Japanese
有馬元気
2024年03月号掲載
Interviewer:藤坂 綾
僕にしかできないこと、有馬元気にしかできないことを必ずやる
-「裸」はバンド・サウンド全開で、いつもこの振り切り具合がすごいなと思います。
今回はこれまでで一番かも。大丈夫かなって思いませんでした?
-ここまでやられたら気持ちいいしかないです。歌詞がいきなりなんのことを歌ってるんだろうって、遠い人が好きなのかなとか、いろいろ考えてはみたんですけど。
お、素晴らしいです。主人公はアニメが好きなオタクさんで、とある配信者さんのことが大好きで、配信でずっと課金をしてるんですね。で、そこまで小悪魔的な女の子がいるんかって話なんですけど、課金をチャリーンってすると、ちょっとチラリズムしてくれるんです、悪い女ですよね(笑)。
-悪い女です(笑)。
MVでの男の子の演技がすごく上手くて、これはぜひ観てほしいんですけど、ある日、男の子が街でその女の子とぶつかって、女の子は全然気づかないんですけど、男の子が"待ってください。僕ずっと配信で......"って言ったら気づいてくれて、ちょっと仲良くなって誘われて、そんなことになる? っていう夢展開になるんですよ。でも男の子はちょっと真面目ぶりたいというか、そういう目で見てたわけじゃなくて、ピュアな気持ちで見てるんだって、そういう気持ちもあるんですけど、結局ホテルについてっちゃう(笑)。歌詞の"指の隙間から見える裸には"っていうのは、MVの中で女の子が下着をポロッと外すんです、そこで主人公の男の子がっていう。
-あー、そういうことですか。
そういうことです。ファンが減らないかって結構心配してます。いつもMVの脚本を書いてるじゃないですか。そしたら"元気君って苦悩系か恋愛系しか書けないんじゃね?"って言われたことがあって。いやいや、なめるなよと。俺はなんでもできるぞと思い切って、180度真逆のストーリーを作ったんですけど、僕自身"大丈夫かな?"と思ってます(笑)。でもこういう世界も実際にあるわけだから、それを否定するのはおかしいし、これもひとつの素晴らしい作品だなと。
-そうですね。
この曲で、今まで僕の曲を聴かなかった人たちがくるんじゃないかなって、そういう狙いもあって書きました。もしかしたら古くから応援してくれてるファンは嫌がるかとも思うんです。でもだからなんやねんっていう気持ちもあって、たくさんの人に聴いてもらうためには進化し続けなければいけない。その可能性にケチつけるんだったら今すぐファンなんてやめちまえって。真剣なバカを僕はこの曲でやりたかった。MVでもメリーゴーランドに乗ってるシーンがあるんですけど、明け方までバンド・シーン撮ったあとだったから三半規管もバグってるし、酔いそうで、吐きそうで、モニター観てても気持ち悪いくらいですよ(笑)。そこまで身体張って真剣なバカをやったから、この曲が伝わってくれたら嬉しいですよね。そういう意味で言うと、"簡単に人の作品をバカにしてはいけないんだよ、アンチ君ども"とも言えるかな。人の言葉ってすごく大事で、その言葉に傷つくこともあるんで、そういうのなくさなあかんと思うし、否定したい気持ちは自分の中でとどめないとダメですよ。この曲でさらにアンチもくるとは思うけど、いろんな人に知ってほしいから作った変化球の曲なんだけど、変化球にしようとしすぎて直球になったっていう印象も強いかなって。
-たしかに、本質は何も変わってないし、むしろ直球かも。
そう、この本気の真剣なバカと、上品なエロみたいな世界観を楽しんでもらえたら嬉しいです。だって3曲ずっとしんみりした曲が続いても楽しくないじゃないですか。真剣な曲が2曲あったら1曲は破天荒なものを入れておかないと気持ちが持たないと思って、有馬元気を振り絞ってこの曲を出したんです。中毒性がある曲なんで、最初は悪口書いてたけどまた聴いちゃったみたいなこともあるんちゃうかなって。そこからええ曲かもって言い出して、そのうち毎日聴いてるみたいな、そうなったら僕の勝ちですよ。
-しめしめ、ですね。
ね。あと、(※顔の前に広げた手を当てて)このポーズが流行ったらいいですね。ダサさってかっこいい瞬間でもあると思うんです。ちょっと昔のテイストというか、少しクスッとなるダサさって結局離れなくなったりするから、ダサいとかっこいいはもしかしたら紙一重なのかなって。アニメだって弱い主人公がほとんどじゃないですか。それがかっこいいってなるわけでしょ。実はダサいとかっこいいは近いジャンルなんじゃないかなって僕は思ってて、そういうことも伝えたいです。
-「not end」でもそういうフレーズがありましたね。
"格好悪いから人間なんだと"ですね。自分のかっこ悪いところって隠すし、見栄張るし、僕も見栄張る代表なんで、なんなら自分の親とかにも見せたくないじゃないですか。でも、結局自分の弱さを見せられるのって、一番近しい人だけやと思うんですね。例えば相手が泣いてたからってキモッとはならないじゃないですか。普通に親身に受け止めるじゃないですか。だからその弱さを見せられたときに人って変わるんじゃないかなと思ってて、かっこ悪いから人間で、それが当然っていう前提を知ってもらえたらなって。でもなかなか素直になれないのが人間なんで、それをメッセージにした2番のAメロが僕、大好きなんです。好きすぎてそこだけを何回も聴いてたら、やっぱりメンバーから"頼むからやめてくれ"って言われました(笑)。
-ふふふ。「あと少し」はなんというか、どうしようもない悲しさがあります。
「not end」とは違う重さがありますよね。開始10秒くらいで"え、こう来るんや"って、とてつもない重さみたいなね。テーマは余命宣告された女の子の話です。病気というのは大きな課題だと思っていて、父親も難病で亡くなってるんですけど、望んでなくても突如現れて、勝手にカウントダウンが始まっちゃう。自分の寿命なんてわからないけど、でもここまでと宣告されてしまったふたりの物語を描きたくて書きました。宣告されて、なんとかしたいけどどうしようもないっていう重圧が楽器からくるんですよね。オーケストラの空気感がこの曲にしかない力で。
-音が美しいから余計に悲しさが増してしまって。
男の子もどうしようもないとわかってるのに、必死な想いで"僕の命を半分こしよう"って、そんなひたむきな気持ちに心を打たれて、投げやりだった気持ちを女の子は取り戻す。それってすごいことやと思うんですよ。自分が実際あと3ヶ月で死にますって言われてやさぐれたとしたら、めっちゃ頑張って訴え掛けられたとしても、その心を取り戻せるかなって。でもこの女の子は最後に"あなたが生きる意味でした"って言い残してるんですよね。これがすごい物語だなって。まぁ、僕が考えたんですけど(笑)。歌詞も印象的なところが多くて、ちょっと今までとは違うテイストの歌詞が書けたかなと、張り詰めた感じというか。そして最後のサビにいく前は、アカペラと心臓の音だけというね。
-この心臓の音がぎゅってきますよね。
最初悩んで、心臓の音がだんだん消えていくようにしようかと思ったんですけど、さすがにそれはやめました。悲しくなりすぎるなって。だから最後は彼女が変われた言葉で終わらせたいなと思って。
-こういうテーマで曲を書いた理由というのは。
アニメや映画やドラマを極力観ようと思っていて。それはインプットが大事だからで、自分にはない人の体験談を観てそうしようと考えているんですけど、やっぱり自分の父親の死を同時に思い出すんです。そのときの父と母も見てたし、もう長くないって言われてから毎日病院に通ってるところも見てたんで、当たり前なんですけど、そういうのって経験したことがある人しかわからないところがあるじゃないですか。だからといってこれを歌われてもわからないと思うんですけど、病気になった人にもそういう人間関係があって、それは家族とか恋人とか友人もそうで、そういうものをリアルに描けたらなと思って。命の大切さ、どうしようもない現実が起きながらもそれでもやっぱり変わっていく主人公を描きたかったんです。この曲もいい曲になったし、濃い3曲になりました。
-濃いですね。
たしかに、天一(天下一品)、一蘭、一風堂みたいで、コテコテですね。でもほんとに「not end」は聴いてほしいです。良すぎて僕が一番びっくりしてますから。今年このあとどうしよう、これよりいい曲できるかなって。そしてこれいつも言ってますけど、絶対サブスクのトップ100よりいいですよね。それくらい自信ありますから。
-これからは「not end」を超えていくわけだし、今年がまた楽しみです。
今年は、通常だったらここにいくのかなっていうラインより5つくらい上のところを狙って活動したいと思ってて。そこはファンの人やこれから聴いてもらう人にはまったく関係ないことです。ただ、もっと活動の場を広げて、知ってもらって、いい曲を歌いたい。そのための行動をしていこうと思っているので、みんなが想像しているより5つ上の結果を出したいです。出せなかったら全部終わりっていう気持ちで挑むつもりだし、できると思ってるし、こんなアーティスト絶対いないと思うので、2024年、有馬元気にツバをつけておかないと、見る目がないということになるぞということで、早めにちゃんとチェックしといてください。僕にしかできないこと、有馬元気にしかできないことを必ずやります。
RELEASE INFORMATION
有馬元気
3rdメジャー・シングル
『not end』
2024.03.08 ON SALE
1. not end
2. 裸
3. あと少し
配信はこちら
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