Overseas
MGMT
2024年03月号掲載
Member:Andrew VanWyngarden(Vo/Gt) Ben Goldwasser(Key)
Interviewer:菅谷 透 Translator:安江 幸子
-「Dancing In Babylon」ではフランス出身のソングライター CHRISTINE AND THE QUEENSが参加しています。MGMTにとって初のフィーチャリングですが、彼女を起用した経緯や楽曲について教えていただけますか?
Ben:この曲はいろんなバージョンを経ているんだ。最初はテレビのパーソナリティみたいな感じを想定していたんだっけ?
Andrew:そう、陽気な感じの――まったく違う曲だったんだよね。アイルランド音楽みたいにテンポが速くて、タイトルも"Catherine And Bobby"だった。カップルにベイビーがいて......みたいな感じで、今とはまったく違う次元の曲だったんだ。だけどどうにも僕たちにはしっくり来なくて、いろいろ切り落として組み立て直して、と手を入れ続けて、最終的には速度を半分に落とした感じのバラードっぽくなった。その境地に入ったところで、デュエットにしたらいいんじゃないかと思いついて、すぐにCHRISTINE AND THE QUEENSがふたりの頭に浮かんだんだ。彼女とはコラボの機会を何年も逃していたからね。今回はパーフェクトな組み合わせになると思ったんだ。
-ついに実現したのですね。彼女とは以前からの知り合いなんですか。
Andrew:まだ実際に会ったことはないんだ。交流はあったし、お互いいつかは一緒にやりたいと考えていたけどね。
-「Bubblegum Dog」は"MTV Unplugged"に出たときのNIRVANAなど、90年代のカルチャーにオマージュを捧げたMVが話題になっていますが、この曲についてはいかがでしょう? 先ほどの話ではずいぶん前のアイディアから始まった曲とのことですが。
Ben:書き始めたのは『Little Dark Age』を作っていたころなんだ。だけどあのアルバムにはどうしてもしっくり来なかった。長い間いろいろ手を加えてきたんだけどね。タイトルも『Little Dark Age』のころに作ったリストの中に入っていた。ファンもそのことを知っていたから「Bubblegum Dog」という曲が存在するんだろうなとは思われていたけど、(『Little Dark Age』に収録されなかったため)幻の曲みたいになっていたんだ。"そもそも存在するのか?"みたいな感じでね。この曲もいろんなバージョンを経ていて、本当にたくさん手を加えてきたのに、それでも方向性が見えなかった。アルバムの最後のセッションのときにはあまり大切に思えなくなってきて、適当に切り刻んでいたんだよね。そうしたら大きな流れが生まれて、エキサイティングな曲になったんだ。あの曲もちょっと自伝的な感じかな。ある意味"「Bubblegum Dog」という曲を手にするまで"みたいな内容でさ(笑)。
Andrew:あのMV作りは今までの中でも最高の体験ができたよ(笑)。少なくとも7~8ヶ所は90年代の特定のMVへのオマージュが入っているのかな? 僕たちは90年代にMVを観て育っているから、"あっ、あれはSTONE TEMPLE PILOTSの「Interstate Love Song」だ"とか、"あれはTHE SMASHING PUMPKINSの「Today」だな"とか、(SOUNDGARDENの)「Black Hole Sun」を見つけたりすることができる。すごく楽しかったよ。
Ben:僕たちはいつもいろんなスタイルや時代へのオマージュを入れているけど、自分たちが育った時代の音楽に直接言及したのは初めてだったから、そういう意味でもすごく面白かったね。
-グランジ、オルタナ、ブリットポップといった90年代のカルチャーは本作に大きな影響を与えているのではないかと思いますが......。
Andrew&Ben:そうだね。
Andrew:2000年代初期に大学生だったころもNINE INCH NAILSの「Closer」をカバーしたりしていたし、暗黙の了解みたいな感じで、90年代のカルチャー好き同士の絆があったんだ。他の音楽への共通の興味に加えてね。
Ben:それにあの時代の音楽は、いろんな意味でヘンさと優れたソングライティングのパーフェクトなコンビネーションだったと思うんだ。時には振り切りすぎたり、まったく動かなかったりする振り子みたいな感じ。あの時代の曲は"なんでこんなのが人気だったんだ?"と思ってしまうものが多いけど、よくよく見てみると単刀直入で素晴らしい曲たちだしね。
-その振り幅の広さが、特に今回のアルバムではMGMTに通じるものがありますね。続いて「Nothing To Declare」は、アコースティックを主体としたサウンドにエレクトロが絡み合う楽曲です。
Andrew:これも昔からあった曲のアイディアから来ているんだ。メロディがダイレクトなものを作るのは楽しかったね。感情を隠したり曖昧にしたりなどがあまりなかったから。これはDaniel Lopatinとコラボした曲で、彼の存在感が輝いている。フィンガー・ピッキングのアコースティック部分にSIMON & GARFUNKELみたいなヴォーカルが乗っていて、それを包み込むサウンドスケープがあるから、聴くたびに違う感触があるんだ。そういうものを目指して作った。いろんな人の手を通って、レイヤーを足したり編集したりしているうちに、最終的にはスプラッター・ペイントみたいな感じになったよ。
-続く「Nothing Changes」はアルバム最長の楽曲で、ホーン・セクションも取り入れつつドラマチックなクライマックスを迎える楽曲です。曲そのものだけでなく、アルバム全体としてもクライマックスと言えそうですね。
Ben:この曲のアイディアも結構長い間温めていたものだったと思う。初期のバージョンを思い出すと、もっとエクスペリメンタルな感じだった気がするんだ。僕にとってはアルバムの中でも一番率直な曲だね。とにかく躊躇せずに飛び込んでいく感じ。今僕たちが作っている曲の中では特にクールやヒップだったりするわけじゃないけど(笑)、何かしら普遍的な価値があるものだと思うんだ。うまく言えないけど。この曲では(本作のミックスを担当した)Dave Fridmannの息子のJonとアレンジ面でコラボできて、とても楽しかったよ。
Andrew:"Nothing Changes"というタイトルでありながらも、アルバムの中で一番壮大で、いろんなパートや様々な"変化"があるというのも気に入っているんだ(笑)。僕たちらしいユーモアでね。『Loss Of Life』の全体的なトーンを体現している曲でもあると思う。メランコリックな面があるかと思えば、不条理な音楽的アプローチもあるからね。
-エクスペリメンタルといえば、「Phradie's Song」もそうじゃないでしょうか。徐々にエクスペリメンタルな要素が増していく、アルバム後半を体現している楽曲ですよね。アルバムの構成も意図的なものなのでしょうか?
Ben:あの曲は、ラフなデモ・バージョンの段階からすでにエクスペリメンタルな要素があったところがクールだったと自分では思っているんだ。スタジオのPatrick Wimberly(プロデューサー)と、僕たちとDanielとの間でやりとりすることが多かった曲だね。みんなでレイヤーを重ね合って、エフェクトやスクラッチ・ヴォーカルを乗せていった。手を入れるたびに"おっ、クールだな"と思える発見があったね。歌詞はあまり意味をなしていないところもあるけど(笑)。すごくクールな雰囲気があって、その多くがファイナル・バージョンに入ったと思う。ドリーミーな感じが気に入っているんだ。
-アルバム全体の流れはどのように決めたのでしょう?
Andrew:Benが言っていたことにつけ加えれば答えになると思うんだけど、これはコンセプト・アルバムじゃなくて、代わりにダイナミックな連なりを通じてストーリーを伝えるような感じなんだ。終盤に向かってドリーミーで抽象的な流れにしたいというのがあったから、そこに「Phradie's Song」がハマった。他にもいろんな曲順を試してみたけど、これが一番しっくり来たんだ。この曲はシンプルな、Syd Barrett(PINK FLOYD/Gt/Vo)にも近いアコースティックなものから始まった。それの終盤に、Patrick Wimberlyが書いたピアノのコード進行をつけ足したんだ。奇妙な転調があるんだけど、後半に入るときにはあまり気づかない。そのふたつを組み合わせたときに、うまく言えないけど、実にMGMT的なものが固まってきたような手応えがあったんだ。ヘンな変化があっても自然に流れていくというか、あまり気づかないままに満足感を覚える感じ。でも細かいところまでよく見てみると結構異様なことになっているっていう......(笑)。
-わかります。自然な流れがありつつも、アルバムの流れとしてもいい意味で違和感を覚えるような配置になっている気がします。
Andrew:それから「Phradie's Song」は、全体の上におぼろげなベールがかかっているようなサウンド・デザインがあるんだ。本田ゆかが作ってくれたんだけど、グシャグシャにした紙をゴシゴシこすっているような感じの音。詳しくはないけど、彼女自身が病院かどこかで怖い体験をしたあとで作った音らしいよ。それもあって、幽体離脱的な感じがこの曲にはある気がする。
-最後の楽曲「Loss Of Life」は大胆にグリッチ・サウンドを組み込みつつポップなメロディも損なわれていない、まさにアルバムを象徴するような楽曲だと感じました。この曲についても教えていただけますか?
Ben:僕がスタジオで作ったものから始まっているんだ。ベーシックなコード進行とメロディを作って、それをAndrewとPatrickに送った。僕は普段あまりメロディを思いつくことがないんだ。Andrewが歌いたくなるものはなおさらで。だけどこのときは全員が"これは取り組むべきだ"と感じたんだよね。これもまた本当にたくさんのバージョンを経て、最終的にはDanielのスタジオに行っていろいろつけ足した。あのプロセスがクールだったのは、クールなサウンドがてんこ盛りで、あとはそれをどう削ぎ落とすかにかかっていたことだね。何が大切なのかに立ち戻って、そこにこの曲のあり方を見いだしたんだ。難しいことだけど、これのおかげで何かを手放すことを独学できた気がする。クールだからってひとつ残らず入れておかなくてもいい、一番重要なものだけをピックアップしようってね。
-それでも超クールでしたよ。
Andrew&Ben:(笑)
Ben:それでもいろんな要素が入っている曲だよね。もともとはたぶん倍くらい詰め込んであったんじゃないかな。
-時間をかけていろんなものをレイヤーにしたり削ぎ落としたりしているアルバムだったんですね。作業をスタジオでするのも心地よくできたのではないかと思います。12月中旬の現時点ではツアーの情報は発表されていないようですが、今後の予定や展望はありますか? 今後はスタジオ・ワークにより重きを置いていくのでしょうか。
Ben:スタジオ・ワークにより焦点を置くことになると思うね。と言ってもまだ大筋のプランがわかっていない状態ではあるけど。でも今回のアルバム作りを終えて、いつもよりインスパイアされた実感があるから、この流れを維持していきたいというのはある。
-日本では2020年の公演がキャンセルになっているので、ぜひ再来日してほしいところですが......。
Ben:そうなんだよね。あのとき行けなくて僕たちもすごく残念だったから。すごく楽しみにしていたんだ。それに僕たちはライヴもすごく好きだし、ファンと実際にコネクトして一緒にライヴを体験するのもいつも本当に楽しいから、自分たちのメンタル・ヘルスやウェルビーイングに支障のない程度にライヴ活動を続けていくにはどうすればいいか、今も模索しているところなんだ。
-スタジオとツアーのいいバランスが見つかることを願っています。最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
Andrew:『Loss Of Life』を聴いてもらえることを願っているよ。みんなの心に繋がるアルバムでありますように。また日本に行って、みんなに壮大なコンサートを見せたいなと思っているんだ。好きなツアー先のひとつだしね。
Ben:日本のファンのみんな、会えていなくて寂しいよ。何年も前にツアーがキャンセルされてしまったときは本当に申し訳なかった。ぜひまた行きたいと思っているよ。
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