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INTERVIEW

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澤田空海理

澤田空海理

Interviewer:蜂須賀 ちなみ

"アイドルマスター"シリーズやTVアニメ"五等分の花嫁∬"のキャラソンを手掛け、シンガー・ソングライターの足立佳奈に楽曲を提供するなど、作編曲家としても活動するシンガー・ソングライター、澤田空海理がミニ・アルバム『振り返って』をリリースした。リリースを重ねるごとにその表現は赤裸々になってきているが、それを踏まえても今作での曝け出しようは段違いだ。特に、1曲目「与太話」には驚かされる人も多いことだろう。どうしてこのようなアルバムが生まれたのか。それを探るため、今回のインタビューでは、「与太話」誕生の背景から、同曲を中心にアルバムが形作られていくまでの過程を語ってもらった。

-今回のアルバム、サウンド的には温かみがあって透明感もあるけど、歌詞にはかなりえぐみがあって。驚きました。

いや~......ねぇ(笑)。

-"ねぇ"と言われても(笑)。振り返れば、前作『魚と猫』(2020年リリースのアルバム)は澤田さんの人間関係にまつわる実体験を、恋愛モノに落とし込む形で作った楽曲を収録した作品でした。しかし、昨年3月にリリースされ、今作にも1曲目として収録されている「与太話」は別の何かに置き換えたりせず、ご自身の経験をかなりダイレクトに書いた曲ですね。

はい。「与太話」は2020年の後期に作ったんですけど、『魚と猫』をリリースしたあと、大事な人と離れました。その人に言われていたのが、"アーティストとしての自分と人間本体としての自分の境目がなくなってない?"ということで。要はクリエイティヴのために悲しくなろうとしている、人を蔑ろにしている、というふうに言われたんです。

-実際そういう傾向ってあったんですか?

そんなことはしていないつもりだったんですけど......わからないですね。自分のことは客観視できないので。でも"曲を書くためには仕方ない"と思っていた部分はたしかにあって。例えばちょっと喧嘩っぽくなったとき、呑み込むふりをして受け流すのが一番の得策だと思うんですけど、そういうことをせず、何か刺激のある方向に持っていこうとしていたかもしれないなぁと今では思いますし。あと、"失恋しているときの自分が一番いい曲を書いている"みたいなことをグチグチ言い続けていたので、手段と目的が逆になっちゃっていたんだと感じます。

-最初は"傷つくことがあったとしても、曲にすればどこか救われる部分がある"という気持ちから始まったはずなのに、いつの間にか"自分はそうやって生きていくべきなんだ"、"だから幸せにはなれないんだ"という業のようなものに変わっていたというか。

まさに。業だと受け取ったんでしょうね。なので、相手の人からそう言われたとき、"その通りだなぁ"と考え始めたんですけど、考えている矢先にその人は離れていってしまって。それが悲しかったので、2020年12月ごろは夜中ずっと散歩をしていたんです。深夜2時頃に家を出て、2~3時間くらい歩いて、日が昇る前に家に帰ってくるということを毎日繰り返して。当時はただただ悲しくて"この経験を曲にしてやる!"という感じではなかったんですけど、散歩しながらスマホでポチポチと言葉を打っている間に、「与太話」のファースト・プロットができました。

-なるほど。そうして溢れるものを制御せず書き留めていったからか、歌詞はかなり長いですし、最終的に7分の大曲になりましたね。

僕もびっくりしました(笑)。今できあがっている歌詞はほぼファースト・プロットのままなんですよ。最初は"歌にするにはちょっと削らなきゃ"と思ったんですけど、そうすると意味がなくなるんじゃないかと思って。

-形を整えるよりも、ありのままの状態で残すことのほうが大事だった。

そうですね。当時は"今この感情をどうしたらいい?"って気持ちだったし、いい歌を作るというより、今自分に起こっていることを全部書いてみようという感じでした。本当にギリギリの精神状態の中で書いた歌詞なので、実際どれくらい僕の自我によって書かれたものなのか、曖昧なんですけど......たしか"夜中の、在って無いような信号機。/それを律儀に守る午前二時。"という歌詞が最初に出てきて、そこから書いていったのかなと思います。

-相手の方に"アーティストとしての自分と人間としての自分の境目がなくなってない?"と言われたとのことでしたが、歌詞ではまさにそこに言及していますね。

もともとは、"僕はアーティストとして生きていきます"ということが書きたかったんですよ。だけど......最後のほうに"でも、こうやって生きるしかない、/とは思わない。臍を噛んでいる。"という歌詞があって。

-断言しきれず、何か躊躇っているような歌詞ですね。

はい。「与太話」は完成するまでに3ヶ月くらいかかったんですけど、作っているうちにどこか冷静になる瞬間があって。たぶんそこで"いや、そうじゃないぞ"と気づいたんでしょうね。その人のことは人間的に大事にしたいと思っていたはずだよな、と。この部分、最初は"生きるしかない"で句点を打ってラスサビに入る構成にしていたんです。そのほうが趣旨はブレないんですけど、ブレたとしても、そのときの感情が正しいなと思ったので"とは思わない"を入れることにしました。

-「与太話」は2021年3月に発表されたシングル『夜気』に収録されましたが、そのタイミングで、アーティスト名義を"Sori Sawada"から本名の"澤田空海理"に変えていますね。こちらについては?

これはもう"「与太話」をリリースするから"に尽きますね。Sori Sawadaという名義がある種盾になっていたと思うんですよ。例えば人を種にして曲を作ったとしても、"それを発表しているのは俺じゃなくてSori Sawadaだし"と言えてしまうじゃないですか。だけど、こっちはひとつ仮のパーソナルを挟みながら言いたいことを言っているのに、向こうはそれを生身で受けるなんて、嫌だしフェアじゃないと思っちゃって。自分のクリエイティヴに責任を持ちたいと思って、本名名義に変えました。名前も珍しいですから、検索したら一発で出てきますし。そういうふうに自分の人生から逃げ道をどんどん削っていこうかなと。

-「与太話」は2020年後期に作ったとのことでしたが、それ以降は今回のアルバムに向けてずっと制作をしていたんですか?

いや、2021年はただの屍でした。ずっと家に引きこもっていたし、曲もあんまり書いていなかったし......作家仕事はしていましたけど、それ以外は何をしていたのか、自分でもあんまり覚えていません。ただ、日記はつけていましたね。

-日記にはどんなことを書いていましたか?

今見ると結構怖いんですけど......"Sori Sawadaは痩せてなければならない。文学的でなければならない。繊細でなければならない"とか。もはや強迫観念ですよね(苦笑)。あと、こんなのもありました。"死ぬときに人に囲まれていたいか。それによって創作の方向が決まる。人を生贄にするなら、囲まれる人生は望まないほうがいい。囲まれる人生を望むんだったら、今の作り方は向いていない。アーティストになるために人生を犠牲にするか、しないかを考えたい"......いいこと書いてるなぁ。

-「与太話」の歌詞は約1年前のものですが、この1年間でそのあたりの結論は出たんですか?

どうだろう? ......あ、でも出ていますね。今年の頭くらいにこう書いているので。"自分の人間的な欠陥を嫌というほど痛感した。直そうという努力もしない。それが音楽に結びつくのも確かだから、音楽以外の自分を知られたら怖い。音楽を通じて評価されるんだったらそれが一番いい。誰かにとって人間的に価値がある人にはなれないから、音楽的に価値がある人になりたい"。

-人間的に価値がある人になれない、と決めつけるのは早い気がしますけどね。

いや、なれないでしょう。僕、こんな人間とは絶対に付き合えませんもん。人として。

-うーん......。

あと、"ここがあいつの全盛期だと呼ばれる作品が作りたい、人間として最後の1枚を作ろうと思った"とも書いてありました。

-それは今作『振り返って』のことですよね。

そうですね。今の僕のように、自分が"悲しい"と思う気持ちを前面に押し出した音楽って、寿命が早いんじゃないかと思うんですよ。だからこういう音楽は30歳くらいまでに卒業しておきたい。例えば30代後半になっても、未だに"君が好きだったんだ"みたいなことを歌っているのは――

-いや、そういうアーティストもいますよ。

そういうアーティストも好きなんですけど、僕自身は、そういう出来事が起こったときにそういう表現をする人で在りたいと思っているんですよね。

-"澤田空海理はこういう曲を作るアーティストだ"と振り切って、キャラクターをある種演じながら音楽をやるのではなく、等身大の自分自身から出てくる表現をしていたいということですか?

そうです。逆に言うと、正直、レーベルとかに所属することになって澤田空海理を売ろうという段階になったら、"売れる曲を書きますよ"というモチベーションにまで来てはいるんですよ。

-あぁ、だから"人間としての最後の1枚"なんですね。

はい。だけど今はそうではないから、ならば、"せめて瞬間最大風速があるうちに残せるものを全部残しておかないと"と思って、他の曲を作り始めました。今までの活動ペースからしたら、2~3年後にアルバムを出すのもあり得たと思うんですけど、そういう考えがあったので今回はちょっと急ぎましたね。