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COLUMN

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十六回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十六回】

Written by 松田晋二
2024.04.16 Updated

第三十六回「自責」 自分の思うようには世界は動かない。それを味わう事が大人への一歩ならば、この中学生活で過ごした大半は、その後の人生のどんな経験よりも、強烈で決して消える事のない苦味を刻まれた時間だったに違いない。無邪気なままぬくぬくとした家庭で育った自分が、人と関わりながら知る厳しい上下関係や、力のあるものに逆らわぬように、上手く溶け込みながら自分を押し殺して生きていく砂を噛むような歯痒さ。その

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十五回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十五回】

Written by 松田晋二
2024.02.21 Updated

第三十五回「自由」 現実は現実。どうあがいても時間は遡れない。あの特別だった時間には戻れない。だけど、夢のように過ごしたあの時間も現実。それもまた同一線上にある広い世界の一部。自分が知らなかった世界の一部。この小さな日常の他に沢山の誰かの日常が同時に時間という歯車に乗って世界は動いている。経験という何事にも代えられない刺激を味わい、世界の広さを感じたことが、自分の今の立ち位置とそこから抜け出せない

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十四回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十四回】

Written by 松田晋二
2023.12.20 Updated

第三十四回「成長」 結局、我々のチームである県南選抜は、6チーム中5位という結果に終わった。県内にも沢山の強豪がいることを目の当たりにした大会だった。大会会場からバスに揺られて約二時間、家から一時間ほど離れた町でそれぞれ解散となる。バスの中では皆んな流石に疲れていたせいか、言葉を発しているものは誰もいない。流れゆく景色を見ながら、生まれて初めての経験をした三日間を振り返っていた。他のチームとの明ら

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十三回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十三回】

Written by 松田晋二
2023.10.17 Updated

第三十三回「勝敗」 真冬の朝。海沿いのグラウンドには凍てつくような空気が立ち込めている。霜柱をザクザクとスパイクで砕きながら、闘いのフィールドへと向かって歩く。ウォーミングアップが始まると、昨日スタメンで出たもう一人のキーパーが、緊張を解すように話し掛けながらアップに付き合ってくれている。楽しんでいこうと言わんばかりに、和やかなムードを作り出すのがとても上手い。明るく声掛けも得意な彼は、昨日の試合

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十二回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十二回】

Written by 松田晋二
2023.08.24 Updated

第三十二回「闘志」 あっさり負けてしまった予選リーグの2試合が終わり、最後に1試合だけ出場しなかった選手たちのフレンドリーマッチが行われた。ベンチから見ていた強者たちの勝負に挑む緊迫したムードとはまた違い、試合に飢えていた血気盛んな者たちの、ある意味フレッシュな気迫が両チームに漲っている。とは言っても、相手の力もさっきの主力メンバーよりは1段落ちるが、今まで味わったことのないスピードで目まぐるしく

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十一回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十一回】

Written by 松田晋二
2023.06.15 Updated

第三十一回 「経験」 それまでにチームがどれだけの試合を経験してきたかという違いは、真剣勝負の場所において明らかに結果という現実に作用してくる。年に数回しか試合をしていない経験値では、勝ちを手繰り寄せる感覚すら育っていない。上には上がいる。よく聞く言葉だがまさに世界が広がれば広がるほど、その分だけ強いものは出てくる。見た事もない上手い奴が現れる。その頂点に立つほんの一握りが、プロ選手という称号を勝

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十回】

Written by 松田晋二
2023.04.17 Updated

第三十回「猛者」 あの日、何も分からずただ集められた試合で、自分でも驚くようなファインセーブがなかったらきっとこの選抜チームという新たな世界の扉も開いていなかった。選抜選考会という説明を受けて、これはチャンスを掴む大事な試合だと変な力が入っていたらあんなプレーはきっとできなかった。もし運命というものがあるとするならば、それはほんのわずかな紙一重の瞬間を掴めるかどうかで大きく変わるのだろう。大人にな

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十九回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十九回】

Written by 松田晋二
2023.02.15 Updated

第二十九回「集中」 醸し出す雰囲気は初対面の相手ほど感じやすいかも知れない。ましてや同じスポーツで同じポジションをやっていれば尚更、プレイに対する自信や経験値、立ち振る舞いなどそれらから醸し出される雰囲気は動きを見なくても分かる「上手さ」が滲み出ている。そしてその者同士が対峙した時の動物的な勘はほぼ当たる。もう一人のキーパーが近づいて来た時のそれは、数分後のプレイでやはりそうだったと確信に変わった

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十八回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十八回】

Written by 松田晋二
2022.12.05 Updated

第二十八回「断罪」 結局は愛されたいだけなのか。自分を見て欲しかっただけなのか。反抗するふりして、寂しいふりをして、実は一番大人に期待していたのは自分だったんじゃないか。今ではあの時の先生の気持ちも理解できる。休日を返上して馴染みのないサッカーの選抜練習へと生徒を連れていかなくてはいけないのだから、その約束を破ったら腹も立つし、そのせいで全く知らない同じ立場の教師に頭を下げなくちゃいけないなんて、

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十七回】

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十七回】

Written by 松田晋二
2022.10.04 Updated

第二十七回「虚無」 帰りの電車の記憶はうっすらとしている。決闘に向かう前の大人数のあのざわざわとした空気と変わって、5、6人の車内は静まり返っていた。薄暗くなった田園風景がやけに寂しかったのを覚えている。電車を降り、朝から壮絶だった出来事を心が処理できぬまま帰路に着いた。玄関を開けて家に入ると、どことなくいつもと違う空気が流れている。茶の間に座ると、母からサッカーの顧問の先生から何度も電話がかかっ