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INTERVIEW

Japanese

有馬元気

2024年03月号掲載

有馬元気

Interviewer:藤坂 綾

シンガー・ソングライター 有馬元気がメジャー3枚目となるシングル『not end』をリリースする。1stシングル『フィルター』(2023年3月リリース)でのメジャー・デビューから約1年、痛みに寄り添う歌を歌いたいと、目を逸らしたくなるような現実を見つめ、絶望と向き合い、自身にしか歌うことのできない希望を歌い続けてきた彼が、今新たに紡ぎ出した世界とは――真骨頂であり、挑戦であり、自信たっぷりの3曲について、これからの近い未来への想いも込めて、たっぷり話してもらった。

-3月29日でメジャー・デビューから1年が経ちますが、どんな1年でしたか。

東京に来てからの1年でもあるので、手探りな状態ではあったんですけど、根を詰めて楽曲制作をやらせてもらえることがすごくありがたかったです。そういう意味ではすごく濃い1年だったなと。ライヴが減ったりはしたんですけど、自分が東京に来た理由は、有馬元気というアーティストをたくさんの人に知ってもらうためというのが一番だったので、たくさんの主題歌を歌わせてもらったり、テレビに出演させてもらったり、それと同時に今までなかった声をSNSで見ることができたり、アンチも増えてきたんですけど逆に嬉しかったり。それってちゃんと知ってもらえてるわけじゃないですか。なので、そういう充実した1年を経て、今年はさらに勝負をかけたいなと思っているところです。

-根本にある情熱や想いは変わってないと思うんですけど、変わったところがあるとしたらどんなところですか?

東京に来て、何か起きるんじゃないかって期待してたところもあるんですけど、自分が動かなければ何も始まらないという当たり前のことに気づきました。僕、アニメが大好きだからアニメの主題歌も歌いたいし、映画やドラマで自分の曲を使ってもらいたいなっていう気持ちがすごく強いんです。日本には素晴らしいミュージシャンがたくさんいて、その中でどうやったら自分の曲をアニメや映画で使ってもらえるかっていうことを考えたとき、これはもっと自分で行動していかないといけないなと思って。今がまさに自分が動き出さなあかんときやなと思って、行動の仕方を変えようと思ってるところです。

-勝負をかけるための行動ですか。

そうです。そういう意味では去年は種蒔きできた1年だったかなと思います。いい経験をさせてもらったという気持ちと、スタートラインに立たせてもらったという印象があるんですけど、今の現状に満足できない気持ちもあって。だからこそいろんなことに挑戦してるし、これからもっとしていくので、楽しみにしててほしいです。

-そんな1年を経ての3rdメジャー・シングル、どんな作品になりましたか。

3月8日が自分の誕生日で、このタイミングでリリースしたい気持ちは昨年末からあったんですけど、もちろんそれはいい曲があってこそで。今年は主題歌を取りたい気持ちが強いから春までに30曲を目標に書き続けてて、"これは来たな"っていう圧倒的な感触があったのが「not end」なんです。実はタイアップの話がいくつかあったんですけど、"いやいやいや、この曲は渡せないよ、そういうレベルのものじゃないから"って断って。この曲にはちゃんとした冠をつけてあげたいって、それくらい自信のある曲なんです。自分としては、前回のアルバム(2023年9月リリースの1stメジャー・アルバム『宿命』)に入ってる「挫折」からまたひと皮剥けた印象の楽曲で、根底にあるのは近しいんですけど、僕の中ではまた全然違ってて。自分がこれまで作ってきた楽曲の中でもベスト3に入るかなというところまで大事な曲です。

-具体的にどういうところが今までの曲と違います?

特別に何かって言われたら難しいんですけど、メロディも歌詞も今までの有馬元気とはちょっと違うんじゃないかなと。大事なことは変えたくないけど、人間として常に変わり続けたいという気持ちもどこかにあるので、制作に入ったとき、曲の作り方として今までと違うものを出したいという気持ちもあったんで、元来の有馬元気らしい曲をちょっと避けるように取り組んだりして。だからできたときはちょっとだけ違和感もあったんですけど、めちゃくちゃいい曲で。新しいし、有馬元気らしさもちゃんと含んでて、これはいけるっていう感触があったんですよ。

-いつ頃作られたんです?

1月です。1月に書いて、(鈴木)Daichi(秀行)さんに無理言ってお願いして、アレンジしてもらって、レコーディングしました。この曲は「挫折」の主人公のその後と言っても過言ではなくて。実際繋がってるわけではなく、気持ち的にという話なんですけど。

-たしかに、繋がってる印象もあります。

ニュアンス的にはそう取れたりもしますよね。もう一度頑張ろうと立ち上がったけど、やっぱり自分はそういう運命じゃなかったと自分のことを呪いたいくらい絶望して、深海まで落ちた主人公なんですけど、そこからひと筋の光がずっと見えてるんです。本人にとってはその光ももう煙たくて、こんなダメな人間に光を向けないでくれと思ってて、でもよくよく考えたら深海に光なんて届くはずがないじゃないですか。

-はい。

その主人公を照らそうとしてくれてたのは光ではなくて一番近くにいる人、彼女の笑顔だったっていうことなんです。1番のストーリーだと「挫折」のようにひとりの男の人の物語かと思うけど、2番で女性が現れて女性目線になるという、そこがすごく印象的だなと思っていて。自分の価値を見失ってる人や、ここまでだと思ってる人に対して、そんなことはないし、実は一番近くに必ず信じてくれる人がいるんだよと。こういうテーマの曲は今までにもあったし、すごく僕らしい曲だと思うんですけど、その中でももっと深い絶望に寄り添いながら希望を見いだすような曲で、最後の"諦めないよ"っていうのがまさにそれなんです。

-そうですね。最後の最後にやっと救われるというか、光が差すという。

2番で"大丈夫だよ"、"まだ頑張れるから"と言われても、本人はもぬけの殻、魂が宿ってない状態なんですよね。だからほんとに最後の最後に気づくっていう。でも、いつも言ってるように僕の楽曲の最後は聴いてる人に見つけてほしくて、最後は自分で選ぶんだよという想いを込めてるから、そこからどうするかはあえて描いてないんです。その後この主人公がほんとに立ち上がってるかはわからないし。

-だから自分の物語に繋げやすいし、重ねてしまうんですよね。

そういう気持ちで書いてます。そして何より曲が強い。このメロディにこの歌詞、もう名曲じゃないですか。もう全然今年の(日本)レコード大賞でもええんやで? と思いながら僕はいつも聴いてます。

-イントロのピアノからグッと惹き込まれますから。

そう、ピアノが泣いてます。

-歌詞も同じで、最初の1行でグッと世界に入り込んでしまいます。

今まで以上に、もうダメなんだという心情をよりリアルに描きたいと思って。今までは挫折しかけてそうでも、もう少し救いがあったという感じだったじゃないですか。でもより悩んでる人に届いてほしくて。

-なるほど。

僕の曲は、"人生悩みなんてないぜ!"って、もちろんそんな人いないですけど、そうやっておちゃらけてる人よりは悩んでる人に聴いてほしい。そういう人に届いてほしい。仮に地球上の人間の8割が悩みなんてないとしても、数が少ないそっちのほうに届いてほしいと僕は思ってるから、痛みに寄り添える歌を歌いたい。

-痛みに寄り添うというところは何があっても変わらず、ですか。

変わらずです。もちろん明るい曲も書くんですけど、僕はもうそっちじゃなくていいかなって。ライヴで盛り上がる曲も書くけど、どっちで勝負したいんやって言われたら、痛みに寄り添う曲が書きたいです。自分自身が弱い人間なんで、日々悩むことやつらいと思うことがたくさんあるんで、それが少しでも緩和されるなら背中を押せる曲を歌いたいし、僕自身が僕の曲の一番のファンなんですよ。移動中の車の中でもずっと聴いてて、バンド・メンバーに"飽きてきたからもうやめてくれへん?"って言われるくらい「not end」連続リピートしてましたから(笑)。それくらい自分が自分のファンですね。

-それすっごく大切なことだし、自分の曲や作品にはいつだって感動してたいですよね。

僕、スタジオのモニター・ルームでもめっちゃ泣いてましたからね。なのでこの曲はほんとにヤバい、来たなという曲です。