Skream! | 邦楽ロック・洋楽ロック ポータルサイト

MENU

INTERVIEW

Japanese

小林柊矢

2023年02月号掲載

小林柊矢

Interviewer:石角 友香

自分が感じる愛や思いを伝えたい一心が、綺麗事と言われても臆さない。時代のトレンドがどうであろうと自分から出てくるメロディで勝負する。そんな突き抜けた誠心誠意が詰まった小林柊矢の1stフル・アルバム『柊』。2022年に配信リリースしてきた楽曲とアルバム曲がアルバムという時系列に並ぶとき、新たなストーリーが立ち上がるのも聴きどころだ。ラヴ・ソングもライフ・ソングも織り交ぜながら、声と言葉の力を信じて遠くへ届ける楽曲が並んだこのアルバムの背景、そして各々の曲の着想やアルバムとしての流れなど、EP時よりいっそう、小林柊矢という人が色濃く存在する本作についてじっくり訊いた。

-まず、去年の活動や出来事など、どういうことがこのアルバムの方向性を決めたと思いますか?

このアルバムのコンセプトといいますか、"愛"というのがありまして、「愛がなきゃ」って曲があるんですけど、これは1stフル・アルバムのリード曲となってるんです。本当に僕ひとりじゃ何もできないんだなぁっていうのを痛感した1年で。いい曲を作って歌ったとしても、それをアレンジして録って広めてくれる方たち、そしてもちろん聴いてくれるみんながいなかったらただのひとり言になってしまうというか。いろんな方々に支えられて、助けられて活躍できた、そんな1年だったと思うんです。僕ってチームに恵まれてて、周りが愛に溢れている方ばかりなんです。だから"愛がなくちゃ/何もかも意味を失くしてしまう"という歌詞があるんですけど、そんな自分の恵まれた愛に溢れた環境を詰め込んだ、そしてそんなことを痛感した1年をこのアルバムで表現したいなぁっていうのがありましたね。で、この"柊"って漢字も僕の名前からとったんですけど、これも親が大切にいろんな意味を込めて付けてくれたので、1stフル・アルバムという、また新たに小林柊矢が始まるきっかけのアルバムに、この大事な漢字も付けて。柊は棘が生えてるんですよ。だから厄除けとか魔除けとか、悪いものから守るって意味があったりするんですけど、みんなを悲しみから守れるというか、そんな愛が溢れた作品になればいいなぁって思いもあって付けさせていただきました。

-1st EP『あの頃の自分に会えるなら』(2022年3月リリース)収録曲や、デジタル・シングルの楽曲も収録されているんですけど、アルバム楽曲も多くて。

頑張りました(笑)。

-既発曲以外はほとんどアルバムのための新曲ですか?

ほとんどそうなんですけど、 1年前に作った曲が3曲あります。「矛盾」と「ふたつの影」と「小田急線」という曲ですね。

-「愛がなきゃ」と「笑おう」がどちらもドラマのタイアップで。ドラマのタイアップっていうことはお題があるわけですよね。そういう書き下ろしもひとつの新しいテーマだったと思います。この2曲は大きな愛っていうか、恋愛よりも人生とか仕事とか。

そうですね。何をするにもやっぱり愛が伴って、どんな人にも愛があって、愛して愛されてっていうのがあると思うので。だからこれは広い意味の愛ですね。

-「笑おう」はすごく切実な感じがしたんですよね。今非常に危うい感じの時代になってきているけれども、そのなかでも小林さんが心底"何かできないかな"と思ってる感じがすごくしたんです。

ありがとうございます。そうですね、「笑おう」は遊具で遊んでる子供たちを見て浮かんできた曲なんです。まだ僕21歳なんですけど(※取材は1月中旬)、子供を見てると懐かしいなぁというか、あの頃に戻りたいなと思う瞬間が多々あって。子供の頃の誰とでも分け隔てなく笑い合って遊ぶ、そんな気持ちをなんで大人になるにつれ忘れちゃうんだろう? って思ったんです。大人になっていくにつれ、世知辛い世の中に放り出されて。その大人っていう境界線は人間が決めたただの線引きであって、僕らと子供って何も変わりないと思うんですよ。なのにポンと"大人だよ"って言って世界に世間に放り出されて、お金の怖さとか、自分の努力に裏切られたとか、そういう世知辛い経験が小さい頃のすぐに笑える純粋な気持ちを忘れさせちゃうのかななんて感じたんです。特に今はコロナもありますしマスクで顔が見えないっていうので、笑ってるかどうかも伝わらない、そんな状況で笑う機会も減って。でも幸せだから笑うんじゃなくて、笑うから幸せが訪れるっていう言葉があったりもしますけど、その言葉がすごく好きで信じてるんです。だからこれは小さい頃にあったその記憶をどうか思い出して、"ほら笑ってよ"っていう曲ですね。

-日常から変えていけるんじゃないか? と。

うん。歌詞にも"あなただけが持つ素敵な笑顔があって/それは誰にだって伝わってゆく愛情で"ってあるんですけど、聴いているあなたひとりが笑えば、それにつられて笑う人もいて、またそれにつられて笑う人もいて、だから笑いっていいことしかないんですよ。だからあなたが笑うことで、何かをどうするとか大げさな大それたことはできないけど、ただただあなたが笑うことで幸せになる人もいるんだよっていうか。

-ウルフルズの「笑えれば」という名曲を思い出しました。

あれすごくグッときますよね。ウルフルズの「笑えれば」は、終わり良ければすべて良しじゃないけど、1日の終わりにいいことがあって、笑えればっていう曲だと思うんですけど、これは笑えればじゃなくて、もう笑うんですよ。笑ったあとにいいことがついてくるというか、順番は逆な感じがしますね。

-笑うという形が呼び起こすものがあるってことですね。

笑顔って人間同士しか伝わらないものじゃないですか。これを使わないのもったいないじゃんって思って。こんなにいい表現方法があるんだから、人間の特権どんどん使っていこうぜっていう感じですね。

-ライヴもようやく限定的に声が出せるようになったりしていますしね。

そうなんですよね。これ、最後に"LaLaLa..."っていうところがあるんですけど、みんなで合唱できたら、もう泣く以外の想像ができないです(笑)。

-小林さんもそうですし、同時期に活動を本格的に始めた人たちって、お客さんの全部の表情は見えないし、声援やシンガロングもないところから始めてるんですもんね。

はい。コロナ禍のライヴしかやったことないので、それが今普通になっちゃってるんですけど、例えば声が出せるようになってマスクもとれるようになって、みんなと肩が組めるようになったらって想像するだけで、本当に楽しみしかないというか、希望に満ち溢れていますね。

-逆にお客さんに助けられる部分が少ない状態から始めてるから、強いといえば強いかもしれない。

そうですね。声援もなしで、顔も見えず、その人が笑ってるのか退屈な顔してるのかわかんないわけですよ。手拍子とかしてくれても、顔はわかんないっていうのが本当に最初不安だったんですけど、それが普通なので。ここから笑顔が見えるようになったらどんだけ楽しいんだろうっていうのはありますね。

-まさにこれからですね。そして冒頭の2曲が大きな意味での愛を感じるもので、そのあとの流れが面白いんですよね。既発曲も含めて新曲がはさまれていることで、"この曲の続きがこれだったのか"みたいな聴き方もできて。

あぁ! そうなんです。

-既発曲以外の新曲はアルバムを構成するために作ったわけではないんですか?

もとからある「矛盾」という曲は「君のいない初めての冬」と同時期ぐらいに作ったんです。どっちの曲でメジャー・デビューするかで迷ってたんですよ。だからたぶんコンセプト自体は似てるんですけど、「矛盾」もインスタライブでちょっと歌ったときに結構反響があって、"出してほしい"という声をいただいて"入れよう"って決意をしたんです。

-「白いワンピース」も先行配信されてましたけど、この楽曲はsoundbreakersのアレンジもあり、ソウルフルな感じでストリングスのアレンジが懐かしい感じですね。

ちょっとノスタルジックというか、往年の歌謡曲をイメージさせるコンセプトで作りました。

-「白いワンピース」のときのふたりの状況は素朴っていうか。

リアルですよね。

-この感じは夏でもあり、彼女のほうが大人に見えてみたいな感じもちょっとあり。

でも僕の曲は男が引っ張られてる曲が多いです。たぶん僕がそういう人なんでしょうね。