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INTERVIEW

Overseas

MGMT

2024年03月号掲載

MGMT

Member:Andrew VanWyngarden(Vo/Gt) Ben Goldwasser(Key)

Interviewer:菅谷 透 Translator:安江 幸子

NYブルックリンを拠点とするポップ・デュオ MGMTが、約6年ぶり5枚目となる新作を完成させた。原点回帰を果たした前作『Little Dark Age』(2018年リリースの4thアルバム)は表題曲がコロナ禍においてTikTokで人気を集め、新たな層からの支持も得つつある彼らだが、新作ではポップとエクスペリメンタルを両立させた、新たなフェーズのサウンドを展開。"Loss Of Life"というタイトルも一見すると厭世的な要素を感じさせるが、いざ蓋を開けてみると頭文字の"LOL(Laughing Out Loud=大きな笑い声)"のように、MGMTらしいユーモアと喜びが伝わってくる。そんな新作について、ふたりに話を訊いた。


いろんな音楽的アイデンティティで遊ぶことに大きな喜びを感じるようになったんだ


-約6年ぶりとなるニュー・アルバム『Loss Of Life』が間もなくリリースとなります。リリースを控えた今の心境を教えていただけますか?

Andrew:今でも......(2023年の)4月にアルバムを作り終えたというのにどうしてかわからないけど、今でもすごく夢中なんだ。聴いていてエキサイティングだし新鮮に感じる。全然飽きないよ。シングルを出してみんなの反応を見るのもワクワクするしね。遅かれ早かれアルバム全体がリリースされるから、ふたりともすごく楽しみにしているんだ。

Ben:僕も似たようなことを言おうと思っていたんだ。今まで作ってきたアルバムの中で、作り終わったあとも一番楽しめる作品だね。通常はちょっと"産後うつ"みたいな感じになるんだけど(苦笑)。全身全霊を込めて作る過程が終わってしまって、なんだか寂しくなるような、メランコリックな感じ。だけど今回はずっとワクワクしていてハッピーで、早くみんなに聴いてもらいたくてウズウズしているんだ。今も聴いていて楽しいしね。

-ニュー・アルバムについて具体的な話をする前に、まず前作の4thアルバム『Little Dark Age』についても簡潔にうかがえればと思います。リリースから現時点(※取材は2023年12月)で6年近くが経ちますが、タイトル曲「Little Dark Age」はリリースから2年以上経過したコロナ禍において、TikTokにてヴァイラル・ヒットを記録しました。おふたりはどのように感じましたか? また、これまでのファンベースとは異なる層や若い層から注目されたことについてはどう感じましたか?

Andrew:あれはアルバムを引っ提げたツアーも終わったあとだったし、予想外の展開だったね。「Little Dark Age」がロケットみたいに人気が急上昇して、今じゃ僕たちの曲の中で一番再生回数が多いんだ。SNSにあまり深入りしていなくて、TikTokもやらない身としては、魅力的でもあり困惑する出来事でもあった。ヘンな感じがしたけど(笑)、すごく感謝している。人々の心にあれほど大きなスケールでコネクトできるものを書けたっていうのは、ソングライターとしては満足できる究極のゴールのひとつだからね。あのアルバムのプロモーション中は、勢いを持たせるようなプッシュや露出を得ることができていない感じがずっとあったんだ。そこにTikTokのヒットがあって、書いて良かったなと思えたよ。

Ben:僕はアルバム・レビューをあまり読まないんだ。頭がクラクラしてしまうことがあるからね。でも"基本に戻った"と書いてあるのを見て興味深かったよ。僕自身にとっては過渡期のアルバムだったから。それまでとは違ったアプローチで曲を作ったし、初めて別々の海岸(※アメリカの東海岸と西海岸)にいながら曲を書いて、たくさんの作業をリモートで行った。だからまだ手探りみたいなところがちょっとあったんだ。今回は曲作りのアプローチとしては似たような感じだけど、前回よりずっと自信を持ってできていた気がする。その結果、肩の力を抜いて楽しみながら作ることができたんだ。

-TikTokのヒットはニュー・アルバムのモチベーションにも繋がったのでしょうか。

Ben:不思議な感じなんだよね。ヒットと言ってもバーチャル空間の中での話だから、あのトラックの人気をフィジカルな形では体験していないんだ。コロナ禍以来1回しかライヴをできていないしね("Just Like Heaven Fest")。しかもそのときは『Oracular Spectacular』(2007年リリースのデビュー・アルバム)の曲がメインで『Little Dark Age』からはやらなかったから、ここ数年の間にすべてが起こって、今こうして新作が出るというのが信じられないんだ。

-コロナ禍のタイミングでは、2020年5月に予定された来日が中止になるなど、MGMTとしても大きな影響を受けたと思います。おふたりはロックダウンの期間をどのように過ごされましたか?

Andrew:ふたりとも結構忙しくしていたと思う。僕は創作意欲が湧いてくるのを間違いなく感じていたね。生活自体は退屈だったし、多くの人がいろんなプロジェクトを試しているのも知っていた。サワードウ・ブレッドを作ったりとか(笑)。でも僕はその時間を使ってプロダクションのスキルを独学したんだ。まとまった時間ができたから、リミックスに取り組んだりしていた。おかげで、それまでより強力な状態でMGMTの新作づくりに入ることができたんだ。

-プロダクションに取り組めたということは、その時間も無駄にはしていなかったんですね。

Andrew:(2020年5月に公演を予定していた)日本にはものすごく行きたかったし、いろんなところも訪ねてみたかったけどね......。それまでの10年かそこらは、ツアーが終わる=アルバム・サイクルの終わりという感じだったから、終わると1ヶ月くらいリカバリーに費やして、それから"新曲作りはどうする?"みたいに話し合うんだけど、今回は"カット・オフだ。君はツアーもやらないし何をするでもない"みたいな感じになって、ふたりともホーム・ライフ――ドメスティック・ライフに突入したんだ。そうして、ツアー生活がすごく消耗させられるもので、僕たちから成長やたくさんの経験を奪っていることに気づいた。今はスタジオの中でドメスティックに過ごすことがハッピーなんだ。

-ニュー・アルバムはいつごろから制作し始めたのでしょうか?

Andrew:結構古いアイディアから来ている曲もいくつかあるんだ。例えば「Nothing To Declare」はものすごく古いアイディアから来ていて、僕がツアー中に携帯用の小さなギターを使ってジョークでプレイしていたものなんだ。たぶん2010~2011年ごろに(笑)。

-それは古い曲ですね(笑)。

Andrew:全部ができていたわけじゃないけど、タイトルとメロディとコーラスくらいはあったかな。今回のアルバムで仕上げたんだ。あと「Bubblegum Dog」は『Little Dark Age』のころにはすでに作り始めていたね。というわけで、アルバムの足場がちょっと固まった時点で、そういう昔のものが今回は使えそうな気がしたんだ。アルバム作りが軌道に乗ってからは、1年ちょっとくらいかけて、レコーディングしたり手を入れたりして仕上げた。2022年初めくらいからかな。

-アルバムのタイトル"Loss Of Life"は、前作『Little Dark Age』に続いてダークな気分や厭世的な要素を感じさせるものになっています。一方で頭文字を見ると"LOL(Laughing Out Loud=大きな笑い声)"であり、ユーモアも隠されているのではないかと感じたのですが、タイトルの由来について教えていただけますか?

Andrew:あとになって気づいたんだけど、たしか坂本龍一のアルバムで、同じように頭文字が"LOL"になるのがあったんだよね。『L.O.L. (Lack Of Love)』だ。『Loss Of Life』もそんな感じでね。僕たちは人の予想を裏切るのが好きなんだ。"Little Dark Age"の次に"Loss Of Life"とくれば、みんなもっとダークでシニカルで厭世的なものを予想するだろうけど、僕たちは完成したときに、全体的に希望のあるトーンを感じたんだ。内容はヘヴィなものもあるけどね。それもあって"LOL"と略せるタイトルにしたんだけど、サカモトのタイトルの影響もあったと思う(笑)。"すごくクールじゃないか"と思ったから。

-アルバム全体では、何か念頭に置いたテーマやメッセージはありましたか? 今おっしゃっていたような、厭世的でありつつも希望を持たせるものにしようとか考えて作ったのでしょうか。

Ben:アルバムを作り始めたころ、あるいは本腰を入れ始めるまでは、ある意味悲観的なアウトラインがあったんだ。このアルバムを作ることが、長期間にわたるセラピー・セッションみたいなものだったんだろうね。何が大切か、そもそも僕たちが音楽をやろうというインスピレーションになったのはなんだったのか、どうしてふたりで音楽を作るのが好きなのか、そういうことを再発見して、プロセスの中でいろいろなものを肯定していったんだと思う。それで作り終えたころには、たくさんの喜びを込めることができた。労力を注ぎはしたけど、苦しみながらではなくてね。

-全体として、これまでの作品で見られたポップとエクスペリメンタル/コンテンポラリーの要素がそれぞれバランス良く融合したアルバムになっていると感じました。楽曲制作ではどのようなことを意識しましたか?

Andrew:音的には特に求めているスタイルというのはなかったけど、箇所によってはいろいろ削ぎ落として音をまばらにして、ダイナミック・レンジを広くしたいというのはどこかの時点でふたりともあったね。いろんな音が一度に鳴っている部分とのバランスを取りたいと思って。構造的には、曲の4分の3くらい行ったところでブレイクダウンや休止があって、大きなクライマックスに向かうという特徴が多くに共通しているような気がする。そういう構造が好きだし、今まであまりやってこなかったと思うんだ。

-1曲の中でもダイナミクスがある曲が多いですよね。それについては後ほどもっとお聞きしたいと思います。このアルバムではDaniel Lopatin(ONEOHTRIX POINT NEVER)、Brian Burton(DANGER MOUSE)などのプロデューサーとも共同作業していますが、彼らを起用した経緯や印象について教えていただけますか?

Ben:今回のコラボ相手の多くは友達とか、あまり距離がない相手なんだ。わざわざ"雇う"というよりカジュアルな形で参加してもらった。一緒に過ごしながら作った感じだね。前作でも少しそういうのがあったけど、今回はもっと気楽にできた気がする。コラボ相手に対して今までよりオープンになれたしね。

-アルバムの第1弾シングルでもある「Mother Nature」は、"OASISっぽいサウンドもある"という説明も納得できるバンド・サウンドの楽曲です。犬と亀がコンビを組み、悪のペット・コレクターに立ち向かうMVもユニークですね。

Andrew:下降するコード・リフをピアノで弾き始めたところから始まったんだ。それにヴォーカル・メロディをつけた状態のままでしばらく置いてあった。初期にBrian Burtonとコラボした曲のひとつだね。彼はブリッジ・セクションを書いてくれたんだけど、仮の形のままになっていた。その後どこかの時点でセッションをしていたら、OASISの大ファンであるエンジニアのMiles(B.A. Robinson)と、ブリットポップっぽくしようという話になってさ。そうやって遊び心が出てきたおかげで、あらゆる緊張感が緩まった気がする。いろんな音楽的アイデンティティで遊ぶことに大きな喜びを感じるようになったんだ。歌詞を書いていたときは、僕たちがお互いのパーソナリティを引き立て合いながら音楽を作っている姿を投影させていた気がする。片方がもう片方を自分の世界に引き込もうとしたりとか。いろんな形があるけど、それが歌詞や、最終的にはMVにも繋がっていったと思う。

-あの犬と亀はあなたたちおふたりなんですね。

Andrew:うん、ちょっと似ているかも(笑)。

Ben:どっちがどっちかはわからないけど(笑)。

Andrew:どっちがどっちかを決めるのは難しいね。自分では普段、僕は亀っぽいような気がするけど、MVの中のどちらかを選べって言われたら犬のほうが近い気がする(笑)。