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INTERVIEW

Japanese

有馬元気

2023年03月号掲載

有馬元気

Interviewer:藤坂 綾

大阪府出身、関西を中心に2011年から本格的に音楽活動を続けているシンガー・ソングライターの有馬元気が、ニュー・シングル『フィルター』をリリースする。人との繋がり、人への想い、人への言葉を大切にした全3曲には、彼の今の想いが正直に、そしてまっすぐに描かれている。これまでの活動を振り返りながら、そんな大切な3曲に込めた想い、音楽への想いをたっぷり話してもらった。

-メジャー・デビューということで、まずは今のお気持ちを教えてください。

路上ライヴからスタートして音楽活動はもう10年くらいになるんですけど、やっとスタートラインに来たなという気持ちです。ここからさらに気を引き締めて、古くから応援してくれてる人やこれから出会う人にいい音楽を届けられるように頑張りたいです。

-ブログにこれまでの苦労がやっと報われる、みたいな想いも書かれていましたが、ここまでの道のりを振り返っていかがですか。

長かったです、すごく。僕、もともと役者をしてたんですよ。

-そうなんですか。

大学生の頃、19~20歳の頃からオーディション活動を始めて、21歳でエー・チーム(株式会社エー・チーム/※芸能プロダクション)さんに所属させてもらい活動をしていくなかで、どうしても受けたいオーディションがあって。そのオーディションで人気投票があったから、どうしたら自分のことを広げられるかって考えたとき、外で歌うのが一番早いんじゃないかと。当時は楽器もできないからカラオケで録音して、そのCD-Rを流して歌ってたんですけど、気づいたらオーディションよりも音楽がやりたい! って気持ちが強くなってて、2011年から本格的に音楽を始めたんです。そこから路上ライヴを週5~6日でやって、という流れなので、長かったですね。

-役者よりも音楽をやりたいと思った理由はなんだったんですか。

路上ライヴをやるうちに、歌うことの楽しさや聴いてくれる人が必要としてくれる喜びみたいなものを感じるようになって、そうなるとオリジナル曲を歌いたくなるんですよ。楽器ができなかったから鼻歌で曲を作って、ギターを弾ける人にコードをつけてもらってというところから始めたんですけど、やっぱり自分で曲を作りたくなってギターを始めて。そうやって少しずつ少しずつ、気づいたら音楽の魅力にハマっていってたという。最近母親によく言われるんですけど、子供の頃、ピアノ教室に通ってたのに全然言うこと聞かなくて、寝そべってタンバリン叩いてたらしいんです(笑)。なんであのときちゃんとピアノやってなかったかなって、今後悔してます。

-当時はこんな歌を歌いたいとか、目指すところみたいなものはあったんですか?

僕、バンド・メンバーに"もっと海外の音楽を聴け!"って怒られるくらい日本の音楽が大好きで、とにかくいろんな音楽を聴いてたんですけど、声が女みたいって言われることが多くて"女みたいな声で歌うな!"って言われたこともあって。そういうこともあってかロック・バンドを聴くことがだんだん増えて、どうしてもっとしゃがれた声が出ないんだろう、もっとハスキーな声に生まれたかったとか、コンプレックスに悩まされた時期もあって、たどり着いたのがお酒飲んだら声変わるかもってところでした。

-わかります(笑)。

スガシカオさんが"お酒とタバコ続けてたらこんな声になりました"てテレビで言ってたので、タバコは鼻が弱くて無理だから、お酒やったらと思ってワインとか飲んでたんですけど、ただ体調が悪くなっただけっていう(笑)。

-あはははは(笑)、ウイスキーでうがいをするとかもよく聞きますよね。

言いますよね。あれはマネしたらあかんと思います。そんなコンプレックスに悩まされた時期もあったけど、当時からずっと大事にしてることがあって、人間も街並みも変わっていくし変わっていかなあかんものやと思うんですけど、最初の核の部分、そこにあったものを守り続けるっていうのは大事やなと。これやから音楽をやってるって気持ちは絶対なくしたらあかんと思うし、聴いてくれるひとりひとりに届ける気持ちや、いつでも対等やという気持ち、1対1でぶつかろうぜっていう気持ちは今でも変わってないですね。

-なるほど。

あと、古くから応援してくれてる人ってすごいなって思うんです。そういうファンの人たちにどうやったら感謝の気持ちを伝えられるかって考えたとき、もっともっと大きな景色を見せたいなと。大きなステージに立って"今日までありがとう!"って言ったとき、またスタートに立てるんやないかという気持ちがあって、そこを目指してずっと歌ってるのもあります。ほんとの"ありがとう"を言いたいってお客さんにはずっと言ってきてて、もちろんどのライヴでもその気持ちはあるけど、明確な何かをひとつ成し遂げて"今日までありがとう、これからもよろしく"って言ったとき、やっと初めの一歩にいけるんじゃないかって。だからそれはずっと忘れないように音楽やってますね。

-こうやってリリースするということも一歩であり、ファンの方への感謝の想いにもなってると思います。

まだまだ小さな一歩かもしれないけど、それは僕も思ってます。だからほんとにここからだなという気持ちですね。コロナ禍で、みんながちょっと元気がなくなってるなかで、こんなやつでも頑張ってるんだから私もちょっと頑張ってみようって思ってもらえるような活動ができれば嬉しいです。僕はすごいと思うし、これは決して否定ではないんですけど、例えばアイドルさんが言うような"夢は絶対叶うよ!"って言葉、僕には言えないんですよ。叶わないこともたくさんあることを知ってるから。つらいこともいっぱいあるなかでも、大事なものが必ずあるから諦めずに頑張ろうよってことが、僕がまっすぐ進んでいたらきっとみんなに伝わるんじゃないかなって。僕みたいな凡人がひとつひとつ何かを達成していったとき、それはみんなの勇気に変わるんじゃないかなって思ってます。

-有馬元気のそのままで勝負していくというか。

泥臭くてもいいから、僕だから伝えることができるのかなと。天才がやっても伝わらないことも有馬元気だったら"あいつまじか、じゃあ頑張ろう"って、自分をバカにしてるわけではないんですけど、よりみんなと近い目線で感じてもらえるんじゃないかなって。

-そういう人との繋がりや関係が3曲ともに色濃く描かれてると感じたのですが、「フィルター」は、生きていくうえでの人間関係の難しさから書かれたと?

人間関係ってほんと難しいと思ってて、ひと言で言うともうめんどくさいじゃないですか。

-はい。

むちゃくちゃめんどくさいし、気の合わない人も絶対いるし、嫌いな人のほうが絶対多い。でもひとりじゃ寂しいし、生きていけないこともわかってるんですよね。"フィルター"ってちょっとかっこつけた感じに聞こえるかもしれないですけど、違って見えてるなって思えることがたくさんあるんです。

-というのは?

家族や友達、誰でもそうなんですけど、もしかしたらこう思ってるのかな? って気を使って言葉を投げても、実はそうではなかったというか。もっとわかりやすく言うと、Aさんにはこう見えてたけどBさんにはこう見えてたっていうように、いろんな見え方があるじゃないですか。だから思ってもないことを口にして、あれはそういうことじゃなかったのにってこじれちゃうこともあるんじゃないかなって。仲がいい人であればあるほど僕も素直になれないときもあるけど、素直な気持ちでぶつかってたらこんなことにはならなかったっていうことがたくさんあるんですよ。難病で亡くなった父には、音楽活動を反対されてたんです。ライヴに来てもダメ出ししかされなくて、"そんなんやったら早く辞めてまえ!"って言われたこともあり、めっちゃ嫌いで(笑)。と言ってもその時期だけですけどね。その父親が最後に"絶対この夢諦めるなよ。音楽やり続けろよ"って、そのときすごく後悔したんです。人間って後悔の連続で、特に人との関係ってあとから気づくことが多いから、そういう経験を踏まえて、失くすくらいならちゃんと伝えなあかんし、後悔してからじゃ遅いから、大切なものがある人たちは失くさないように、そういうことに気づけるような歌にしたくて。

-ご自身にも歌ってるような。

そうです。自分自身もまたこの曲で気づけるように、側にいる人を当たり前に思わないようにって。

-ラヴ・ソングでもあり、誰にでも共通する想いですね。

面白いのが、ラヴ・ソングって女性のほうが拗ねちゃったり、こじらせちゃったりっていうのが多いと思うんですけど、この曲は男性が素直になれない結構珍しいパターンなんです。あと僕、ラヴ・ソングでも応援ソングでもどの曲もそうなんですけど、全部のことを言い切りたくないんですよ。99パーセントまではヒントも出すし、背中も押すけど、最後のひとつは自分で見つけてね、みたいな。だから完璧なハッピー・エンドで終わりましたって展開にはしたくないんです。聴いてくれた人の今の状況に合わせて受け取れるように、そこはいつも心掛けてます。この曲で言うと、最後"明日も君が好きだ"で終わってるんですけど、そこからを繋いでいくのはみんなやぞって。