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INTERVIEW

Japanese

小林柊矢

2023年02月号掲載

小林柊矢

Interviewer:石角 友香

-「スペシャル」っていう曲もsoundbreakersのアレンジですけど、2番のアレンジはチャレンジですね。

そうですね。ちょっとベースの音をちょっと重くして、ガラッと印象を変えてみたんですけど。この曲も「白いワンピース」のときと似ていて、素朴さというか、人間って贅沢なことを想像しがちじゃないですか? 冬といったら例えば昔は七面鳥食べて、とか高級車に乗って迎えに行くとか、そんな大それたことはできないけど、僕は君とこうやって寒い夜を越えられるだけで、すごくスペシャルな気持ちになるんだっていう歌ですね。だからこれもリアル感をちゃんと意識した曲というか。

-冬の寒さや不自由さを感じない生活だったら、"この日々があたりまえにならないように"っていう歌詞が出てこないでしょうね。四季があって、夏は死にそうに暑いし、冬は凍えてるし。

季節が変わるたびに思うんですよね。ずっと同じ季節だったら本当にありきたりな毎日だなっていうか、ふたりの関係を飽きさせないように季節が変わってくれてるんだというか。僕はそんな捉え方をしましたね。

-生活の小さな変化みたいなのがあるからこそ、それこそタイトルの"スペシャル"なことが起こるっていうことですね。これが1年中暑い国や寒い国だったらどんな歌になるんだろうって。

想像しますよね。どういう曲があるんだろうとか、どういう恋愛ソングがあるんだろうとか。でもやっぱり日本に生まれて良かったなぁっていうのはありますよね。季節があって。キラキラしてるウィンター・ソングが日本にはありがちですけど、この日常のリアルな、まだふたりで精いっぱい暮らしているというか、これはそんな方たちの冬ソングですよね。

-アウトロがアカペラ風なのも聴きどころで。

そうなんです、ここ頑張って全部僕の声なんですよ。

-前半は恋愛初期衝動的なかわいい感じで物語が進んでいって、素朴なふたりを描いた「スペシャル」のあとで早くも「君のいない初めての冬」になります。

ははは! そうなんですよ。曲順考えるとき、ちょっと急かなと思ったんですけど、季節感を大事にしたいなっていうので、この2曲は"冬コーナー"ですね。

-「スペシャル」のあとに「君のいない初めての冬」がきて、この流れで聴くと余計に迫るものがあります。

たしかにふたりがいい感じというか、ラブラブしてたのにこれ? ってなっちゃうのがアルバムになって並ぶと、また聴き方変わってきますね。

-「君のいない初めての冬」の主人公は、彼女がつらいときは自分のことを思い出すだろうとちょっと思ってるわけですね。

思ってますね、はい(笑)。

-より切実な感じしますよね、この流れで聴くと。

そっちもこっちもそんなスタンスですよね。希望を捨てたくないという。

-「矛盾」が「君のいない初めての冬」とコンセプトが近いというのもわかります。すごく正直な内容で。

正直ですよね。細かいことになっちゃうんですけど、歌詞の"駅前のワッフル"って、町田駅のワッフル屋さんなんです。

-小田急からJRに乗り換えるとき、いつも思います(笑)。

わかりますか? そうなんです。そこなんですよ。あれ、もう通らざるを得ない匂いを発してて、本当にずるいですよね。マルイ側じゃないほうでもどっちでもJRの駅に行けるのにわざわざそっち通っちゃうっていう、もう町田駅でしか出せないこのAメロがあるわけですよ。嗅ぎたくなくても漂ってくる、嗅ぎたくてそこを通ってしまうこの矛盾というか。匂いって、なんであんなに忘れられないんですかね?

-記憶と結びついているっていうのもあるんでしょうけどね。

目に見えないじゃないですか。それを忘れられないっていうのは残酷ですよね。

-単なる失恋とか別れとかじゃなく、そのときに自分がどういうことを考えているのかも浮かび上がってなかなか深いです。しかも「矛盾」があとの「惑星」に生きてくる感じがするんですよ。

え? 本当ですか?

-「惑星」のふたりはもしかしたら先の未来かもしれないなと。"僕ら弱い者同士"という歌詞もありますし。

はい。「惑星」は聴いてくれてるみなさん、ファンに書いた曲で。人間生きていれば平等に悲しみがあって、絶対別れがあって、必然にやってくる。絶対やってくる悲しみにどう対抗するか、それはやっぱり埋め合っていくしかないんだなって。だから悲しいことがあったり苦しいことがあったり、もうたまらないことがあったら僕のライヴに来て埋め合っていこうみたいな、そういう意味合いも込めて書いた曲なんです。だから僕もみんなと同じ人間で本当に弱くて。だから弱い者同士、ライヴという場で、もしくはこの曲を聴いてもらって埋め合っていこうって曲になってますね。

-なるほど。恋愛の曲もあって、最終的には例えば家族を思わせる曲もありますね。「ふたつの影」はお母さんのことなのかな? とか。

そうです。母に書いた曲です。

-どんどん範囲が広がっていく、しかも小林さんがちゃんと実感していらっしゃる無理のない範囲というか。お母さんもわかるでしょうね、この曲を聴いたら。

これ聴かせましたね......泣いてました。これ実はひとり暮らしを考えた時期がありまして。まだ実家暮らしなんですけど、そのときに書いた曲です。例えばそれは1個の捉え方で、いろんな意味に重ねられると思って。恋人だったり家族だったり、例えばペットだったり、死別だったり。僕、4匹ペット飼ってたんですけど、もう全員亡くなっちゃってて。

-それはご家族で飼ってらしたんですか?

そうです。猫2匹、犬2匹飼ってたんですけど、一番長生きだったのはあと2ヶ月で20歳だったんですよ。僕の1個違いでずっと兄弟みたいに育ってた猫が亡くなっちゃったんです。ずっと家に帰ってそいつがいるのが当たり前だったんですよ。その日々もだんだん塗り替えられちゃって。今はもういないのがだんだん当たり前になってきて、だから歌詞にもありますけど、"この世界は嘘みたいに/いつもと同じ暮らしに戻る"、"いつの日かあたりまえに/なってしまうのかな"っていう。だからいろんな捉え方ができて、いろんな重ね方ができる曲になってるかなと思います。

-家族の中でも特に世話をする人とかいるけど、それって他の家族の記憶でもあるわけで、これから年齢を重ねるごとにいろんなことが起こっていくわけですね。

そうですね。必然にやってくるというか、それも歌詞ですけど。

-そうなると「死ぬまで君を知ろう」も個別で聴いてたときと......。

また違いますよね。

-単体で聴いてる時は結婚する人なのか、生涯一緒に生きていく人っていう印象だけど、範囲が広がる気もするし。

そうですね。これ広がる気がします。この"死ぬまで"の文字がより刺さるというか。