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INTERVIEW

Japanese

森 翼

2022年01月号掲載

森 翼

Interviewer:秦 理絵

-たしかに森さんはメジャー時代から"変わりたい"って歌うことが多かったと思います。ただ当時と違うのは、例えば今作の「My way」なんかもそうだけど、これまでに生きてきた人生を肯定したうえで、変わりたいって歌ってることかなと思ったんです。

あぁ、たしかに。音楽をやる前の学生の頃から、今もずっと僕は自分のことを否定し続けてるんですよ。幸せになんかなったらあかん、ぐらい(笑)。でも、その否定してた自分に対しても、"もういいや"と思ってて。どうせこれからも自分のことを否定しちゃうよってことも含めて肯定していく。今はそういう気持ちで「My way」なんかを書けるようになりました。自分に関わってくれてる人たちが幸せになってくれればいいって、ほんまに一番思ってるんです。もしさらに夢が叶うなら、今まで僕と出会ってくれた人、いい別れ方した人、嫌な別れ方した人、嫌われてる人、ずっと好きでいてくれてる人、僕と出会ってくれた人全員がハッピーになるような曲ができたら最高っすよね。

-そのために自分はいい曲を作るしかないと。

うんうん、そうですね。

-あと、個人的には「Hello」がすごく好きです。シンプルな曲調だからこそ森さんのメロディの良さがすごく際立っていて。

この曲を作ったあたりから、自分を歌わなくても自分って出るんやと思えるようになってきたんですよ。あの物語に僕は登場しないんです。でも僕が思ってること、言いたいことは言えてるんですよね。だから曲ができたのも早かったです。朝、散歩してるときに自然とメロディも歌詞も出てきたので。

-これは親目線の歌ですよね。どういうきっかけで書いたんですか?

うちはおかんだけの片親で。僕、音楽をする前は剣道少年でめちゃくちゃ強かったんです。

-全国大会とかに出ちゃうくらい?

はい(笑)。スポーツ推薦ならお金かからへんから、剣道を続けなさいって道場や学校の先生に言われてて。中学で家出をしたときに"音楽やりたい"って言ったら、みんなに反対されたんです。でも、おかんだけが"思うようにいかんかもしらんけど、あんたが思ってるように1回生きてみてほしい"って言ってくれて。

-素敵なお母さんですね。

おかんはやりたいことをやってこれなかった人生やったらしいんです。それが嫌やったとか悲しかったとかじゃなくて、その前に現実としてやらなくてはいけないことが若いときからあったんですよね。そうやって僕と姉ちゃんを育ててくれたんです。そのおかんが"音楽を1ヶ月後にやめたとしてもいい。やってみたことをやめることにも価値はあるし、これから何回やりたいと思えるものに出会えるかわからへん。今ほんまにやりたいか、自分でもわかっていないかもしれんけど、確かめる時間を作ってもいい。あんたの思うようにやってくれたら、私はこの子と出会って良かったって一番思えるから"って言ってくれて。そこでひとりの人間として見てもらえた気がしたんです。

-それが"もう子供じゃない 一⼀人の人"という歌詞に繋がっている。

そう。その言葉にすごく背中を押されたんですよ。親子の関係性じゃなく、将来を見据えて、この人の人生、命みたいな感じで人間として話してくれた気がして。

-そうなると余計に自分の物語として書いてしまいそうなのに、あえて"私"と"あの子"と"老人"というモチーフで書き切ったんですね。この曲、"腰を丸めた老人が「アメイジング・グレイス」の口笛を吹いている"っていう描写が、すごくいいなと思ったんですよ。いろいろな長さの人生が詰まった曲だなって。

あ、すごくよく聴いてくれてますね。結局ね、これは僕の期待の歌なんです。自分が思い描いてる朝が絶対来るからっていう、自分に対してのエールなんですよね。上京してから音楽業界に入って、音楽業界の中でしか音楽を考えられなかった時期もあったんです。でも今はそれよりも自分の生き方のほうが大きいって気づけた。そのなかで僕は音楽が好きになったんだよっていうことを言いたかったんです。この世界で音楽をしていくことがすごく寂しかったんですよね。それは今も思ってる部分はあるけど。前よりも人生の中で音楽をやってるって思えるんです。

-だからこそ、今回のアルバムは森さんの人生そのものみたいな歌が多いのかもしれないですね。中でも「針と糸」は、まさに生きるとは何かということを歌っていて。

これは渋谷のeggmanでライヴした帰り道に作った曲です。その日もいいライヴだったんですよ(笑)。でも、いいライヴができたらできただけ寂しくて、これが何に繋がってるんやろうとか思ってしまって。そのときに地元の友達に電話をしたら、"東京って人いっぱいおるんやろう?"って言われたんです。たしかに周りにむちゃくちゃ人はおるし、車の音もうるさいけど、僕の周りは無音というか。誰も自分のことなんかおらへんものとしてるんちゃうやろかとか、自分しかおらんのかとか思って。どっちにしてもきつい。で、いつも自分は答えが出ぇへんことばっかり考えてしまってるなっていうのが、歌詞のヒントだったんです。カミング・アウトというか、ちょっと心細いところから歌ってみようって。

-生きるとは何かっていうことを逡巡していますよね。戦うこと、自分を知ること、誰かを守ること、信じることっていうふうに、いくつも投げ掛けていて。

でも、やっぱり自分を否定してしまうんですよね。"自分を許すこと"って歌ってるじゃないですか。いつか自分を許してあげたいという気持ちがあるんやと思います。

-この曲に時計の秒針が時を刻むような音が入ってるのも良かったです。

ライヴでも、この無機質だけど温かみも感じられるようなアレンジでやってるんです。こういう曲って弾き語りになりがちなんですけど、フリー・テンポで歌うよりも、逆に脈拍というか、一定のリズムが欲しかったんです。それぞれ寿命は違うけど、時間は決まってるし、そのなかで何を思っていくかということを表すためにリズムを入れてるんですよ。

-アルバムのタイトルを"naive"にしたのはどんな意味が込められているんですか?

"naive"って繊細という意味に思われがちなんですけど、世間知らずという意味もあるんですよ。僕がポニーキャニオンから最後に出したアルバムが『コワイモノシラズ』で、それに近いタイトルを付けたいなと思って。裏テーマとしては、世間知らずで、まだ僕には知らんことがたくさんあるっていう意味になるのもいいなと思いました。

-わかりました。最後に次回作について少しだけ聞ければと思います。クラウドファンディングのHPに、"1曲レコーディングした段階で予算オーバーしてしまった"と書いてありましたが。

マジです(笑)。さいとうりょうじ君と一緒に作った曲ですね。今まで僕は誰かとコライトをしたことがなかったんですけど。森 翼の歴史とか、本人からは言われへんような言葉もあると思うからって作ってくれて。彼の頭の中で鳴ってるサウンドとか、理想のバンド・メンバーで全部録ってみようってあれもこれもやってたら、お金がなくなりました。で、クラウドファンディングっていう仕組みを使うことにしたんです。

-なるほど(笑)。

いろんなリターンを作った中に畑に来れるよっていう、僕的には目玉なリターンがあるんですけど。誰も申し込んでくれなくて! 今から種を植えて来年の春に収穫しようと思ってるんですね。で、その最後の収穫をやっていいよ権のリターンなんて、もう絶対に取り合いになるやろなと思ってたのに。え? そんなに人気ないの? って(笑)

-あははは(笑)。このインタビューを読んで、どれだけ森 翼にとって畑が大切なものかを知ってもらうことで、リターンに興味を持ってもらえたらいいですね。

よろしくお願いします(笑)。

-森さんがデビューされた当時はそもそもクラファン(クラウドファンディング)なんてない時代だったじゃないですか。でも今はそういったものを利用することで、曲を作る感覚は変わりますか?

自分たちが作ったもののゴールをここに持っていきたいとか、そういうイメージをふくらませやすくなったなと思ってますね。クリエイターが主導権を握りやすくなるというか。メーカーとか事務所、スポンサーっていう予算を組む会社がいる場合って、その人たちの理想もあるから、作るものの純度が高くなるメリットはあるけど、逆にチームの信頼関係によってはそれが薄まっていく危険性もあるんです。その危険がクラファンによってなくなった。僕はファンの人ですらなかなか信頼できひんかったから......それは僕に問題があるんですけど。クラファンで信頼できるいいチームと組むことができれば、自分だけじゃできひんことを誰かに預けるっていう強さを最大限に生かせるんですよね。

-お話をうかがってみて、今後森さんが独自のスタンスで音楽シーンを戦っていくという決意を感じました。今の自分のスタンスをどう捉えていますか?

前までは周りの人の顔色を窺いながらやっているところもあったんです。それは好きでやってたんですよ。みんながいいなと思ってくれるものを作りたいとか、音楽業界の中で、こんなものがあったらいいんじゃないかなっていう気持ちだったんですけど。今はそういうのが飽和してる。新しい流行りが次々に生まれているなかで、もう初心に戻って。ピュアに自分がやりたい音楽をやってもいい時代な気がするんです。ものを作る人からしたらラッキーな流れにもなってきているので。

-インディーズもメジャーも関係ないと言われたりしますもんね。

みんなが横一列に並ぶ感じですね。誰でもチャンスがあるし、お客さんが直に選べる時代になってる。そういうなかで自分がやりたいことをやって、それを選んでくれる人が増えたら嬉しいなという感じです。そうやって生きられたら自分でも納得できると思うんですよ。選んでもらうために作ろうとすると、また同じ道を行ってしまう気がするから。

-そういえば、森さんは今年に6月にヴィジュアル系バンド、MIMIZUQのヴォーカルとして加入しましたよね。これはビックリしたんですけど。

畑をやるタイミングで、TwitterのDMに、"ヴィジュアル系バンドのヴォーカルをやってほしい"っていうのがきたんですよ。で、Daichi(プロデューサーの鈴木Daichi秀行)さんと、"36歳からヴィジュアル系バンドをやるかもしれない。新しい畑にって言ったけど新しすぎる"っていう話をしてて。もともとCASCADEのヴォーカルの方(TAMA)がやってはったんですけど。1年間くらい3人だけでヴォーカル不在で活動してるのを見させてもらってたんです。で、僕より先輩だから学べることも多くて。これは新しい挑戦やなと思ってやることにしました。

-もう何度かライヴもやられてるんですか?

やりました。川崎のCLUB CITTA'で対バンをやったんですけど、やっぱりポップスのイベントとは違う空気感なんですよ。楽しみながらやらせてもらってます。そのバンドで来年1月にワンマンがあって、周年企画をやっていこうと思ってるので。来年は自分のソロのアルバムのリリースだけじゃなくて、MIMIZUQのほうも活動的になっていきますね。

-30代半ばを過ぎて新しいことをやれるってなかなかないですよね。

僕が今から"ヴィジュアル系バンド組みたいんすよ"って言っても、普通は組めないじゃないですか。でも誘ってくれたからいける。初めての場所では自分は1年生なんです。そうなると、逆に自分もいろんな現場で1年生の人と出会ったときに、その人のために言わなあかんことがあるんやと思ったり。音楽以外でも勉強になりますね。

森 翼
RELEASE INFORMATION

ALBUM
『naive』

NOW ON SALE
※通販/配信リリース
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MIMIZUQ
LIVE INFORMATION

"MIMIZUQと時巡りの列車~孵化~"
1月8日(土)渋谷REX
OPEN 17:00 / START 17:30
[チケット]
会場チケット:¥10,000(D代別/終演後5shot撮影会付き)
配信:視聴券 ¥3,000 / 視聴券+セレクト映像データ ¥10,000 / アフタートーク配信 ¥1,500
アーカイヴ配信:~1月14日(金)23:59
■一般発売中
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