2021.06.02 Updated

第十九回「中学」 中学生になると言っても、この町から出る訳でも電車で遠い場所に行く訳でも無い。今までより通う距離が少し遠くになるだけで、小学校で六年間過ごした同じ顔ぶれが、そのまま中学校でも続く。そこへ別のいくつかの小学校からも生徒が集まってきて、学年のクラスも小学校の倍くらいの人数で、少しだけ賑やかな学校生活が新しく始まる。小学校の卒業式は取り分け特別な気持ちもないまま終わった。この感じのまま、

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十八回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十八回】

Written by 松田晋二
2021.04.05 Updated

第十八回「卒業」 年末の納会が終わり、年が明けて3学期に入るとだんだんと卒業に向けての準備が始まっていく。卒業アルバムの撮影をしたり、卒業文集に載せる作文を書いたり、クラスごとのページを作成する係を決めたり、まだだいぶ先に思える春の予感よりも、そういった準備の中で小学校生活の終わりを少しずつ実感しながら過ごす日々が増えていった。今でも覚えている、卒業文章に書いた自分の夢はサラリーマンだった。199