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COLUMN

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第四十二回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第四十二回】

Written by 松田晋二
2025.04.11 Updated

第四十二回「希望」 なんだろう。好きなものを好きと言えず、やりたいと思う事をやれない環境というのは、毎日が湿気った花火のように燻り続け、心が酸欠を起こしているみたいな息苦しさが付き纏う。大人になればその折り合いをどこかで付けながら、生きていく為に社会の中に身を投じなければならない事を当たり前のように思い知らされるのだけれど、まだ世間も社会も知らない小さな世界で生きていたこの頃は、その抑圧を生まれた

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第四十一回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第四十一回】

Written by 松田晋二
2025.02.12 Updated

第四十一回「寒風」 部活の方は二年生が主体となり、先輩達から教わった練習メニューを一年生と一緒にこなしていく。川沿いの中学校の校庭には、冬場とてつもなく冷たい風が吹き抜ける。時にボールが川まで飛んで行った日には、その冷たい川の中まで入ってボールを取りに行かなければならない。一年生の頃のボール拾いで何度地獄を味わった事か。ゴールキーパーはまだジャージの上に、キーパー専用のクッションの入ったパンツを履

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第四十回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第四十回】

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2024.12.27 Updated

第四十回「音楽」 暗く重い空気の学校生活は続く。厳しい先輩との上下関係と、仲間同士の縄張り争い。下級生が入ってきても何一つ変わりそうな気配はない。自分達が三年生になった時に下級生にどのような接し方をするのだろうか。今まで先輩達が受けてきた仕打ちを、自分達も同じようにするだろうか。誰も断ち切る事のできない習慣や伝統という名の固い鎖。がんじがらめの中で逃げる事もはみ出す事もできない。「こんなしょうもな

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十九回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十九回】

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2024.10.17 Updated

第三十九回「個性」 中学生の部活動は、早ければ三年生の夏休み明けには引退となり、そのあとは高校受験に向けて勉強へとシフトしていくこととなる。一回戦で敗退したサッカー部も三年生は引退し、一、二年生が主体となり新たなチームでの活動へと移っていった。結果的に三年生のポジションを奪い、試合にも負けてしまった悔しさと申し訳なさが消えないまま数日間を過ごしていたが、ふと学校内で見かけた先輩キーパーが「おう!」

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十八回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十八回】

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2024.08.19 Updated

第三十八回「罪悪」 途中から試合に入るのは中々難しい。気持ちが追いつかなければ、全てが後手後手のプレーになってしまう。通常、キーパーと一対一になった場合、シュートを打つ側が70%以上有利だと言われているが、その不利な状況であってもゴールを小さく感じさせたり、相手を焦らせたり、入りづらいムードをキーパーは作り出すことができる。まさに最後の門番。手を使える最大限の利点をどう生かしてプレッシャーをかけら

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十七回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十七回】

Written by 松田晋二
2024.06.17 Updated

第三十七回「覚悟」 三年生の引退がかかった最後の公式戦が始まった。同じ郡内の相手とのトーナメント戦。負ければ終わりの一発勝負。三年生達が普段からどんな気持ちでどれくらいこの最後の試合に向けて練習してきたかは分からないが、もういつものようにサッカーができなくなるというのはきっと想像できないくらい寂しいものなのだろう。この試合の数週間前から一気にギアの入った練習に変わったことで、下級生含め皆んなが三年

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十六回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十六回】

Written by 松田晋二
2024.04.16 Updated

第三十六回「自責」 自分の思うようには世界は動かない。それを味わう事が大人への一歩ならば、この中学生活で過ごした大半は、その後の人生のどんな経験よりも、強烈で決して消える事のない苦味を刻まれた時間だったに違いない。無邪気なままぬくぬくとした家庭で育った自分が、人と関わりながら知る厳しい上下関係や、力のあるものに逆らわぬように、上手く溶け込みながら自分を押し殺して生きていく砂を噛むような歯痒さ。その

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十五回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十五回】

Written by 松田晋二
2024.02.21 Updated

第三十五回「自由」 現実は現実。どうあがいても時間は遡れない。あの特別だった時間には戻れない。だけど、夢のように過ごしたあの時間も現実。それもまた同一線上にある広い世界の一部。自分が知らなかった世界の一部。この小さな日常の他に沢山の誰かの日常が同時に時間という歯車に乗って世界は動いている。経験という何事にも代えられない刺激を味わい、世界の広さを感じたことが、自分の今の立ち位置とそこから抜け出せない

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十四回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十四回】

Written by 松田晋二
2023.12.20 Updated

第三十四回「成長」 結局、我々のチームである県南選抜は、6チーム中5位という結果に終わった。県内にも沢山の強豪がいることを目の当たりにした大会だった。大会会場からバスに揺られて約二時間、家から一時間ほど離れた町でそれぞれ解散となる。バスの中では皆んな流石に疲れていたせいか、言葉を発しているものは誰もいない。流れゆく景色を見ながら、生まれて初めての経験をした三日間を振り返っていた。他のチームとの明ら

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十三回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十三回】

Written by 松田晋二
2023.10.17 Updated

第三十三回「勝敗」 真冬の朝。海沿いのグラウンドには凍てつくような空気が立ち込めている。霜柱をザクザクとスパイクで砕きながら、闘いのフィールドへと向かって歩く。ウォーミングアップが始まると、昨日スタメンで出たもう一人のキーパーが、緊張を解すように話し掛けながらアップに付き合ってくれている。楽しんでいこうと言わんばかりに、和やかなムードを作り出すのがとても上手い。明るく声掛けも得意な彼は、昨日の試合