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INTERVIEW

Japanese

the paddles

2024年12月号掲載

the paddles

Member:柄須賀 皇司(Vo/Gt) 松嶋 航大(Ba)

Interviewer:フジジュン

自分等のやりがいみたいなところとか 人生の大事な部分をみんなに埋めてもらってる


-きっかけは本で読んだ人の言葉でも、歌詞のど頭って大事な場所に置くくらい共感できたってことで。それを歌うことで、自分の言葉になったんでしょうね。俺は"いつも僕が押すカートに/投げ入れるおでんの具材や"って歌詞とか、ヘンテコだけどすごいリアルさを感じた。"パンやジャム"ってのは分かるけど、"おでんの具材"!? って(笑)。

柄須賀:なんでおでんにしたんやろ(笑)? 友達が居酒屋でおでんを頼んでて、それが頭に残ってたんだと思うんですけど、たぶんリズムやメロディ的に濁音が入ってる言葉が良くて、"濁音 食べ物 3文字"みたいにググったときに"あぁ、おでんや!"って。たしかにみんな"なんで?"って思うと思うんですけど、そういう理由があって。

-いや、俺は"なんで?"って思う前に、彼女と買い物してるシーンが頭に浮かんだし、きっと寒い日なんだろうなって想像までしました。

柄須賀:リリースが寒い時期やから、ちょうどいいなとは思ったんですけど(笑)。江國香織さんっていう大好きな作家さんのめっちゃ好きな詩集があって、買い物に行って、一緒に買った食材が尽きる前にこの人と別れたらどうしよう? みたいな詩があるんです。この作品の中で一番共感したものをそこに置いてて、ジャケットも買い物のカートにして。すごく大事な箇所なんです。

-「愛の塊」は配信でも先行リリースされて。1つ作品を象徴する曲になりました。

松嶋:「愛の塊」は、今まで配信リリースしてきた「予測変換から消えても」(2022年リリースのデジタル・シングル)とか「ブルーベリーデイズ」といった、大きな愛を歌った曲のちょうど真ん中に来るような曲になった気がしていて。お客さんも共感しやすい部分があると思うし、伝わってるなというのはライヴでも感じます。あと演奏だけで言ったら、今までで一番コーラスが多い曲なんで、頑張って歌ってます。

柄須賀:この曲は、作ってるときから落ちメロの部分は航大のコーラスだけ残して、お客さんに歌ってもらうのを想定して作ってて。最近はライヴで"歌って~!"って言うと一緒に歌ってくれるんで嬉しいんです。これまで意外とシンガロングできる曲がなくて。シンガロングって汗だくでするようなイメージの曲が多いと思うんですけど、うちはそれじゃないかなと思って、横揺れしながら、みんなで楽しく一緒に歌うみたいな感じで作りました。

-あと曲の話だと、「余白を埋める」はライヴのタイトルにもなってますが、ライヴハウスを題材にした曲ですよね?

柄須賀:もちろんです。レコーディングの直前から、ワンマンのタイトルは"余白を埋める"に決めていて。もともとは、コロナのタイミングくらいからずっとやってきたイベントの名前なんですよ。コロナのときって結構みんな暇になって、やったことのないものを始めたり、思ってもないことをTwitter(現X)に書いたりしてたんですけど、余白を埋めるならもっと自分の好きなもので埋めたほうがいいから、俺たちのライヴに来たほうがいいんじゃない? と思ってこのタイトルを付けて、そのうちに僕等の中でもお客さんの中でもすっごい大事な名前になっていって。このタイトルで曲を作って、同じタイトルのワンマンで初披露したら、来た人も素敵な気持ちになってくれるかな? と考えて曲を書き始めて、1日とか2日で一気に書き上げました。

-大事な名前だからこそのプレッシャーとかはなかったですか?

柄須賀:そういうのも全然なくて、歌詞とかマジで秒で書けました。歌詞にthe paddlesの曲名をちりばめたり、"スーツ姿で飛ばすラジコン"って歌詞は『スノウノイズ / 22』(2020年リリースの1stシングル)のジャケットだったり。友達のバンド名もいっぱい入ってるし、ライヴハウスの名前も入ってるし。"青い"ガラガラのライブハウスから来た""って歌詞は、僕たちの地元の寝屋川VINTAGEってライヴハウスを歌ってるんですけど、地元の後輩にBlue Mashってバンドがいて、あいつらが高校生で俺等が大学生の頃から一緒にやってて。ヴォーカルの優斗が外でライヴをやったときに、パンパンのフロアを見て"ガラガラのライヴハウスでやってたんですよ"って言ってたのを思い出して、その言葉をそのまま入れたり。めっちゃギミック多いし、夢中で書いた歌詞なんです。あと、最後の"Your efforts will be flower."って歌うところでは、僕ASIAN KUNG-FU GENERATIONが大好きでめっちゃ影響受けてるんで、「リライト」のリフをオマージュで薄っすら入れていたり。

松嶋:僕もいつもレコーディングする直前に、結構フレーズを入れたりするんですけど、歌詞に過去の曲名とかいろいろ入ってるなと思って、「スノウノイズ」(『スノウノイズ / 22』収録曲)で使ってたフレーズをそのまま入れたりしてみました。

柄須賀:僕もそれを後から聞いて"あ、言われてみれば"って気付きました(笑)。

-その過程も含めて、すごく大事な曲になりそうですね。俺は"気づけば僕が自分自身 奮い立たす歌が/いつの間にか誰かを照らしていたんだよ"のフレーズにすごいグッと来たし、これは真意だなと思いました。

柄須賀:マジでそうやなと思うんですけど、俺どうやって書いたんやろな? ってくらい、スッと出てきた言葉でしたね。"余白を埋める"ってタイトルも、"俺がみんなの余白を埋めてやる。埋められに来いよ"って付けたタイトルやったんですけど、ワンマンでこの曲をやって、"埋めてもらってるのはこっちや"って思ったんです。フロアを埋めてもらったって意味もありますけど、自分等のやりがいみたいなところとか、人生の大事な部分を埋めてもらってるなと。その気持ちがこの歌詞に表れてると思います。このタイミングでこの曲ができたのはすごく良かったし、"今書かなきゃ!"という気持ちで書いたところはありましたね。

-あと、今作を何回か繰り返し聴いて、俺の中で今の暫定1位なのが、今作で唯一のミディアム・バラード曲の「ワンスター」。一番景色が見えたし、好きなフレーズも多いです。

柄須賀:マジっすか? すごい嬉しいです。アルバムやEPで聴いたとき、後から効いてくる曲があるのが嬉しいなと思って。全員4番やったら、かつての巨人みたいに失敗してしまうこともありますから(笑)。だからバラードを書こうと思って書いた曲やったし、分かりやすい題材で書けたし、メロディもあえてファルセットばかりで歌ってたりして。ライヴの中でこの曲がグッと引き込んでくれることで、他の曲が映えたりするかなと考えて書きました。

松嶋:バラードって括りの曲を今まで全然作ってなかったんで、挑戦としても早くライヴでやりたいなと思っていて。

柄須賀:ツアー([the paddles "ふたり分の命がひとつになって生まれる愛の塊ツアー"])ではやります!

-対バンの短いステージだと入る余地がなかったりするかもしれないけど、ワンマンとかのロング・セットではすごく効果的に活きてくれそうで。ワンマンもしっかりお客さんが入ってくれるようになった今、この曲が生まれたのは必然な気がして。話を聞くと、今作収録の新曲たちは必然的に生まれた5曲のような気がしますね。

柄須賀:たしかに。全然難産の曲がなくて、すんなり生まれた曲でしたしね。

-「永遠になればいいのに!」は、"ネヤガワドライビングスクール"や"グローバルWiFi"のタイアップで使用されて、広い層に聴いてもらえるきっかけになったし。

柄須賀:そうなんです。ネヤドラ(ネヤガワドライビングスクール)さんから"教習所のプロモーション・ムービーを作るから、曲を書き下ろしてほしい"と言われて。何を言われてるか分からなかったんですけど(笑)、ネヤドラさんは"卒業したくない教習所"っていうコンセプトでずっとやられていて、すごく分かりやすい言葉だなと思って。

-そしたら、いつまでも車に乗れなくて困りますけどね(笑)。

柄須賀:まぁ、そうなんですけどね(笑)。僕もネヤドラに通ってたんですけど、そこの副所長さんが寝屋川VINTAGEで高校生イベントを組んでくれたり、めちゃくちゃロックに熱い方で。その気持ちにも応えたくて、1週間くらいで曲書いてレコーディングしたよな?

松嶋:そうやな。あれ、めちゃくちゃタイトやったね。

柄須賀:でもあの曲のおかげで、ネヤドラさんがスポンサーになってくれて、FM802の"RADIO∞INFINITY"って番組で深夜に20分も時間を貰って"ネヤドラ BLUEBERRY GUYS"というコーナーを3ヶ月やらせてもらったり、9月には教習所の中で音楽フェス("NEYAGAWA DRIVE ROCK FES. 2024")に出演させてもらったりして。そんな展開は想像もしてなかったんで、自分の書いた曲がどこまでも連れてってくれるなとか、バンドを強くしてくれるなとめっちゃ思わせてくれた1曲になりました。

-教習所でフェスなんて、聞いたことないです。

柄須賀:僕も聞いたことないです(笑)。普通の教習コースの中にデッカいトラック・ステージを組んで。しかもめちゃくちゃ音がデカかったんですよ! Blue Mashも出て、お客さんも600人くらい集まってくれて。それこそ教習所でフェスをやるなんて、最初に描いてた計画には入ってないし(笑)、想像以上のことがたくさんあった1年でしたね。それも「永遠になればいいのに!」のおかげです。

-これは深読みしすぎかもしれないけど、この曲って歌メロが食い気味に入ってきて、焦燥感を感じさせて。それって永遠が永遠じゃないというか、終わることも分かっている儚さみたいなものを表現してるのかな? と思って。

柄須賀:なるほど。今聞いて僕もそう思ったんで、そういうことにしてください(笑)。この曲はスタジオでオケだけ全部作ってから、鼻歌でなんとなく入れてた言葉を繋ぎながら作ったんですけど、前半の早口ゾーンとかは何歌おうかな? って考えて。僕が好きなのは"無加工の卒アルも/思い出になるんだって/なんて考えてる 2024"という箇所で、みんなの思い出になるといいなって気持ちで書きました。みんななんでも加工して写真撮りますけど、地元の友達と卒アル見ながら飲んでたときに"こんなに無加工剥き出しの顔が並んでる写真集ないよな"って言ってて。あのとき自分たちが見てた顔のまま、景色のまま残ってるってすごくいいことだし、そのほうが鮮明に思い出に残るなと思ったんです。

-これも必然な気がするけど、ネヤドラからの依頼がなかったら、卒業をテーマに曲を書こうなんて思わなかったでしょう?

柄須賀:そんなつもりなかったですし、12月のこのEPに入れる感じでもなかったんで。季節が巡って、12月から3月なんてすぐやし、ツアーも2月までやるんで、来年の春にもう一回卒業ソングとして聴いてね! って感じです。

-航大君は今作で特に思い入れの強い曲や印象に残ってる曲って?

松嶋:個人的には「倦怠モラトリアム」とか好きですね。the paddlesが今までやってきた、身体に馴染んでる音楽をまんま出せた曲って感じがしてるので、自分たちに馴染みがいいっていうのと、プレベをピックでダウンでゴリゴリ弾くみたいなのが、プレイ・スタイルとしても見る対象としても一番好きで。それを落とし込めた曲だし、早くライヴでやりたいし、聴いてもらいたい曲です。

柄須賀:久しぶりにスラップもしてもらったもんな? 航大はめっちゃベース弾けるんですけど、お客さんに"ルートがカッコいいよな"って概念はあまりないと思うんで。弾いてる様がカッコいいって思う人にもっと分かりやすいようにスラップしたら? って、サビ前で入れてもらって。

松嶋:そういう話があった上で、レコーディングするってなったときに"ここしかない!"と思って入れました(笑)。

-そんな手応え十分な新作ができて、年明け早々にはリリース・ツアーも始まります。

柄須賀:ツアーはこれまでやってきたことの積み重ねという感じがすごくあるので、いつも通りみんなと楽しい一日を過ごせたらというのと。the paddlesのことを他所で好きになってくれた人が観に来てくれると思うし、初めてライヴハウスに来ましたって人も結構来るツアーだと思うんで、もちろん僕等のことを好きになってほしいというのもありますが、ライヴハウスをもっと身近に感じてほしくて。"音楽を浴びる場所がこんな街中に紛れてるんだ"っていうのをもっと知ってほしいなってことで、地方を含めて10ヶ所選びました。僕等、飛び級でバンバン行くタイプのバンドではないと思うんですけど、一歩一歩の強さには自信を持ってるんで、来年も変わらず、自分たちのペースでやっていきながら、そのスピードにお客さんも周りのバンドもライヴハウスも巻き込んでいけたらなと。それこそ、"愛の塊"を転がしてみんなを引っ付けていきたいと思います!